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百年以上の歴史を持つ「プロダクト販売」は終焉を迎えつつある

サブスクとリカーリングの誤解、Zuora桑野社長が解きほぐす

2019年04月10日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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 アップル、アマゾン、NETFLIXなどが先行し、日本でも自動車や家電、ファッション、飲食などさまざまな分野でサービスが発表され、いわゆる「サブスク」はすっかり市民権を得たようだ。こうしたサブスクリプションビジネスを支えるZuora Japan 代表執行役社長である桑野順一郎氏に改めてサブスクリプションの本質やリカーリング、日本でのサブスクリプションについて聞いた。

Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏

サブスクリプションは企業や組織に大きな変革を促す

大谷:3年前、桑野さんにインタビューし、記事を書かせてもらいました。当時はサブスクリプションという言葉はまったく認知度がありませんでしたが、今ではもはや「サブスク」として一般化しつつありますね。

桑野:確かに日本でなんと言えばよいかも迷っていましたが、ちょうどNETFLIXやApple Musicがスタートしたタイミングだったので、このままサブスクリプションという表現をアピールすることにしました。

所有から利用へという利用形態を生み出したサブスクリプションへの移行は顕著に表れています。Zuoraユーザーの利用動向を調べた「サブスクリプションエコノミーインデックス」によると、サブスクリプションモデルを追求する企業は既存の企業に比べて高い成長が見られます。具体的に言うと、2012年1月~2018年6月を調べると、サブスクリプションビジネス全体の収益は、S&P 500社の3.3%、米国リテールサービスの4.1%に比べて、約5倍も速いスピードで成長を続けています。

大谷:なるほど。成長著しいんですね。改めて、サブスクリプションが単なる月額課金ではないという点を教えてください。

桑野:従来のプロダクト販売は、いいプロダクトを作って、既存のチャネルを通じてとにかく数を売るというモデルでした。でも、この延長上でサブスクリプションを始めるとうまくいかない。サブスクライバー(加入者)とサプライヤー(提供者)が直接つながることで、サブスクライバーのニーズはつねに変わり続けます。だから、サプライヤーはサービスの価値をつねに向上させなければなりません。サブスクライバーが価値を感じなければ、解約されてしまうからです。こうして、長期的な収益化に結びつけるのがサブスクリプションの本質です。

サブスクリプションは月額課金や定額制などとかく課金体系にフォーカスが集まりますが、より本質的なサービス提供モデルへの変革を企業や組織に促します。マーケティングも、ブランディングからエキスペリエンスへ、営業も、プロダクト販売から価値の提供へ。そしてファイナンスも、ユニットあたりの利益からライフタイムバリューへと、それぞれ目的をシフトさせる必要があります。もちろん、カルチャーもヒット商品の開発から、リレーションシップの強化に変わらなければなりません。ここらへんが前回までのお話ですかね。

大谷:そうですね。そういったメッセージを訴えたくて、「『サブスクリプション=月額課金』にあらず!Zuoraの深謀」というタイトルを付けました。改めて聞くと、組織でのサブスクリプションへの移行って、デジタルトランスフォーメーションそのものなイメージがありますね。

桑野:おっしゃる通りです。たとえば、原価に利益を載せる従来のプロダクトモデルの場合、いったん決めた価格を変えるのは悪というカルチャーが多いですよね。でも、Zuoraのお客様は、顧客のデマンドと使用量によって価格を変えていきます。言葉は悪いですが、ユーザーの食いつきが悪ければ、価格をアジャストさせていきます。

差別化要因も、製品コストと品質ではなく、プライスパッケージです。もはやZuoraのお客様は最終版を出すというイメージはありません。ある程度の品質でスピーディに商品を出して、ユーザーの声を反映しながら、「永遠のβ版」として進化させ続けていくという考え方になります。

大谷:品質最優先で、市場に対して遅れてしまう日本の製造業にとっては、一番ギャップのある考え方かもしれませんね。

桑野:欧米ではとにかくアジャイル開発で、出した商品を改善していきます。製造業がIoTやデジタルトランスフォーメーションでぶち当たる壁ですね。

当然、われわれのところにも、組織やビジネスをどのように変えたらよいのか?という相談が来ますが、ソフトウェア会社なので限界があります。ですから、昨年デロイト・トーマツと組んで、コンサルティングを仕掛けていこうと考えています。

既存のビジネスを変革するサブスクリプションが一般化した

大谷:サブスクリプションの台頭で、市場もずいぶん変わりつつありますね。

桑野:昨年からアップルはiPhoneの販売台数を公表しなくなりましたが、これは物売り型からサービス型への収益構造の変換を表したものと言えます。先日も、映像のサブスクリプションサービスを発表しましたが、もはや彼らのKPIはiPhoneの販売台数ではなく、Apple IDとID単価に移ってきているのはあきらかです。

Amazonも月額課金のAmazon Primeが1億人を突破してますが、これも100ドルという年会費を考えると、すでに1兆円規模のビジネスに成長しています。Amazonはこうしたサブスクリプションでの安定した収益を原資に、次の付加価値につながるサービス開発を進めています。

大谷:いわゆるGAFA以外の事業者も次々とサブスクリプションにチャレンジしていますね。

桑野:はい。ギターのフェンダーはデジタルトランスフォーメーションの事例として有名ですが、彼らと購入者の9割が難しすぎて、ギターを断念してしまうということでした。これに対して、フェンダーはトレーニング動画を配信し、サブスクリプション型で収益化するという方法をとりました。今までわからなかったお客様とダイレクトにつながり、トレーニング動画もお客様のレベルに合わせたものが提供できるようになりました。

最近の北米のSaaS事業者は、まず中小企業向けにWebでのフリーミアムやトライアルを仕掛けて、フィードバックを受けて、製品を仕上げていきますよ。重要なのは、プライシングパッケージも変え続けるという点です。どういう機能が欲しいかだけではなく、どういう使い方をしたいのか、どういう買い方をしたいのかまで考えています。こうして製品がよくなっていくと、次にエンタープライズに売っていくのがシリコンバレーのベストプラクティス。うちのお客様だとfreeeさんとか完全にその流れですね。

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