さくらの熱量チャレンジ 第29回
対談:jig.jp福野氏×さくら田中氏、オープンデータの可能性
大変な時代だからこそ、地方でオープンデータにチャレンジしやすい
2019年01月09日 08時00分更新
リアルタイムデータを集めて解析すると未来がわかる
福野:水位計のデータに注目した理由の一つには、リアルタイムに変化するデータをオープン化したかったというのがあります。行政が公開するデータは変化がないものが多くて、1回見たら終わってしまいがちです。みんなの関心を得るためには変化のあるデータがいいんです。
さくらインターネットさんと一緒にやった「バス乗客リアルタイムオープンデータシステム」(関連記事)もそうですね。これは鯖江市で利用しているシステムで、バスの位置情報と乗客数がリアルタイムでわかります。公共バスは、乗客数に合わせて国からの助成金が決まるので、乗客数を数えて解析し、乗客数が増えるように最適化していこうというのが狙いです。乗客数の把握は、バスの運転手さんが一人ひとりボタンを押して、そのデータをさくらさんが作ったマイコンボードのIchigoSoda(子供向けのプログラミング教育ツールとしてjig.jpが開発したワンボードマイコン「IchigoJam」に「sakura.ioモジュール」を取り付けられる互換機)で送信しているのですが、このシステムを入れる前は、正の字を紙に手書きしていたんです。しかもその正の字を書いた紙が大量にたまるので、それを職員が毎月3日間かけてエクセルに入力していました。それが楽になるということで、すんなり導入が決まりました。
水位計測の事例も同様ですが、場所によって数値が変わるというのは測ってみないとわからない。何が原因で変わっているのかは、他のデータと組み合わせて初めて明らかになる。このような解析で、今後の予測がどんどん立てられるようになってくる。こういった、未来がわかるようになるためのデータをいかに集めていくかがポイントになります。
例えば、水位計測のためのセンサーは橋に取り付けているわけですが、ここで一緒に加速度センサーも付けておけば橋の通行量が把握できますよね。鯖江市ではすでに、オープンデータを基に橋の老朽化の状況を「鯖江市 橋梁オープンデータ」として公開しているのですが、この橋の年齢と通行量を合わせれば、橋が落ちる危険度が推測できます。
田中:私自身も、オープンデータやテクノロジーで災害を減らしたいという思いは常にあります。さくらインターネットのグループ会社のゲヒルンでは、気象庁に専用線を敷いて警報などの情報を受信し、Twitterで発信しているのですが、あくまでも国のデータだけなんです。オープンデータを一時情報として、次はどこに災害が起こるかの予測までできるようになれば、不幸な事故を防げるのではないかと思います。
今、行政が防災のために土木やインフラ整備に多額のお金をかけていますが、かけたお金に見合う効果が上がってないと思うんですよ。土木やインフラにはお金がかかります。土木工事のお金数のパーセントでもデータ解析の予算に回ってくれば、明らかに市民生活が変わると思いますね。
大変な時代だからこそチャレンジしやすい
――福野さんは、これまでに福井から出ようと思ったことはありませんでしたか?
福野:17歳位のとき思いました。当時、アルバイトでプログラムを書いていたのですが、本場といえばシリコンバレーだから行きたいなと思って。そんなとき、チャットで外国人に「僕はもう日本はいいと思う」と言ったら、「おまえは日本の何を知っているんだ」とたしなめられました。それで「たしかにそうだ、やることはやって、困ってから行けばいいな」と思いとどまったんです。そのまま困ることなく今に至るという感じです。
イノベーションを生むのには色々な業界の人とフラットな付き合いができることが大事です。その点、自分にとって鯖江市は最高ですね。だって、今から(中国の)深センに行って、市長から商店街のおじさんからみんなと知り合いになって関係性を作れるかというと、なかなか難しい。みんなそれぞれのホームがあって、そこでの課題をみんなで考えて、色々なものを交換し合って解決していくというのが効率いいと思います。
田中:ずっとやり続けているとつながりは強固になりますよね。人間関係とフィールドは重要だと思います。フィールドがあって、そこにテクノロジーがあれば、お金はそんなに必要ありません。オープンデータについても、福野さんは鯖江をフィールドにまずは実践してみる、そこから全国へ広げていくということをされているのはすばらしい。日本は規制が多い国ですから、テクノロジーを持った民間企業が自治体に対して「やらしてくれ」「いいよ」が通るだけで、改善できる社会課題がたくさんあります。
福野:今、国も自治体も、共通認識として「どの地方も大変な状況にある」と分かっている。そう意味で、社会課題を解決するための取り組みは非常にやりやすい、面白い時代だと感じています。特に鯖江市は、市長が「何もしないのが一番だめだ」「責任はうら(福井弁で私)がとるから、失敗する経験も含めてどんどんチャレンジするのがなにより大事だ」と言い続けているので、市役所の職員も遠慮なく新しい取り込みを進められます。
データの活用を進めなければ世界の課題は解決できない
福野:鯖江市がオープンデータで有名になって、僕も「オープンデータ伝道師」として全国の自治体にオープンデータを普及させるお手伝いをしています。地方自治体はどんどん担当職員が変わってしまうので、講演やワークショップをいくらやってもまたやり直しになってしまう。そこで、自治体がオープンデータを簡単に公開するためのパッケージを作りました。でも今度は、自治体がパッケージにお金をかけることへのハードルがすごく高い点がネックになっています。色々困難はありつつも、まずは、鯖江市でやってきた面白いことを、他の自治体がマネしてくれればいいかなと思っています。
それから、全国で企業や子供向けのIoT研修を行っています。センサーを使って地域のデータを収集する仕組みを子供と一緒に作ってオープンデータとして出していくようなことや、企業にIoTを体験してもらうようなことをしています。先日も、製薬会社の社員50人くらいを対象に、たった2行のプログラムで家にあるLED電球をスマホから操作できるという内容の研修をしました。
田中:いいですね。子供向けだけじゃなくて、大人向けも重要です。労働力不足が深刻化する今、企業や役所で、これまで要求仕様書を作って発注するような仕事をしていた人がプログラミングをできるようになれば、クリエイティビティも上がる。役所の土木課には重機を運転して工事する人もいるのに、ITプロフェッショナルはほとんど雇われていない。役所の中でプログラミングもやればいいんです。
余談ですけれど、日本全国に自動車の整備工場がありますよね。車を解体して組み立てるのはどう考えてもコンピュータより難しい気がする。地方にもたくさんいる自動車のエンジニアが、地元で地域のITに対してコミットしてITプロフェッショナルになれば、地方がずいぶんと変わるんじゃないかなと思います。
福野:そうですね。今はデータを作ることも活用することも簡単にできるようになっています。オープンデータはいくつもつなげることで世界を変えることができるし、それをどんどん加速させていかないと、世界中に山積する課題を解決できません。そこのスピードアップを世界規模で進める、おもしろい事例を日本から創り出していきたいと思います。
(提供:さくらインターネット)
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