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2019年は「デジタルファースト」に向けての節目の年

国家戦略特区を推進してきた平議員が語る「デジタルガバメントへの道」

2019年03月04日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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 2019年2月19日、アドビシステムズは「デジタルファースト時代に向けて」と題したビジネスセミナーを開催した。「経済構造改革とデジタルファースト」というタイトルで基調講演を行なったのは、元内閣府副大臣 衆議院議員平将明氏。平氏は、デジタルファーストに向けた政策概要や政治家として考えていることなどを披露した。

基調講演を行なった元内閣府副大臣 衆議院議員 平将明氏

行政手続きを原則デジタル化する法制度の確立へ

 平氏が事務局長を務めていた自民党の経済構造改革特命委員会は、アベノミクスの先を見据えた経済施策を生み出すべく2年半前にスタート。地域を牽引するハブ企業の抽出やベンチャー支援、イノベーションの実現や日本の「勝ち筋」への投資などさまざまな施策のうち、規制緩和の文脈で注力しているのが今回テーマとなったデジタルファーストになる。

 現状、デジタルファーストに関しては法律化が完了していない。昨年、議員立法として提出される予定だった「社会全体におけるデジタル化の推進に関する法案」は提出まで至らなかったが、今年は政府が閣法としていわゆる「デジタル手続き法案」が提出される予定だ。

 デジタル手続き法案はいわゆる紙ベースだった既存の行政手続きを原則デジタル化するという内容で、デジタルで完結する「デジタルファースト」、情報登録が一度で完結する「ワンスオンリー」、複数の手続きをまとめて実現する「コネクテッドワンストップ」という3つの大原則が示されているという。政府が省庁間をしっかりつなげることによって、異なる役所で別々の手続きをするという手間をなくそうという趣旨だ。

 あわせて「添付資料の削減」や「電子認証や電子納付の推進」「データの標準化やAPIの整備」「デジタルデバイドへのサポート」なども謳われている。個別施策としてはマイナンバーの利用が推進され、海外居住者へのマイナンバー対応、災害時の罹災証明や保険証としてのマイナンバーの活用などが視野に入っているという。「今回の法律には入っていないが、マイナンバーカードを持たず、スマートフォンで同じ利便性を享受できることが重要だと考えている」と平氏は語る。

デジタルガバメント、マイナンバー、マイキープラットフォーム

 平氏は、「これ以降は個人的な意見」と断った上で、政治家としてデジタルファーストへの取り組みや将来像について持論を展開した。

 まず紹介されたのは、マイナンバーカードに自治体独自のポイントを溜めるを溜められる「マイキープラットフォーム」という制度だ。おもに地方創生を見据えた制度で、民間企業のポイントを自治体ポイントに交換することで、地域の行政サービスの利用や商店街の活性化に役立てることができるという。この自治体ポイントを日本全体で使える“ナショナルポイント”にし、マイナンバーの利用価値を上げたいというのが平氏の構想だ。

 政府や自治体がこうしたポイントを利用することで、いわゆる給付をポイントで行なえる。「たとえば、軽減税率は所得の低い人が食料品を購入する負担を軽くするために導入される。でも、軽減税率はデジタルガバメントがなかったときの政策。この人たちがマイナンバーカードを持てば、ポイントとして給付が行なえる」と平氏はアピールする。こうしたポイントを円のデジタル通貨として利用することで、被災地域での保険金の受け渡しや、増税による消費の落ち込みなどにも、迅速に対応できる。スマホのウォレットなどを活用できれば、さらに利便性は上がるという。しかし、現状はさまざまな規制がある。たとえば、現状給料の支払いは現金や銀行への振り込みのみ。「でも、FinTechが隆盛となる中、本当にこれだけでいいのか?議論しなければならない」と平氏は訴える。

 今後、政府のデジタル戦略は、デジタルガバメント、マイナンバー、マイキープラットフォームなどを軸に進んでいくが、安定した政権運営の元、さまざまな政策はスピーディに実行されている。「IT戦略特別委員会もデジタル戦略を毎年更新している。こんな政党は自民党しかない」と平氏はアピールする。

日本流のデータ利活用体制の構築を

 平氏は、「今年はデジタルファーストにとって節目の年」になると語る。先般のダボス会議では、安倍首相が「DFFT(Data Free Flow with Trust)」という言葉で、信頼のあるデータ流通の重要性をアピールした。データ戦略は、個人情報の利用に厳格なヨーロッパ、GAFAのようなプラットフォームプレイヤーを擁する米国、国家単位でデータ利用を推進する中国などさまざま。「われわれはどのようなポジションをとるのか、こうあるべきというビジョンを示すのか、いずれにせよData Free Flow with Trustの『with Trust』がキーワードだと思っている」と平氏は語る。

 平氏は、先般メルカリやスマートニュース、ヤフージャパンのトップとパネルディスカッションを行なった感想として、事業者にとってヨーロッパのGDPRの規制が厳しいと感じたという。その点、「DFFTの枠組みは必要以上に厳しく規制せず、ソースコードの開示や国内データセンター利用などを前提としない方がよい」と持論を展開した。

 国家戦略特区に長らく関わってきた平氏は、中国に対して強い危機感を感じているという。「国家戦略特区はイノベーションを起こすためにリスクをとる。リスクを緩和するために規制があるわけで、国家戦略特区では規制を緩和するということはリスクをどのようにカバーするかを考える。その点、中国は大胆にリスクをとって、イノベーションを取りにいっている。しかも、14億人規模の人口を抱えている。国そのものがイノベーション特区だ」と平氏は指摘する。では、こうした米国、EU、中国にはさまれ、1.2億人の日本はどうすべきか?

 平氏は、業務の負荷に応じてインセンティブを動的に変化させて給与計算をし、給与をFinTechで送金する日本のベンチャーについて言及。「インセンティブが有効に機能する外国人の雇用の生産性向上や銀行口座を持たない労働者向けの給与支払いには有効だが、そもそも給与を現金で渡すか、銀行口座に振り込まなければならない日本国内では利用が難しい」と指摘した。一方、そのベンチャーは海外展開を中心に据えており、1つの有望な市場として見据えているのがインドだ。「十数億人の人口を抱えるインドだが、戸籍は国民の半数程度しかなく、近年では戸籍に代わって若い世代を中心に生体認証でカバーし始めているが、それでも銀行口座を持てない人も多い。そのため、そのベンチャー企業は給与振り込みをスマホのウォレットにFinTechで直接支払うことで、10億人の市場を開拓するかもしれない」と語る。

 現状、GAFAは検索やSNS、ショッピングなどのビッグデータを持っているが、そのほかにもさまざまなビッグデータが存在している。官民のビッグデータを活用し、さらにインドなどと組むことで、さまざまなイノベーションにチャレンジできるはずというのが、平氏の持論。最後、「いずれにせよ、デジタルやデータの流通に関して、今年は大きな節目の年になってくると思います。しっかり議論して、政策を作っていきたいので、みなさまからのいろいろな知恵をいただければと思います。ありがとうございます」と締め、基調講演を終えた。

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