このページの本文へ

“Splunk Next”や新製品群が日本市場にも大きなインパクトを与える理由を聞く

Splunk「.conf18」で見た、新たな市場領域への“力強い一歩”

2018年10月09日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 Splunkが2018年10月1日~4日、米国で開催した年次カンファレンス「.conf18」は、同社の急成長ぶりともに、新たな市場領域に向け“力強い一歩”を踏み出したことを示すものとなった。

今年の.confでは次世代テクノロジービジョン“Splunk Next”を発表、新たな領域に踏み出す方針を明確に示した

「この1年で、イノベーションのペースや企業文化が大きく変わった」

 2018年度(2017年2月~2018年1月期)のSplunkの業績は、売上高が前年比34%増の12億7100万ドルと大きく成長した。さらに最新四半期決算(2018年5月~7月期)も前年同期比38%増となる3億8830万ドル、うちソフトウェア売上高は同43%増2億3970万ドルと、高い成長を維持し続けている。

 しかし、今年の.confで特筆すべきことはビジネス規模の拡大ではないだろう。会期中に発表されたのは次世代テクノロジービジョンの“Splunk Next”であり、それを具現化する6種類のベータ版製品を含む15以上の新製品だった。Splunkにおけるイノベーションが急加速していることがわかる。

 米Yahoo!でチーフ・データ・アーキテクトなどの要職を務め、2017年にSplunk入りしたCTOのティム・タリー氏は、この1年間で282件の米国特許を取得したことや500件以上の特許を出願中であること、さらには製品チームの陣容を55%拡大したことなどを示し、Splunkが“テクノロジーカンパニー”として成長していることを強調した。同社 ワールドワイドフィールドオペレーション担当プレジデントのスーザン・セントレッジャー氏もまた、イノベーションの加速や企業文化の変化を指摘する。

 「この1年で、Splunkにおけるイノベーションのペースが大きく変わった。企業文化も大きく変化している。クラウドやビッグデータのエンジニアを数多く採用しており、『すべてのデータへのアクセスを可能にするテクノロジー』を提供する企業へと、さらに進化している」(セントレッジャー氏)

米Splunk ワールドワイドフィールドオペレーション担当プレジデントのスーザン・セントレッジャー(Susan St.Ledger)氏

 こうしたSplunkの大きな変化は、同社のパートナーや顧客も感じとっているようだ。

 たとえば、今年の.conf18の参加者はおよそ8000人に上った。昨年の.conf17は6000人、一昨年の.conf16は4000人であり、一昨年比で2倍の規模に成長している。ちなみに.conf16は今回と同じホテル(カリフォルニア州オーランドのウォルトディズニーワールド・スワン アンド ドルフィン リゾート)で開催されたが、その際はすべてのイベントが同ホテル内で完結していた。しかし今回は、基調講演が同ホテルのコンベンションセンターに収まらない規模になったため、ホテルから車で約10分離れたESPN Arenaも使うことになったという。ちなみに初日の基調講演は、Webキャストを通じて12万5000人が視聴した。

 日本からはパートナー企業、ユーザー企業をあわせて約100人が参加した。これも過去最高であり、今年は初めて日本語通訳サービスも用意された。日本法人であるSplunk Services Japanも、事業規模の拡大にあわせてこれまで以上に力が入っていることがわかる。

 なお来年(2019年)10月に開催される.conf19は、今年と同じオーランドではなくラスベガスで開催することが発表されている。近年、米国ではカンファレンスの開催規模が大きくなると、より大きな会場を求めてラスベガスに場所を移すケースが多い。Splunkでも、これまで以上に大規模な会場が必要になっていることの証と言えるだろう。

より幅広いユーザーに向けて“データ活用ソリューション”を提供

 それでは、今回の.conf18はIT市場にどんなインパクトを与えたのだろうか。

 ひとつは、これまで「セキュリティ」や「IT運用」のソリューションを提供するベンダーという位置付けだったSplunkが、“データを活用したソリューション”の提供ベンダーへと歩みを進めたことだ。それは、2つの観点から示すことができる。

 1つめは、今回の.conf 18の発表で目玉となったSplunk Nextである。6種類の製品がベータ版リリースされたことはすでに触れたが、セントレッジャー氏によれば、これらの製品は2019年2月からスタートする2020年度に、相次いで正式版がリリースされることになるという。

 「Splunkはもっと多くのユーザーに知ってもらい、活用してもらうべき製品である。とくに、ビジネスユーザーにもSplunkのパワーを活用してもらいたいと考えた。Splunk Nextでは、よりユーザー中心型の開発アプローチを取ることで、専門知識を持たないビジネスユーザーまでを対象にすることができるようになった。これにより、現場主導で課題を直接解決できるようになる」(セントレッジャー氏)

Splunk Next製品の1つ、Splunk Business Flowはビジネスアナリストやプロダクトマネージャー向けのソリューションだ

 2つめが、Splunk初のIoTソリューション「Splunk for Industrial IoT」を発表したことだ。製造業などで生成されるIoTデータを収集、分析し、監視を行うことができる製品であり、Splunkにとって、これまで手つかずだった領域へのアプローチが可能になる。

 センサーやデバイスから発信される非構造化マシンデータは、企業が取り扱うデータ量の8割を占めているという。Splunk for Industrial IoTによって、「さまざまな場所に、さまざまなフォーマットで散在しているマシンデータを収集し、顧客のビジネスに貢献する」という、Splunkのビジョンを具現化する上で大きな進歩につながる。Splunk Services Japan セールスエンジニアリング本部 部長の三船亜由美氏は、その可能性を次のように語る。

 「Splunkの特徴は、データの集めやすさと、柔軟性を持ったプラットフォームを実現していること。捨てられていたデータから価値を出すところにも踏み込むことができるようになる。マシンデータをこれまで以上に幅広く活用していくことができるようになる」(三船氏)

Splunk Services Japan セールスエンジニアリング本部 部長の三船亜由美氏

 .conf18が与えたもうひとつのインパクトは、セキュリティやIT運用といったSplunkがこれまで得意としてきた領域においても、機械学習や自動化といった新たなテクノロジーを進化させる形で加えたことだ。

 セキュリティ領域においては、2018年3月に買収したPhantomを「Splunk Enterprise Security」や「Splunk User Behavier Analytics」と連携させる発表を行った。三船氏は「これまではデータの収集、分析までをカバーしていたが、これからは『分析後のアクション』までをカバーし、顧客のビジネスやITシステム全体のセキュリティ強化や効率化に寄与できるようになる」と説明する。Phantomによる自動化と、Splunk User Behavior Analyticsによる機械学習機能の進化は、同社のセキュリティソリューションを大幅に拡張することになる。

 また、IT運用においては「Splunk IT Service Intelligence 4.0」によって、機械学習技術を進化させた。最新の監視機能と分析機能の統合によって、新たに発生した問題を迅速かつ容易に検出するだけでなく『予測に基づいて行動するIT管理』へと移行できるようにした。三船氏は、買収したVictorOpsとの統合によって、検知、分析したあとのアクションにも踏み込むことができ、データをより有効に活用できることも強調した。

 「Splunk IT Service Intelligence 4.0は、IT運用に特化したプレミアムソリューションとして提供する。機械学習のアルゴリズムを組み込み、障害の異常検知、傾向分析などを実現し、IT運用の観点において、作業効率の改善、プロアクティブな運用体制を実現できる。より多くのユーザーが機械学習を利用できる環境を提供することができる」(三船氏)

日本市場に対するインパクト、セキュリティ領域“以外”への拡大

 今回の一連の発表は、Splunkの日本におけるビジネス拡大という観点でも、重要な意味を持つことになる。

 三船氏はまず、日本の既存顧客に対するインパクトを説明した。日本市場ではセキュリティ領域でSplunkを導入しているユーザーが多い。こうした顧客では複数のポイントセキュリティ製品からログデータを収集し、統合的に管理、分析しているが、ここで新たに機械学習や自動化も適用されることで、さらなる効果が期待できるだろう。

 ただし日本市場においてインパクトがより大きいのは、セキュリティ以外の領域への展開が加速していくことだ。

 「米国と比べると、日本におけるIT運用での利用はまだこれからの段階だ。Splunkの課金体系はデータ量に基づくものなので、ひとつのデータをさまざまな領域で使ってもらうことで投資対効果を向上させやすい。セキュリティ用途で取り込んだサーバーのログ、ネットワークのデータなどは、そのままIT運用の最適化にも使える。今回の.confで発表された新製品によって、セキュリティ以外の領域にどう展開していくか、あるいは逆にIoTデータをどうセキュリティ領域で活用していくかといった提案が可能になった。顧客にとっては『一粒で何度もおいしい』状況が生まれることになる」(三船氏)

 セントレッジャー氏も「大きなマーケットである日本において、新たな製品群でさらに多くのユーザーが獲得できると期待している」と語った。

 「デジタルトランスフォーメーションにSplunkを活用できることが理解されていないのが現状。同じSplunkプラットフォーム上で活用していたセキュリティデータを、デジタルトランスフォーメーションにつなげることができる。日本の顧客には、とくにこうした活用に期待したい」(セントレッジャー氏)

 また、製造業が多い日本においては、新たなIoTソリューションを切り口に新規顧客を獲得しやすい環境にあるとも言える。セントレッジャー氏も三船氏も、IoTソリューションの発表によって製造業向けビジネスの拡大が見込めると意気込む。

 今後、日本市場ではまず既存ユーザーに限定したイベントを開催し、今回の.conf18で発表された最新情報の提供やグローバルの先進事例などを共有し、セキュリティ分野以外のアプローチを加速させるという。.conf18は、Splunkの日本におけるビジネス拡大という観点からも追い風となる発表が多かったと言えるだろう。

■関連サイト

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード