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鳥居一豊の「コンパクトスピーカーが好き!!」 第4回

カナダ発のブックシェルフ、パラダイム「Premier 200B」の美しさ、忠実性

2020年07月10日 17時00分更新

文● 鳥居一豊 編集●ASCII

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セッティングを済ませたPremier 200B。

濁りのない清らかな音色で、音場が広々としている

 では、いよいよ試聴だ。

 サイズは130mmウーファーのB&W 607と比べて一回り大きいが、ブックシェルフスピーカーとしては一般的なサイズだ。透明度の高い爽やかな鳴り方で、解像感もかなり高いが、感触としては柔らかいことが印象的。「YMO/TECNHODON」から「ポケットが虹でいっぱい」を聴くと、フワリと浮かぶようなシンセサイザーの音が屈託なく広々と広がり、音場の広さがただものではないことが分かる。高橋幸宏の色っぽいボーカルも実にニュアンス豊かだ。

 ドラムやパーカッションなどのアタックも極めて速く立ち上がり、響きの余韻までスムーズに描き出す。そのため、耳に刺さるような鋭い音でさえ、どこか柔らかな感触に感じるほどだ。

 「ヨルシカ/花に亡霊」でも、可愛らしい声をナチュラルに描くし、声を張ったときの力強さや歌い出しの前に漏れる吐息のニュアンスが鮮やか。歌い方の変化を豊かに再現することもあり、明るく色彩感にあふれたイメージの音色になる。サビの部分で、ギターやドラムスが加わってパワフルな演奏になる部分も、ギターの指の動きが分かるほどに音の変化をきめ細かく描き、いくつかの楽器が一斉に音を出しても混濁せず、雑味のない爽やかなハーモニーが味わえる。

[試聴曲1] 鈴木雅之/DADDY! DADDY! DO! feat.鈴木愛理(96kHz/24bit FLAC)

 TVアニメ『かぐや様は告らせたい?』(第2期)のオープニング曲である、鈴木雅之の「DADDY! DADDY! DO! feat.鈴木愛理」を聴いた。第1期の頃から楽しく見ているが、豪華な主題歌だ。鈴木雅之のソウルフルな声を表情豊かに描くし、鈴木愛理のコーラスもきれいに出て、ハーモニーが美しい。熱っぽさや色気もしっかりと出るのだが、上品というか、すべての音がきれいで、ライブ感とか良い意味での荒っぽさがやや抑え気味になる感じは少しある。音が歪むとか、荒れる感じがまったくなく、実に清らか。ドラムスなどの低音もかなり低いところまでよく出るが、それ以上にクリアで濁りのない鳴り方に感心する。あっけないほどスムーズに力強い低音が出る。

 これをB&W 607で聴くと、情報量自体に大きな差は感じないが、ひとつひとつの音がカチっとした感触になる。メリハリが付いているわけではないが、よりくっきりとした音に感じる。低音については、B&W 607も不要な膨らみのないタイトな再現なのだが、Premier 200Bの方が自然で、無理なく低音が出ている感じになる。B&W 607はフォーカスがビシッと合った写真、Premier 200Bはごくわずかにソフトフォーカスの写真を思わせる。あるいは、B&W 607はライブ会場の最前列で音を浴びるような感触、Premier 200Bは真ん中ほどの席でステージ全体を見渡す感じだ。

 B&W 607も十分に広い音場だが、Premier 200Bはさらに広く深い。少し後ろに引いて全体を見渡すイメージになるためだろう。

 音色はどちらも忠実感に優れたもので、音への色づけはほとんど感じない。かなり似た傾向の音だと思ったが、比べてみるとずいぶんと感触が違う。このあたりの違いは実に面白い。音の実力というか、両者のどちらが優れているかという点では両者にほとんど差はないだろう。音楽を聴くときに最前列で聴きたいか、ホール中央で適度な距離感を持って聴きたいか。それと同じように好みで選んでいい違いだ。

[試聴曲2] 芸能山城組/Symphonic Suite AKIRA 2016 ハイパーハイレゾエディション(DSD 11.2MHz)

 今度は4K/HDR化された映像と音で蘇った「AKIRA 4Kリマスターセット」の出来に感激して、ついつい聴き直している芸能山城組の「Symphonic Suite AKIRA 2016 ハイパーハイレゾエディション」(以下「交響組曲AKIRA 2016」)を聴いた。DSD 11.2MHzの高音質で、100kHzを超える超高音域までたっぷりと収録したサウンドトラックだ。

 Premier 200Bでの再生は、銅や竹といった板を叩いて音を出すガムランやケチャなどで使われる民族楽器の音の響きを実にきめ細かく再現した。アタックの反応の良さ、銅の板を叩いたときの長く続く余韻が広く深く響く。これに加えて、シンセサイザーで付加された音が左右に動き回るが、そうした音が円を描くように奥行きを持って動いているのも分かる。大太鼓の鳴りと響きも十分にパワフルだが、ゆったりと余裕を持って鳴る。合唱というか祭りのかけ声のようでもある混声のコーラスも含め、さまざまな楽器の音を鮮やかに鳴らすが、それ以上にスタジオでの加工やちょっとしたエフェクトの具合まで分かるような写実的と言ってもいい再現だ。音場は広々としているのに、音のひとつが緻密でギュッと凝縮された音楽を聴いている感覚にもなる。

 これがB&W 607になると、空間の広さや楽器の音の余韻の響きはやや差を感じるが、そのかわり、音にダイレクト感がある。かけ声のようなコーラスも熱気と力強さがあるし、大太鼓の鳴り方も低域の伸びに差はないがアタックの力強さや迫力が出てくる。どちらも質の高い再現だが、607はライブ感のある熱気や情感をより感じるし、Premier 200Bは音の構成やひとつひとつの音を実にきめ細やかに鳴らしていることが分かる。

 あえて言うならば、ロックやジャズを荒っぽく、情熱的に聴きたい人には、Premier 200Bの音は物足りなさを感じるかもしれない。スピーカー自体に歪み感や荒さがないので、熱狂的なギタープレイの歪んだ音を少しだけきれいにしてしまう感じはある。もちろん、ディストーションをかけたギターの音はきちんとディストーションのかかった音になるので、妙な味付けや演出があるわけではない。むしろ正確なのはPremier 200Bの方なのかもしれないが、聴き慣れた音と比べると、明らかに歪み感や混濁感がないのだ。

 小編成の室内楽や、同じジャズでも熱気をストレートに伝えるのではなく、知的に洗練されたテクニックで聴かせる楽曲との相性が絶品だ。とはいえ、情感の伝わらない大人しい音というわけでは決してないので、交響曲でも極上のホールの中央でゆったりと楽しむ感じが得られるだろう。また、熱気あふれるハードなロックに向かないという言い方もしたくはない。あくまでもB&W 607との比較で、荒っぽさや元気の良さよりも、上質さや自然で滑らかな感触が際立っただけだ。

 どちらもモニター的で正確な音と言えるが、それでも感触は大きく違っている。

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