820馬力の12気筒エンジンが唸る!
その出力はなんと820馬力! 7リッターの自然吸気V型12気筒エンジンを搭載したレーシングカーといえば、1998年のル・マン24時間レースでジャガーとして31年ぶり、イギリス車としては1959年のアストンマーティン以来29年ぶりの優勝をもたらしたジャガー・XJR-9LMが挙げられる。そのジャガーの心臓から発したパワーは700馬力と言われているので、ヴァルカンがいかに強心臓であることがうかがいしれるかと思う。その820馬力はX-Track製の6速シーケンシャルギアボックスを介し、ミシュラン・パイロットスポーツカップ2(タイヤ)に伝達され、地面を蹴り飛ばしながら走る。
ブレーキは前後ともにカーボン・セラミック・ブレーキが奢られている。ちなみにサイズはフロント15インチ、リア14インチだ。
このマシンの特徴のひとつはサスペンションシステム。プッシュロッドタイプのサスペンションで、アンチダイブジオメトリ(フルブレーキング時の車体フロントの沈み込みを軽減するサスペンションジオメトリ)を備えている。ダンパーとアンチロールバーの調整が可能で、サーキットに合わせセッティングを追い込むことができる。
レカロのカーボン製フルバケットシートが鎮座するコクピットを覗くと、サイドロールバーがあるなど、かなりレーシーにまとめられている。ハンドルもまるで現代F1のようなデザインで、その径の小ささには驚くしかない。
プロドライバーのレッスンを受けないと乗れない
ヴァルカンのオーナーは過去2年のあいだ、アストンマーティンのプロフェッショナルなインストラクターから特別なドライビングレッスンを受けており、インストラクターのなかには、アストンマーティンのワークスドライバーで、過去3回ルマンの勝利者となっているダーレン・ターナーも含まれている。
そして、2017年にはAMR Proパッケージが発表。ガーニーフラップ付きのリアウィングをはじめとして、ダウンフォースを27%向上させたほか、ギア比の変更などを中心に、現存するすべての車両がAMR Pro仕様にアップデートされた。
4月に開催されたモーターファンフェスタ2019(富士スピードウェイ)に登場したヴァルカンは、そんなAMR Pro仕様の1台。日本において公の場で走行するのは、おそらく初だろう。さらにデモ走行を行なうにあたり、ル・マン24時間レースなどで活躍した旧型ヴァンテージGT3も用意されていた。
ヴァンテージGT3はレーシング車両であるのだが、ヴァルカンの前ではむしろ市販車に見えてしまう。またコクピットの中は先進的で洗練されたヴァルカンとは趣がかなり異なり、古典的とさえ思えてしまった。
特に後部はかなりの荷物が詰めるのでは、と思えるほど。写真を撮っているとメカニックの方から「トランクにタイヤを積んでサーキット走行が楽しめますよ。いかがですか?」と声をかけられた。
確かにタイヤは4本は載せられそうで魅力的。当然ながら金額の折り合いはつきそうにないが……。