このページの本文へ

キュートリットで過去最大のデータ送信に成功、量子ネット実現へ前進

2019年08月27日 07時59分更新

文● Martin Giles

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

「キュートリット(qutrit)」という一風変わった量子情報の単位を用い、過去最大量の量子状態のデータ送信に成功した。

量子技術により、データを安全に遠くへ送信できることは確実となっている。科学者らはすでに「キュービット(qubits)」と呼ばれる量子ビットを使い、地上と人工衛星のいずれを介しても情報が送信できることを証明している。このほど、中国科学技術大学(USTC)とオーストリアのウィーン大学の研究チームが、キュートリット(量子トリット)を用いて、さらに多くのデータを送信できる方法を発見した。

キュートリットは何か? 財務記録からユーチューブ動画まで、あらゆるものの符号化に利用されてきた従来のビットは、1または0という2つの状態を電気あるいは光子の信号で表す。キュービットも電子や光子によってビットと同じように2つの状態をとるが、1と0を重ね合わることでより多くの情報が送れる。キュートリットは、同時に3つの状態がとれるため、さらに多くの情報が送れる。理論的には、量子テレポーテーションを使って送信されることになる。

量子テレポーテーションは、「量子もつれ」という神秘的な量子の現象を利用してデータを送信する手法だ。もつれた量子粒子は、たとえお互いが1つの大陸ほど離れた場所にあったとしても、お互いの状態に影響を及ぼせる。量子テレポーテーションでは、送信者と受信者で1組になる「もつれたキュービット」を、片方ずつ受け取る。送信者は、自分が持つキュービットと受信者が持つキュービットとの相互作用を測定する。この測定の結果を送信者が受信者のキュービットに適用することで、受信者は送られた情報の内容が理解できる(詳細は「Explainer: What is quantum communication?」を参照)。

キュービットでもこの作業は容易ではない。まして、さらに1次元規模が大きくなるキュートリットを利用するのはなおさら難しい。しかし、量子通信分野における中国のパイオニアであるUSTCの潘建偉(パン・ジエンウェイ)教授などの研究者は、テレポーテーション過程の最初の部分を微調整することで、送信者が受信者に送信する測定情報をより多く持てるようになり、問題は解決されたと話す。これにより、受信者はテレポートされた情報を容易に理解できる。この研究は、フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)で発表された

量子テレポーテーション技術はかなり難解に思われるが、サイバーセキュリティにとって極めて重要な意義がある。ハッカーらは、従来のビットの流れに対しては、インターネットから何の痕跡も残さず情報を詮索できた。しかし、量子情報に不法に侵入すると微妙な量子状態が崩され、ハッキングを示す証拠が残る。キュートリットが大規模に利用できれば、政府および商業用のデータ送信に使用される、機密性や安全性が極めて高い量子インターネットの根幹が形成できそうだ。

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ