新型コロナウィルスの飛沫飛散シミュレーションにも応用
富岳を活用した成果はすでにあがっている。
そのひとつが、新型コロナウィルスの特性を考慮した室内での飛沫飛散シミュレーションだ。
新型コロナウィルスは、せきやくしゃみ、声を出すことなどで発生する飛沫のほか、これらの飛沫のうち、非常に小さいエアロゾルによっても感染が広がる可能性が指摘されている。感染のリスクを評価し、予防対策を行うためには、こうした飛沫やエアロゾルの飛散経路を正しく推定する必要がある。だが、飛沫やエアロゾルの飛散経路は、空気の流れや湿度、温度などの複合的な影響を受けるため、その推定には膨大な計算が必要になるという。
そこで、「富岳」に実装を進めている超大規模熱流体解析ソフト「CUBE」を使って、これまでの計算機では困難だった高精度で大規模な飛散シミュレーションを実施。通勤列車やオフィス、教室、病室といった室内環境において、様々な条件下で感染リスクを評価し、空調や換気、パーティションなどを活用したリスク低減対策を提案するほか、シミュレーションの結果を動画化し、飛沫が具体的にどのように広がるのかを視覚的に理解できるようにすることで、感染防止に向けた認識や理解を広く普及させることが可能になる。この成果は広く公開されている。
そのほか、分子動力学計算により、約2000種類の既存医薬品から新型コロナウィルスのたんぱく質に高い親和性を示す治療薬を探索、同定したり、新型コロナウィルス表面のたんぱく質の動的構造予測やフラグメント分子軌道計算にも利用。さらには、今後生じる経済活動への影響を評価し、収束シナリオとその実現方法を探ったり、ウィルスの変異などにより、感染や発病の経過が変化した場合に起こる事象への対応を立案するといったことにも使われている。
松岡センター長は、「創薬支援やウィルス解析などに利用する医学的側面からの研究と、感染拡大防止のための社会的側面からの研究に取り組んでいる。高い性能を生かして、数週間かかった成果を数時間で導き出せた例もある。富岳を様々なアプリケーションを利用できるように開発したことが、新型コロナウィルスに関する研究においても、メリットになっている」とし、「富岳は、科学面での貢献のみならず、人々が安全、安心、快適に生活を送ることができるSociety 5.0の実現に役立てるために開発されたものである。その点でも、新型コロナウィルスへの対応は、富岳の利用目的とマッチするものとなる、富岳の成果を、国民に初めて届けることができた事例が新型コロナウィルス対策であり、新たな材料や、医薬品を、富岳によって提供したい」とする。
富岳が、新型コロナウィルスをはじめ、日本の様々な社会問題を、これからどう解決していくのかが楽しみだ。
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