サブスクリプションとリカーリングの違いとは?
大谷:サブスクリプション自体も、ずいぶん認知度も上がってきたと思うのですが。
桑野:まだまだですね。だから、本を出させてもらいました。Zuora CEOが書いた「Subscribed」の翻訳で、日本ではダイヤモンド社から「サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」として発売されています。原書も北米ではベストセラーだったのですが、日本でもAmazonのビジネスカテゴリでトップを獲得し、3ヶ月で8刷までいくヒットになっています。
各業界の事例だったり、組織がどのように変わるべきか、新しいKPIをどのように持つべきかなどが書かれています。ある電子タバコの会社の社長は、この本を読んでサブスクリプションビジネスを始めたそうです。
大谷:最近は「リカーリング」という用語も出てきているのですが、これはサブスクリプションとどういう関係なのでしょうか?
桑野:確かに、ソニーがリカーリングに注力すると言っていたので注目を集めていますが、用語だけは一人歩きしています。「リカーリングはB2B向けで、サブスクリプションはB2C向け」とか、「リカーリング=保守契約」みたいな意見もありますが、これは正しく理解されていると思いません。
うちの定義で言うと、サブスクリプションは「顧客との包括的なリレーションシップ全体」を意味します。顧客ごとのIDを割り振り、行動履歴をすべて追い、エンゲージメントとライフタイムバリューを高めていくという新たなリレーションシップの考え方です。このうち定額課金がリカーリングになります。
大谷:サブスクリプションを構成する選択肢の1つというイメージでしょうか?
桑野:たとえば、自動車会社の例です。今まではワンタイムで車を購入するだけでしたが、購入時にテレマティックスのサービスに加入してもらいます。ここでの定額課金サービスをリカーリングと呼んでいます。その他、音楽配信のサービスに加入してもらったり、旅先でカーシェアリングなどの従量課金のサービスも利用できます。しばらく海外に行く場合はテレマティックスの休止も可能だし、プレミアムにもアップグレードできます。これらを包括したリレーションの考え方がサブスクリプションになります。
大谷:なるほど。ワンタイム、リカーリング、従量課金、サービスのアップグレード・ダウングレードまで全部含めて、サブスクリプションなんですね。
桑野:そうです。アップルの場合も、iPhoneを購入したら、Apple IDを割り振り、Apple Musicに加入してもらい、ゲームや映画のサービスも従量課金で提供される予定です。iPhone本体も購入したり、定額である程度払ったら、アップグレードプログラムで次の機種を使えるので、ハードウェアはある意味リカーリングになっていると言えます。ハードウェアだけで儲けようという意識はなく、あくまで「サービスで儲けるためのプラットフォーム」という位置づけです。
複雑なサブスクリプションの管理をExcelで始めてしまう
大谷:次にサブスクリプションに取り組む企業がZuoraを導入するパターンを教えてください。
桑野:はい。新しいサービスを立ち上げるとき、定額制か、従量課金か、両者を組み合わせた階層型の従量課金なのか、あるいはアドオンやアップグレードの方法、フリートライアルやフリーミアム、月払いや年払いなどさまざまな選択肢があります。また、B2B商材の場合、案件規模は小さくなり、トランザクションは増えます。さらに、サブスクリプションの場合は月初や月末などのタイミングで異なる日割りが入ってきますし、契約や請求も複雑になります。
大谷:単に同じ金額を毎月請求・回収するというシンプルなフローじゃないのですね。
桑野:はい。でも、多くの会社はこれをExcelでやり始めます。Aさんはベーシックプラン、Bさんはプロフェッショナルプランといった感じで、プランをExcelに登録し始めるのですが、プラチナプランが増えたり、アップグレードまでやり始めるともはや無理です。
その点、弊社のZuora Centralではサブスクリプションの上流から下流までを一気通貫でカバーします。複雑なサブスクリプションをポイント&クリックで選択できるので、劇的なスピードアップと試行錯誤が実現できます。
大谷:柔軟にスピーディにサブスクリプションに対応できるのがメリットですね。
桑野:お客様が試しているさまざまなサブスクリプションの取り組みが、機能として追加され続けています。毎月のように機能強化を続けて、1000社のノウハウを組み込み続けて、もう110ヶ月です。1社で試行錯誤するのではなく、Zuoraを導入してみんなで試行錯誤しましょうということです。
サブスクリプションをやっていると、「フリートライアルユーザーの中で、誰がコンバージョンしそうか」「アップセル/クロスセルしてくれそうなお客様は誰か」「どのお客様が解約しそうか」などが気になります。こうした情報も事業者が持っているユーザー動向の履歴とZuoraを掛け合わせることで見えてきます。
たとえば、ログイン回数が多いユーザーであれば、コンバージョンに至る率は高いですし、ストレージの利用容量が少なければ解約率も高そうです。逆に利用率が高ければ、上位プランにアップセルをかけるタイミングですよね。こういう分析が容易に行なえます。
大谷:競合は現れてきているのでしょうか?
桑野:最近はSAPやOracleもこうしたサブスクリプション管理に乗り出していますね。とはいえ、ERPって時間の概念を持てないので、現時点では「誰が一番いいお客様か」みたいな情報を得ることは難しいんです。請求や売上計上処理を無理矢理載せれば実現するのですが、こうするとサブスクリプションビジネスをスケールさせるのがかえって大変になります。