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2~3週間かかった契約締結が約1週間に

ソニー銀行が住宅ローンの電子契約にAdobe Signを採用した理由

2019年11月13日 10時00分更新

文● 指田昌夫 編集●大谷イビサ

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 2019年10月2日、アドビシステムズは、Adobe Document Cloud Business Conference「BEYOND」を開催した。Adobe Signのユーザー企業として登壇したのは、住宅ローンの契約書の電子化を進めたソニー銀行だ。

ソニー銀行 ローン業務部 副部長 兼 業務企画課長 重田浩治氏

住宅ローンの契約書は修正のやり取りが多い

 ソニー銀行は2001年に開業、インターネット専業銀行としては老舗の1社だ。外貨預金や投資信託、投資型クラウドファンディングなど個人向け資産運用商品を多数取り揃えている。住宅ローンもいち早く非対面での契約完結を実現し、好評を得てきた。しかし、昨今の低金利で非常に利ザヤが薄いうえに、新規参入組による競争激化もあり厳しい状況だ。

 これまで以上に業務効率化を進める必要があるなかで、同社では契約締結までの時間を短縮するため、ローン申込者の仮審査に独自開発のAIを導入。審査担当者の判断に近い精度で自動的に仮審査が行なえるという。

 次に同社が目を付けたのが、審査が終了した契約者との契約締結に関する事務コストだ。非対面で完結できるとはいえ、契約締結にはローン契約者と銀行との間で紙の契約書の取り交わしが必要だった。この契約書のやり取りは、銀行側だけでなく契約者にとっても面倒で、時間もお金もかかる作業だった。

 第一に、住宅ローンは用意する書類が多いため、すべての内容を1回で正確に記載できるケースは多くない。住宅は「一生もの」の買い物なので、契約書を書き慣れている人などいないからだ。書類に間違いや捺印漏れ、押印のかすれなどがあれば、一旦送り返される。それを修正し、再度送付する必要がある。当然、手間も時間もかかる。

 もし契約を電子化できれば、修正の手続きもすべてオンライン上で行なえる。契約締結後の「控え」もPDFで送られてくるので、紙を保管する必要もない。そのうえ、紙の契約書では印鑑証明、印紙税(印紙代)が必要だ。とくに印紙代は、仮に5000万円以上のローンを組む場合は6万円もかかるので、ばかにならない。

 ソニー銀行側としても、上記したように契約書を確認し、間違いがあれば訂正の指示をつけて契約書を送り返さなければいけない。その郵送費と事務、処理中断の時間のロスが重い負担となっていた。ちなみに契約者からの契約書の発送は週末が多く、それらがまとめて届く週明けの事務量が膨大になるなど、紙が絡む限り、業務効率化、平準化が非常に難しかった。

 こうした理由から、ソニー銀行では電子契約サービスを用いた契約書のペーパーレスシステムの検討に本腰を入れた。

運営会社として安心でき、顧客にとっても操作が簡単

 契約書の電子化には、クリアすべき要件がいくつかあった。それらの要件を満たしつつ、システムの信頼性、サービスの運営会社の検討は慎重に行なった結果、Adobe Signを電子署名に用いたシステムの導入を決定した。

 その理由を、ソニー銀行 ローン業務部 副部長 兼 業務企画課長の重田浩治氏は「まず銀行が使う仕組みとして高いセキュリティを持ち、運営会社としても安心できる点。それと顧客にも弊社の社員にとっても操作が簡単である点です」と説明する。

 まずセキュリティ面では、Adobe SignのデータはAWSの東京リージョンに置かれており、クラウドシステムの拡張性を備えながら、個人情報を国内で管理できる。24時間の監視も行われる点も評価した。また電子契約では画面の署名欄にサインするため、契約者本人がサインしたということを証明できなければいけないが、Adobe Signが備えている二段階認証の仕組みによって、確実に本人確認が行えると判断した。さらに、電子契約書に記した署名は電子データで保存されるが、後日契約を確認したときに署名が改ざんされていないという「証明」が必要になる。それにはAdobe Signが備えている「証跡管理」の機能が使える。実印と同等の有効性を発揮するため、債務不履行などのリスクにも対応できる。

 次に運用面の改善だが、電子署名の導入にあたり、重田氏のチームでは業務プロセス全体の見直しに力を入れた。「単に紙をなくすということだけでは、現場には不安が広がりかえって業務が混乱してしまいます。紙がなくても顧客ごとの進捗管理がオンラインで細かく処理できるようにシステムを開発しました」

 ここで重要だったのが、Adobe Signはソニー銀行がもともと使っていた顧客管理システム(Salesforce)との連携が非常にスムーズだったことだという。「Adobe Sign for SFDC」というサービスを利用し、Salesforceの操作画面内でAdobe Signの機能を使用できるようにした。「電子契約のすべての操作は、従来から使っていたSalesforceの上で完結するので、Adobe Signにログインする必要はありません。そのため、導入時にも混乱することはありませんでした」(重田氏)。

SalesforceとAdobe Signの連携(ソニー銀行のプレゼン資料より抜粋)

契約事務に時間を取られず銀行員本来の業務に専念できる

 電子契約サービスは2019年6月にスタートし、住宅ローンに関して紙の契約書は原則撤廃された。社内で書類を回す事務処理がなくなり、契約書に関わる事務処理そのものは、従来の約3日から最短でたった1時間で済むようになった。契約締結全体の時間も、郵送の手続きや印鑑証明書の手配など、従来は2~3週間かかっていたが、すべてWeb上の手続きで済むため、最短で1週間程度で完了(契約締結)できるようになった。

 すでにペーパーレス化による業務効率化の効果も確認されている。業務部門の年間経費の約10%が削減できた。これは「年間億単位のコスト削減」だという。さらに、上記の印紙代、印鑑証明書の発行費用など、ペーパーレス化による顧客側のメリットもあり商品力が向上、契約件数そのものも増加傾向にあるという。

 だが、重田氏は別の効果に注目している。「業務コストの削減はもちろん大事ですが、それよりも、社員の働き方の変化よる“取引機会の増加”に期待しています。顧客を訪問してニーズを聞き出したり、顧客に最適な商品を検討するなど、本来銀行員がしなければいけない業務に集中できる環境ができたことが、ペーパーレス化の最大の効果です」(重田氏)。

 住宅ローン契約書のペーパーレス化成功で、ソニー銀行では、Adobe Signを他の業務でも使うことを検討している。

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