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セールスフォースに買収されたTableauはどこに向かう?

AIはBIをどう変える?Tableauが新版を発表

2019年10月07日 10時00分更新

文● 指田昌夫 編集●大谷イビサ

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 Tableau Japanは、BIソフトウェアの最新リリース「2019.3」を発表。9月に都内の本社オフィスで報道向け説明会を行なった。分析に用いるデータを探しやすくする「Tableau Catalog」のほか、AIが同じ傾向のデータをリストアップする「データの説明を見る」の機能が追加された。

Tableau Japanの佐藤豊社長

企業内に分散したスモールデータを束ねて視覚化できる

 2019.3の目玉の1つが、カタログ機能の「Tableau Catalog」だ。Tableauで分析に使用するために社内に立てるTableauサーバー内のすべてのデータに対して、分類して一覧表示できるようにする。これによってデータ分析の担当者は大量のデータの中から分析に用いるデータ群の組み合わせを選びやすくなるという。

「Tableauは昨年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生が設立した新興AI企業Empirical Systemsを買収した。今回のカタログ機能はそこの技術がフルに用いられている」(Tableau Japan セールスコンサルティング部 部長 道山修一氏)。

Tableau Japan セールスコンサルティング部 部長 道山修一氏

 Empirical Systemsの技術は、大規模なビッグデータではなく、Excel等で作られたファイルを束ねて共有できるところに強みがある。1つ1つは小さいデータでも、企業内にはExcelでまとめられた業務ファイルが大量に存在する。ビジネス現場に近いそれらのデータを活用するほうが、即戦力の分析につながる場合もある。

 一方、カタログ機能でTableauサーバー内のデータを全社で活用できるようになると、データソースが増えることはもちろん、各データソースがいつ更新されたのかなど、管理が複雑になる。そこを解決するため、Tableau Catalogは、新たに提供される管理機能「Data Management Add-on」というツール上で運用する。

 たとえば特定のデータソースの情報更新期限が近づいているとき、そのデータを誰かが分析に使おうとすると注釈が表示され、注意を促すことができる。セルフBIツールでは誰でも自由にグラフ化できる半面、元データの信憑性が問題になることも多い。ミスリードを防ぐためにもこのような機能は必要だ。

AIがデータの成り立ちを教えてくれる

 新リリースのもう1つの注目機能が「データの説明を見る」だ。これは、分析結果に現れる異常値、特異点について、そのデータの出自や内容を1クリックで表示するとともに、Tableauサーバー内のすべてのデータをAIが分析し、同じ傾向のデータをリストアップしてくれる。分析者は、それを頼りに問題点を探すことができるという。Tableauでは2つ前のバージョン「2019.1」で、分析したい内容を会話形式で投げることができる「データに聞く」という機能を追加しているが、「聞く」の次に、今回「見る」が装備された。

「データの説明を見る」のデモ画面。ロンドン市内の特定の地域の分析を、AIが可能な限りテキスト化している

 この機能の説明を聞いて頭をよぎったのは、分析担当者にとってどの程度役に立つのか、ということだ。AIが社内のデータから相関関係の似ているところを何個か見つけてきて、それを見たとしても、因果関係には結びつかないような気がしたのだ。

 この点についてTableau Japanの佐藤豊社長は、「分析担当者にとって気づきをもたらす大きな助けになると思っている。従来はデータを可視化して、問題点を発見しても、その理由を調べるのにデータソースをくまなく見ていかなければいけなかった。新機能によって、およそ“あたり”がついたデータがリストアップされるので、まずはそこから見ていけばいい。検証時間が大幅に短縮されるはずだ」と説明した。

 AIがソフトウェアに組み込まれてきたことで、人間とAIの共同作業が重要といわれている。BIの分野でも、分析担当者が立てる「仮説」に加えて、AIの提案にも聞く耳を持つべきということだろう。

データ駆動型組織へのガイドラインも策定

 そのほかにも多くの機能が追加されているが、佐藤社長は「私の元には毎朝、会社の経営状況を知らせるダッシュボードの画像が送られてくる。従来は画像だったが新リリースでPDFも選べるようになった。スマートフォンで見る場合はPDFが見やすく、すごく便利になった」とお気に入りの新機能を紹介した。

 今回の機能追加は、Tableauのユーザーコミュニティから出てきた意見などが多く反映されているという。それだけに「タブロー使い」の達人たちが求める機能強化に走ってしまっている感も否めない。「BIの民主化」を謳う同社にとって、ビジネス層とツールの乖離は避けなければいけない。

 Tableau自身もその危機意識は持っているようで、対策を用意している。ソフトウェアの2019.3のリリースと合わせて、データ駆動型の組織になるためのガイドライン「Tableau Blueprint(ブループリント)」を公開した。今後は日本市場でもこのガイドラインに沿って企業に対する啓蒙活動を行なう。

 TableauはBIツールの代表的なブランドの1つであり、ビジネスユーザーが最初に知るBIツールである場合も多い。数表が瞬時にグラフ化されるインパクトは強烈だが、そこから先の、データの視覚化がビジネスの何をよくするのかを見せてほしいと思う。

 セールスフォース・ドットコムによる買収が完了した後も、Tableauの事業は従来通り継続していくとアナウンスされているが、今後の統合の過程でSalesforce流の顧客体験強化が進むことを期待したい。

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