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「世界一のAI大国」目指す中国、優秀な研究者は国外に流出

2019年08月12日 13時16分更新

文● Karen Hao

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新たな分析によると、中国人の人工知能(AI)研究者の数は過去10年間で10倍に増加したものの、その大半が国外に住んでいるという。

ここ数年間、中国は「AI大国」を目指して国を挙げて取り組んできた。中国政府は2012年時点でいち早くAI分野に注力する必要があると考え、2017年にはAIテクノロジーの発展と利用に関する詳細な国家戦略を発表した。

中国の経済成長を専門とするシカゴのシンクタンク「マルコポーロ(MacroPolo)」のジョイ・ダントング・マー副所長はこのほど、中国政府による後押しがAI分野の人材にどのような影響を与えたかを分析した。同副所長は、著名な国際AI関連学会の1つである「神経情報処理システム(NeurIPS:Neural Information Processing Systems)」で採択された論文を分析。この結果、中国の大学を卒業した論文著者は、過去10年間でほぼ10倍に増加したことが分かった。

2009年時点の中国人研究者はおよそ100人で、全体の14%を占めるに過ぎなかった。それに対して2018年にはおよそ1000人となり、全体の4分の1を占めるまでに増加している。もっとも増加したのは中国政府が国家戦略を発表した2017年から2018年にかけての期間で、AI分野に特化した学士課程を設けた中堅大学が急増したことが主な理由だ。

中国政府は優秀な人材の育成には成功しているものの、人材を国内につなぎ止めるのには手を焼いている。調査対象となった中国人論文著者の約4分の3が国外で働いており、うち85%は米国だ。グーグルやIBMのような大手テック企業、あるいはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)やイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校といった大学が主な勤務先となっている。

才能ある人材、データ、資本、ハードウェアといったAIエコシステムに欠かせない要素の中で、もっとも重要なのが人材だ。専門知識の集中は、たとえば実務家がAIの研究により力を注ぐのか、あるいはAIの応用に注力するのかを決める。また、優秀な人材が多くいることは、アルゴリズムやハードウェアにイノベーションを起こす大きな推進力となる。そしてそれは長い目で見ると、AIテクノロジーを進歩させていく上でデータの可用性などよりもより重要になるかもしれない。

この分析は、中国のAI分野への投資が、先頭に立って世界を率いていくための長期的な能力を築くには不十分である可能性を示している。中国政府は問題を認識しており、最近では措置を講じ始めた。2017年のAI国家戦略では、他国に劣らない待遇とインセンティブでトップクラスの科学者を国内に呼び戻すと表明した。一方で、AI分野のトップに立つ米国の現在の立場は、中国人科学者の流入による大きな恩恵を受けている(AI分野における共同開発を最小限に抑えたいトランプ政権の意向には反するのだが)。

マー副所長は「とても残念です」と話す。「AI競争という考え方のおかげで、人々はこうした状況をゼロサム・ゲームだと考えています」。科学者たちがもっと流動的に活躍できるようになれば、米国と中国の双方の利益となり、両国のAIエコシステムを構築しながら、切望されているAI倫理の国際基準を作るのにも役立つという。たとえば、多くの中国人科学者は米国で博士号を取得するとキャリアの最初の一歩を築くために中国に帰国し、その後、米国に戻ってキャリアを積む。「こういった動きによって、さまざまな場所で研究者は論文を共同執筆し始めるのです。そして、ベストプラクティスを議論する機会が生まれるのです」。

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