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私たちの働き方カタログ 第42回

女性や外国人の塗装工を生み出すKMユナイテッドの仕組み作り

「一人前には10年」という常識を打ち破る新しい職人のキャリアパス

2020年03月13日 09時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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 その会社にはその会社ならではの働き方がある。みんなの働き方改革・業務改善を追う連載「私たちの働き方カタログ」の第42回は大阪の塗装会社であるKMユナイテッド。職人の世界の常識を覆すキャリアパスや育成プログラムについて代表取締役社長 Founder/CEO 竹延幸雄氏に聞いた。

KMユナイテッド 代表取締役社長 Founder/CEO 竹延幸雄氏

ベテランの職人が辞めたら、この会社は存続できるのか?

 KMユナイテッドの親会社にあたる竹延は今年で創業70周年を迎える老舗の塗装会社。「大規模改修工事」と呼ばれる外装リニューアルを得意とし、過去には白鷺がよみがえったと高い評価を得ている姫路城の塗り直しのほか、京都国立博物館、任天堂本社、同志社大学などのリニューアルなどを手がけている。

 婿養子として会長の後を継いで竹延の社長になった竹延幸雄氏が、広告代理店から竹延に転職して来たのは2002年。当時の悩みは圧倒的な人手不足で、募集を出しても、ほとんど応募がなかったという。「建築業は3Kのイメージが強くて、いくら採用条件をよくしてもなかなか応募してくれません。このまま若手が採用できず、ベテランの職人さんが辞めてしまったら、もう会社がなくなってしまうと感じました」と竹延氏は語る。こうした危機感から、竹延とは異なる採用や教育、制度を実現すべく、2013年に子会社として設立したのがKMユナイテッドだ。

 KMユナイテッドでは若手に加え、幅広い経験を持つ人材を新たに採用すべく、キャリアパスと育成プログラムを大きく見直した。具体的には、今まで一人前になるのに10年かかると言われた職人の作業を徹底的に分析し、基礎知識を学ぶスタートアップトレーニング、ベテランが現場で教えるオンラインジョブトレーニング(OJT)、専門的な技を学ぶハイエンドサポートトレーニング等の独自の育成プログラムを構築した。まずはマスキングやパテなどの塗装下地準備作業に特化し、3年間で1人前に。「一流の職人が自分のやってきたことをイチから全部教えていくのは、結局は中途半端な人の作り方だと思いました。実際、職人さんの作業を分析したところ、ペンキを塗るという仕事よりも、マスキングやパテなど先に覚えるべき知識が必要であることがわかったんです」と竹延氏は語る。

 こうしたキャリアパスを作った1つの契機は、バッグで有名なエルメスの工場をフランスで見学してきた経験だった。過去の職歴や経験にとらわれず、熱意と好奇心を持った人材を積極的に雇用し、短期間で職人として育て上げる同社の姿勢にいたく感銘を受けた。「どれくらいで1人前のバッグ職人になれるかエルメスの方に聞いたら、僕は20~30年という答えを期待したのに、5年という答えが返ってきたんです。だったら、うちは負けず3年を目指そうと思いました」と竹延氏は笑う。

女性や外国人が職人になれる新しい教育プログラム

 育成プログラムとしては、社内に「大阪職人育成アカデミー」を作り、継続的に学べる環境を構築した。ここには社内のベテラン職人だけでなく、社外からも講師を招き、一流の技が取得できるようにしたという。「結局、一流の職人になる資質って、努力し続けることなんです。アカデミーを始めたことで、いったんスキルアップをあきらめた人も、改めて努力し続けることに目覚めたようです」(竹延氏)。当初は未経験者の学びの場として始めたアカデミーだったが、今や中間層やベテランまで参加するようになってきた。

 こうした育成プログラムやキャリアパスの整備により、7年間で40名もの未経験者がKMユナイテッドに職人として入社した。そのうち11名は、今まで業界内にほとんどいなかった女性だ。7年で一級塗装技術士の資格を取得し、「太陽の塔」の塗り直しプロジェクトをリードする女性職長も現れた。女性職人に対しては、妊娠等の健康上の影響を考え、有機溶剤作業を100%水性塗料に切り替えたほか、育児・介護のための短時間勤務も導入し、柔軟な勤務体制を可能とした。現在も応募の1/3~半分くらいが女性で、4大卒や美大卒の大学生が塗装職人になるべく応募してくる例もあるという。「今となっては、この仕事って人気がなかったわけではないんだなと思っています。昔は重い荷物を持てる男性だけが山に登れたんですが、道具を見直したり、ルートを見直したら、女性でも山を登れるようになったんです」と竹延氏は語る。

 今年は外国人の受け入れも開始した。「未経験の日本人がきちんと職人になれるので、外国人だってなれるはず。これからは日本人に使われるのではなく、外国人もなるべく同じ待遇・同じ環境でお仕事してもらいたいと思ってます」と竹延氏は語る。

 現在取り組んでいるのは、ベテラン職人の技の伝承とロボットへの移植だ。一流の職人の作業を映像に記録し、誰でも学べる「技ログ」という動画投稿アプリを作ったり、映像から得たデータを専用ロボットに覚え込ませている。「壁からどれくらい離れているか、塗料にどの程度水を入れているのか、どれくらいの圧力で塗っているのかなどを数値化してロボットに埋め込もうとしています」(竹延氏)とのこと。業界の常識に染まらず、少子高齢化・市場の縮小・ダイバシティなどさまざまな課題とトレンドを自ら率先して取り組んでいる姿がたくましい。

会社概要

多様な人材を全員正社員採用、女性躍進の取組を行う建設塗装会社。男性・日雇い勤務が建設業界の常識の中、性別・国籍・年齢・経験の有無に関わらず、やる気のある人材を未経験から全員正社員として採用。一流の職人からの指導により安定雇用を図り、取組事例が安倍首相の施政方針演説にて取り上げられる。こうした取り組みを経て、リクルートキャリアが主催する第6回GOOD ACTIONアワードでも審査員賞を受賞している。

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