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日本の「働き方改革」はどこで間違ったのか、IDC「働き方の未来」アジア太平洋地域調査

職場変革のための最新IT導入、日本企業はアジア内で大きく出遅れ

2018年11月21日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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日本の「働き方改革」がIT導入などの具体的施策につながらない理由

 日本ではすでに何年も前から政府が「働き方改革」や「業務生産性の向上」を声高に訴えているが、それを受けた企業の行動実態はかなり微妙なもののようだ。

 冒頭で紹介したとおり、IT施策を伴う職場変革を展開済み/展開中の企業は33%にとどまり、将来的にもその計画がない企業が40%を占めるなど、すでにAPeJとの大きなギャップが見られる。IT導入などの施策を通じて業務生産性を向上させることなく、残業時間の抑制だけを進めようとした結果、「持ち帰り残業(隠れ残業)」が多発しているという実態は、IDCによる今年1月の発表ですでに指摘されているとおりだ。

 さらに今回の調査によると、テクノロジー導入以外の取り組みも決して進んでいるわけではない。たとえば「働き方改革」の中でも重要視されている「柔軟な働き方」「時間や場所にとらわれない働き方」の比率を増やした、あるいはその予定があるとした日本企業は30%未満にとどまり、APeJの約40%を下回っている。さらに、サテライトオフィスやコワーキングスペース、フリーアドレスオフィスの利用については、日本企業とAPeJでおよそ20ポイントの大差がついてしまっている。

 「日本でも大企業を中心にサテライトオフィス、フリーアドレスなどの導入は進みつつあり、それがメディアで取り上げられるケースも多いが、実態としてはアジア諸地域と比べた場合に遅れが目立つ」(市川氏)

近年の日本では「柔軟な働き方/働く場」の必要性が叫ばれているが、具体的な取り組みはAPeJよりも遅れている

 日本企業の「働き方改革」が、新たなIT導入などの具体的な施策に落とし込めていない要因のひとつとして、市川氏は「『働き方改革』の目標が明らかではない」ことを指摘した。より正確に言えば、経営層における「ビジネス目標としての」位置付けがあいまいなままに進んでいる、ということだろう。IDCの「未来の働き方」においては「持続可能な競争優位性」の実現(=ビジネス的目標)がゴールとなっているが、「働き方改革」の場合はそうではなく、経営におけるKPIの設定、成果を測る指標の策定が難しいという。

 「たとえば『残業時間の○%削減』といった目標は立てられるが、経営側が(ビジネス視点から)納得し、『働き方改革』をさらにその先へ進めようというKPIにはならない。取り組みを進めても売上などにダイレクトに影響するものではないので、KPIとして設定しにくいとは言える。ただし、具体的なKPIが設定できていないと成功か失敗かの判断ができず、次の方向性や施策の決定にもつながらない。そこが『働き方改革』で危惧される点だ」(市川氏)

 APeJ他国の、政府がとりたてて「働き方改革」の取り組みを提唱、推進していない国の企業のほうが、結果としてワークスペースやワークフォースの変革に資する取り組みを進めている現実がある以上、日本の「働き方改革」はその目標をもう一度見直す必要があるのではないだろうか。

IT/最新テクノロジー導入に加えて「デジタル教育/トレーニング」が急務

 アジア各国では、デジタルツールや最新ITの活用に慣れ親しんだ「ミレニアル世代」(30代中盤以下の世代)の労働人口比が高く、この世代が望む働き方/価値観に合わせるかたちでワークスペースやワークカルチャーの変革が進んできた側面もある。一方、日本ではミレニアル世代の労働人口が比較的少なく、注目も集まっておらず決定権もないために“変革の牽引役”が不在であり、これも変革に出遅れている一因であるとIDCでは指摘している。

 市川氏は、ミレニアル世代の考え方や行動は日本も他国も変わりがなく、この世代を企業が注視し、この世代が中心となっていくことで日本企業にも変化が起きるのではないかという見方を示した。

 「日本のミレニアル世代も、(アジア他国や米国の同世代と)同じようにデジタル機器を使い、グローバルで利用可能なコンテンツを見ている。根本的には(感性や行動において)他国の同世代と変わらないと思う。日本企業がミレニアル世代の声に耳を傾けるようになる、あるいは同世代がインフルエンシャルな(影響力のある)存在になることで、日本企業も変化せざるを得なくなるかもしれない」(市川氏)

APeJではミレニアル世代が好む「働き方」への対応が進んでおり、それが職場変革の原動力にもなっている

 また、最新テクノロジーを活用して職場の変革を実施する際の阻害要因として、日本企業は「スキルを持った人材の不足」をトップに挙げている。最新テクノロジーに関する知識やスキルと市場に関する知見を持つ人材が「不足している」と回答した企業は、日本では約半数の48%に上った(APeJは27%)。ここにもミレニアル世代の従業員が少ないことが影響している可能性はある。

 ただし、そのスキル人材不足に対処するための具体的な施策は、社内人材育成(トレーニング)においても社外人材登用においても、日本企業はAPeJ比で大きく遅れていることもわかっている。たとえば「(将来的な)デジタルスキル人材の不足に備えてトレーニングプログラムを実施している」企業の割合はおよそ30ポイント差、「デジタルスキル人材確保のためにIT人材派遣会社などを利用している」企業の割合も約30ポイント差となっている。

職場変革の阻害要因として、日本企業は「スキル人材の不足」を多く挙げているが、そうした社内人材の育成や社外人材の登用には取り組めていない

 この結果をふまえ、IDCでは「ワーカー(従業員)に対するデジタル教育への投資が重要となっている」と指摘している。市川氏も、IT/最新テクノロジーの導入やIT部門の強化と合わせて、デジタル教育、さらに企業カルチャーの改革を同時に進める「三位一体の改革」が重要であると述べている。

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