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中の人が語るさくらインターネット 第19回

お互いの領域での知見を生かす「学際的研究」が必要な理由とは、熊谷将也氏

材料工学から情報工学への挑戦、さくらのパラレルキャリア研究者

2020年05月18日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: さくらインターネット

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「“さくららしい”研究テーマとは?」葛藤を抱え苦しんだ時期も

 このような、異なる研究領域の中間で行う「学際的研究」のメリットとは何なのだろうか。熊谷氏は「どちらの分野に対しても新しい視点を提供できること」ではないかと語る。

 「たとえば材料工学の側から見れば、単純に実験データの大規模データベース化だけでも画期的ですし、自分の実験結果と数千、数万のリファレンス(参照データ)を簡単に比較検証できる仕組みもありませんでした。異分野の知見を持ち込むことで『そういう視点はなかった』という発見があり、新たな創発のきっかけを生み出せるのではないかと考えています」

 しかし熊谷氏は、こうした研究成果を上げつつも、入社後の3年間には「葛藤もありました」と振り返る。

 以前も紹介したとおり、さくらインターネット研究所のモットーは「自分が面白いと思えるテーマにどしどし取り組むこと」である。裏を返せば、研究員それぞれが自ら研究テーマを決めなければならない。新卒で研究所配属された熊谷氏にとって、それはなかなかの重圧だったようだ。

 「自分で“さくららしい”研究テーマを見つけなければならない、しかも理研でやっているテーマとは切り分けなければならないと、少し身構えすぎていたのかもしれません。そこでまず『トラフィックの異常検知』をテーマにしたわけですが、研究を進めるうちに、今度はインターネットやWebの技術に対する自分の知識不足を感じるようになりました。もちろん、新しいことに取り組める楽しさはあったのですが」

 材料工学と情報工学、2つの分野の中間にある学際的領域で研究成果を上げるためには、両方の分野に対する高い知見を持たなければならない。しかし、研究に充てられる時間には限りがあり、パラレルキャリアで働いていればそれはより制限される。さらに、新卒で研究所配属された自分には、インターネットやWebの技術に対する知識も課題意識も薄い。「“研究に向かうエネルギー”をどう高めたらよいのか。それがわからず、苦しい時期でしたね」と熊谷氏は振り返る。

新たな研究テーマは「材料工学のデジタルトランスフォーメーション」

 こうした葛藤も経験した熊谷氏だが、昨年末ごろからは新たな方向性に舵を切り、さくらでの研究に取り組んでいるという。

 「研究所の坪内さん(坪内佑樹氏)から『VISION DRIVEN』という本(直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN/佐宗邦威氏 著)を勧めていただき、それを読んだのがきっかけで吹っ切れました」

 さくらで取り組んでいる新たな研究テーマの1つめは、理研で研究している材料実験データベースやマテリアルズ・インフォマティクスとも深く関連するものだ。これまでは2つの研究所で取り組むテーマを「切り分けなければならない」と考えてきたが、そのこだわりを捨て、素直に「ワクワクすること」に取り組もうと考えた。

 「理研でやっている材料工学データベースの研究にはワクワクしています。それならば、さくらでの研究もワクワクできるものにしたい。そもそも『ワクワクすることをやりたい』が自分のルーツですし、ワクワクできるならば研究者でも技術者でもよかったはず。そう考えると、理研で取り組んでいるテーマに『技術者の自分』としてアプローチする方法もあるのではと思いつきました」

 そこで現在開発に取り組んでいるのが、材料工学研究者向けの「実験ノートのデジタル化」プラットフォームだという。前述した理研の材料工学データベースは、論文から実験結果を手作業で抽出したものだが、実験ノートをデジタル化することで、より大量の実験データが収集可能になる。

 「これまでは『論文のデジタル化』のレベルにとどまっていましたが、これによって『研究プロセスそのもののデジタル化』、材料工学のデジタルトランスフォーメーションにもつながるのではないかと期待しています。理研ではマテリアルズ・インフォマティクスをやっていますが、さくらでやりたいのは『プロセス・インフォマティクス』ですね」

さくら側で新たに取り組む研究テーマのひとつは「実験ノートのデジタル化」

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