中国では信用スコアというシステムが運用されているのをご存じだろうか? 日本での報道でも報じられたことはあるので、聞いたことがある人もいるだろう。
中国のECサイト決済に不可欠な「アリペイ」
そのアプリに個人の信用スコアが記録される
芝麻信用はアリババグループのアントフィナンシャルが提供する電子マネーサービス「支付宝(アリペイ)」のアプリの中に入っている機能の一つである。
アリペイは淘宝網(タオバオ)や天猫(Tmall)といった中国の定番ECサイトの利用では支払いに必須のアプリなので、オンラインショッピングが趣味の人はアリペイを利用しており、つまり芝麻信用の信用スコアを持っていることになる。でも信用スコアなるものを算出し、活用できるのは芝麻信用だけではない。
信用スコアが存在する、そもそもの目的としては、日本や先進国のようにクレジットカードが普及していない中で、お金を借りるななど、新しい信用システムを構築する必要があるというものだった。(信用がある人が)お金を借りやすくすることで、個人消費を増やしたり、事業を起こしやすくしたりすることを目指したわけだ。
2015年1月に中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が、芝麻信用のアントフィナンシャルほか、騰訊(テンセント)を含む計8社に信用情報業務のライセンスを発行した。8社8様の信用サービスが表に出てもおかしくなかったが、芝麻信用が最も普及し身近な信用情報サービスとなった。
日本や米国のようにクレカベースの個人信用情報が無い
その代わりとして中国ネット世界で広く使われる
芝麻信用の信用スコアを、中国政府による“国民総監視”と解釈する人や記事が日本では多いのだが、芝麻信用の点数が大幅に下がる要素は、傷害などの犯罪や、極論を言えば国家転覆を企てるような犯罪ではなく、借りた金や商品を返さず踏み倒した場合である。
そもそも国家が特定の人間を監視したければ、信用スコアのデータを芝麻信用からもらわずともマークできるはずなのである。芝麻信用はクレジットカードのシステムが普及していない中国における与信業務であり、アントフィナンシャルとしても、海外に進出するとすれば日本のような先進国ではなく、クレジットカードが普及していない中国のような国になると語っている。
芝麻信用の場合、その信用スコアは350点から950点の間で算出される。前述のとおり、踏み倒しがなければ余程のことがない限りスコアは下がることはない。一方でスコアを上げる(=信用を高める)ためには、最も簡単な方法は学歴や運転免許証情報、水道光熱費の情報などの個人情報を入力することだ(つまり、外国人はこれを入力できないためスコアを上げるのが難しい)。またアリペイでの他人とのつながりによってスコアは変動する。ビッグデータを活用し算出されるのだ。
スコアが上がることで各種レンタルサービスで
デポジット不要で利用できるようになる
スコアが上がる(=信用)が高まる結果、本来はデポジット金額が高いサービスが、デポジット不要で利用できるようになる。たとえば600点を超えると安価なシェア(モバイル)バッテリーがデポジット不要で借りれて、700点を超えるとカーシェアリングもデポジット不要で借りられるといった仕組みだ。
中国全土の路面店やモール内店舗やスーパー内店舗で展開する携帯電話チェーンの「迪信通」も、スマートフォンを芝麻信用のスコア次第でデポジット不要で借りられるサービスを提供している。つまりは現在のところは、本来はお金を一時的に預けて利用するはずのサービスで、信用スコアが高いからそのお金を免除しますよ、というサービスが多い。
ところで前述した8社でない信用スコアも中国国内では続々と出てきている。シェアサイクルのofoやMobikeは、正しく乗車すればスコアがあがり、不正な場所で駐輪した場合にスコアが下がる独自のスコアシステムをアプリ内に導入した。これらはアメとムチのシステムというよりも、正しく乗らないと減点していくというムチの部分が大きいが、今後高得点保有者が得するサービスの登場も文面からは匂わせている。
またアリババのライバルであるEC大手の「京東(JD)」は「小白信用」という信用スコアシステムを独自に導入し、スコアを上げることでデポジット不要で商品のレンタルができるようにした。小白信用を活用した子供用のおもちゃの自動レンタル貸出機も登場している。これにより飽きがこない数日間だけ子供のためにおもちゃを与えるということができるようになったわけだ。
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