2020年6月30日、ビジネスチャット「LINE WORKS」を展開するワークスモバイルジャパンは、老舗温泉旅館とエステサロンのリーダーをゲストに招き、コロナ渦でのコミュニケーションを語るトークイベントを開催した。LINE WORKSを中心としたデジタルツールを活用し、いかに緊急事態宣言の休業を乗り越えたか? 興味深い取り組みが次々と飛び出した。
リピーター客に愛されてきた老舗温泉旅館とエステサロン
「会えなくても仕事が進む!Episode1 休業を乗り越えた経営者に聞く!強い現場のつくり方」と題した初のトークライブは、老舗温泉旅館とエステサロンの現場を率いるリーダーがゲスト。モデレーターを務めた私としても、普段なかなか聞けない業界の生々しい話を聞けるとあって、非常に興味津々だった。
1人目のゲストは宿泊業界を代表する箱根の老舗旅館「和心亭豊月」の専務取締役 杉山 慎吾氏だ。
標高800mの奥箱根に位置する和心亭豊月は、芦ノ湖を一望できる老舗旅館。露天風呂や天然水の貸し切り風呂のほか、四季折々の旬の食材を使ったモダン懐石が自慢で、どの旅行サイトでも非常に高い評価を得ている。大手ホテルで経験を積んだ杉山氏は2009年に実家である和心亭豊月に戻ってきたという。「15室の小さな旅館で、今流行の露天風呂付き客室などもありません。でも、長らくリピーターのお客さまに助けていただき、いまも約40%がリピーターのお客さまです。とにかくお客さまにも、従業員にも、やさしい旅館であることは胸を張って言えます」と杉山氏は語る。
2人目のゲストはエステ業界代表となる株式会社アンジェラックス 最高人事責任者 CHRO 大杉 一真氏だ。
今年34年目というアンジェラックスは東京4店舗、福岡1店舗、長野3店舗でエステサロンを経営している。六本木のIT企業で働いていたという大杉氏は、杉山氏と同じく経営立て直しのために実家に戻った口。「有休などが当たり前にある業界から、有休ってなに?という現場にやってきました」と語る大杉氏は、「働きがいのある会社」にランキングされるようになるまで、働き方や組織文化を大きく変えてきた。和心亭豊月と同じくリピーターが多いのも特徴で、「今回のコロナ渦でもリピーターのお客さまに助けられてきた」(大杉氏)と振り返る。
会社紹介・自己紹介を終えた後、モデレーターの私が二人に質問したのは、コロナ以前の業界としての課題である。今回のコロナ渦でこれらが覆い隠されてしまった感があるが、コロナ以前だって日本は課題先進国で、決してハッピーだったわけではない。人口減少や少子高齢化、市場の縮小、地方経済の崩壊、自然災害など、さまざまな課題を抱えているが、これを二人はどうとらえているのかは聞いてみたかった。
杉山氏は、宿泊・観光業界の課題として、この10年で一気に成長したインバウンドの需要にきちんと対応できていないことを挙げた。「お客さまを呼びたいけど、人がいない。労働集約的な産業なので、人がいないとサービスが成り立たない。離職率も高いし、地方の住環境も整ってなかった」と、大きく人材の問題を挙げた。
大杉氏が挙げたのも人材の問題。加えてサービス業は全般的に働き方改革が遅れており、離職率も高いという状態だった。加えて、デジタルトランスフォーメーションがまったく進んでおらず、「カルテがいまだに紙だったり、Webでの予約もできないので電話対応。自社で集客ができないので、集客メディアに依存している状態」と大杉氏は指摘する。
売上95%減!コロナ禍の影響と試行錯誤を語る
続いてコロナ渦のビジネスについて話を移す。和心亭豊月は、2月から影響が出始め、3月まではなんとかやってきたが、緊急事態宣言を受けて4月6日に休業に踏み切った。休業の結果、4月の売上は95%減という辛い状態に陥った。営業を再開した5月もゴールデンウィークも逃したことで85%減だったという。
旅館・ホテルは自粛要請の対象に入っていなかったが、多くの宿泊機関が休業に踏み切った。課題だったのは先行き不透明感。「旅は楽しきものなのに、お客さまの旅行の機運が下がっていました。受け入れ側も、どうやって受け入れてよいか迷っていました」と杉山氏は語る。
一方のアンジェラックスも東京と福岡の店舗は早々に休業したが、長野県は感染者が少なかったこともあり、縮小しながらも営業を続けていたという。「東京や福岡で売上が上がらない分、長野のメンバーが奮起してくれました。それでも昨対で5割を切るくらいには行ってしまったので、打撃は大きかった」と大杉氏は語る。5月に入ってからも苦境は続いているが、新規も8割程度の客足が戻ってきており、他の業界よりは回復が早いとみている。
コロナ渦の悩みとして旅館とエステサロンで共通しているのは、テレワークが難しい業界という点だ。「お客さまがこの旅館に来ることではじめて役務の提供ができる産業なので、バーチャル●●が難しい。だから、お客さまを迎えることを前提に、除菌対策などはものすごく考えました。アルコール除菌をお願いする回数、タイミングから検温の是非まで、滞在中のあらゆるシーンでの安全、安心を突き詰める話し合いは何度も長時間に及びました」と杉山氏は運営における試行錯誤について語る。
アンジェラックスはマーケティングができないというのが悩みだった。「自信を持ってお店に来てくださいが言えないし、角が立つ。既存のお客さまとどうつながるかを真剣に考えた」(大杉氏)とのこと。結果としてやったのはなんと紙の手紙。リピーターに対して、社長直筆のお手紙を2回ほど送り、休業の背景や店舗でのコロナ対策について切々と説明したという。