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NHKも出資したことで放送業界の“オールジャパン”体制に、国内事業者としての強みを強調

「TVer」の動画配信も支える日本のCDN、JOCDNが事業説明会

2020年03月05日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 2020年3月4日、インターネットイニシアティブ(IIJ)グループの動画配信プラットフォーム/CDNサービス事業者であるJOCDNが事業説明会を開催した。在京キー局5社をはじめとする民放各社からの出資に加え、今年2月にはNHKからの出資も受けて“オールジャパン”体制が出来上がったとして、「放送局の力も借りながら、世界に先駆けるような動画配信プラットフォームを日本で作り上げていきたい」と意気込みを示した。

JOCDNでは動画配信に特化したCDNサービスを提供している

JOCDN 代表取締役会長の鈴木幸一氏

JOCDN 代表取締役社長の篠崎俊一氏

JOCDN 取締役の福田一則氏

急速に成長する動画配信サービスと、放送事業者による新ビジネスの模索

 JOCDNは、2016年12月にIIJと日本テレビ放送網の合弁会社として設立された動画配信プラットフォーム事業者だ。その後、他の在京キー局や在阪/在名局、WOWOW、そしてNHKと、合計で16の放送事業者からの出資を受けている。

 JOCDNの代表取締役会長でIIJの会長でもある鈴木幸一氏は、広帯域が必要となる映像の4K/8K化などの変化に伴って、放送業界でも近年「あらためて動画ストリーム配信が非常に重要なテーマとなってきた」と説明。そうした動向に沿うかたちで、テレビ局と一体となり、IIJの持つインターネット技術を提供することで「日本でそうした仕組みを作りたいといって作ってきたのがJOCDNだ」と述べる。

 放送事業者がJOCDNに出資する理由は、各社が動画配信サービスに注力し始めているからだ。若年層の“テレビ離れ”とネット接触時間の増加が起きており、他方ではNetflix、Amazon Prime Video、YouTubeといった、放送局系ではない新興の動画配信サービスが人気を集めている。家庭のテレビディスプレイは、もはや放送局のコンテンツだけを見るものではなくなりつつある。

 「たとえばNetflixは、2019年第4四半期に有料会員数を880万人も増やした。これは驚異的な数字だ。また昨年11月に北米地域でスタートしたDisney+は、初日で登録者1000万人を突破した」(JOCDN 取締役の福田一則氏)

2017~2018年の1年間で、「オンデマンド型動画配信サービス」「オンデマンド型放送番組配信サービス」の利用率はそれぞれ5ポイントほど上昇した

 放送事業者側もこうした動きに合わせて、さまざまな動画配信サービスの提供に乗り出している。民放公式ポータルサイト「TVer」をはじめ、日本テレビの「Hulu」、テレビ朝日の「AbemaTV」、テレビ東京+TBS+WOWOWの「Paravi」、NHKの「NHKオンデマンド」や「NHKプラス(3月より試験提供開始)」、さらにはスポーツイベントのネット中継など、単発的な取り組みも含めるとかなりの数に上る。こうしたサービスのアクティブユーザー数も徐々に伸びつつあるのが現状だ。

 「(非放送局系の動画配信サービスについて)見方を変えると、NetflixやDAZNのような『動画が本業のサービス』と、動画配信を付加価値と位置づけるAmazon Prime Videoのような『動画が呼び水のサービス』に分けられる。個人的には、放送局の各サービスがこれからどちらに振れていくのかに興味がある。たとえば、ネット配信でドラマなどへの接触機会を増やしテレビ視聴へと誘導するのか、ネットオリジナルの動画配信を強めてテレビとは独立した動きをしていくのかなど、さまざまな方向性が考えられるはずだ」(福田氏)

日本市場で展開する主な動画配信サービス。動画配信をビジネス化する方向性は必ずしも1つではなく、放送事業者では模索が続いている

 どういうかたちならば放送局としての動画配信ビジネスが成立するのか、各社ともそれはまだ模索段階にあるようだ。日本テレビからの出向でJOCDN 代表取締役社長を務める篠崎俊一氏は、Hulu買収後の取り組みについて次のように説明する。

 「日本テレビが2015年にHuluを買収した当時、サブスクライバー(登録会員)は60万人ほどしかいなかったが、番組との連動企画などを通じて現在は200万人ほどに増えた。もともとは『Huluで捕まえた顧客(視聴者)をテレビのほうへ誘導する』ルートを描いていたが、今はむしろ『テレビを使ってHuluのサブスクライバーを増やしていく』方針に変わっており、300万人まで増やそうとしている」(篠崎氏)

「放送事業者との近さ」と「日本の事業者としての強み」を生かす戦略

 放送の世界は、放送事業者自身で送信設備までを保有/運用する“垂直統合型”で構成されている。その一方で、インターネット経由で動画配信サービスを展開するうえでは、外部事業者との連携が必要となる。ここがJOCDNの事業フィールドであり、現在は主にCDNサービス部分に注力している。

 たとえばTVerでは、2017年5月からJOCDNのCDNサービスを採用しており、月間アクティブユーザー数947万人、動画再生回数8587万回(2019年11月実績)という大規模サービスにおいて、毎日数百Gbpsのオンデマンド配信を実施している。

JOCDNの配信データ転送量推移。2019年度は初年度比で6倍、さらに2020年度は10倍を見込む。転送量増加に応じて計画的な設備増強も行っていく

 動画配信サービスでCDNを利用する場合、自社で保有/運用するものではないため「サービスの信頼性を外部事業者の設備と運用に依存してしまう」「CDNの多くが従量課金型で、視聴者と通信量が増えればコストがかさむ」といった課題が生じる。特に前者の「信頼性」については、放送事業者としてサービス品質を担保したいと考えていても、外からはCDNの品質は見えづらい。

放送の世界は、放送局が送信設備まで保有/運用する“垂直統合型”。しかしネット動画配信では外部事業者との連携が必要となる

 こうした課題に対応すべく、JOCDNでは「放送における送信設備のような位置づけで」、信頼性や安定性が高くリーズナブルな価格のCDNサービスを提供していると、篠崎氏は説明した。国内開発体制を敷いており顧客ニーズに応じた機能の追加/修正が迅速にできること、信頼性の高い運用やサポートを目指しIIJのエンジニアリング部門とも連携していること、国内向け配信に特化した基盤構築をしていることなどが特徴だという。

JOCDNの事業構造。顧客である放送事業者、インフラ技術に知見を持つIIJとの“距離感の近さ”は、海外CDN事業者にはない大きなメリットだ

開発、運用/サポート、配信と、国内CDN事業者としての強みを生かす戦略をとっている

 JOCDNの今後の取り組みについて、篠崎氏はまず、放送同時配信サービスであるNHKプラスがスタートし、その動きが民放各局に広がる可能性もあることから、同時配信サービスの機能強化や設備増強を続けると述べた。

 また大手放送局だけでなく、幅広い事業者が動画配信サービスに参入できるように、リーズナブルな価格のCDN提供や動画配信の技術/ノウハウ提供などを通じて「ハードルを引き下げる」取り組みも行っていくという。さらに、エンドユーザーや顧客事業者のニーズ変化に追随する機能の開発、マルチアングルや双方向通信などネットの特性を生かした動画配信に向けたR&Dも進めると説明している。

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