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アブラモヴィッチとカプーアによる作品、VRを活用し問いかける

世界的評価を受けるアーティストらがVRアートを公開

2018年06月15日 18時20分更新

文● HTC公式ブログ/Mogura VR

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 (※本記事は、2018年3月7日にHTC社公式ブログに掲載されたMatthew Grepp氏の記事を翻訳したものです)

 2018年3月29~31日に香港で開催された大規模な近現代アート展示販売会「アート・バーゼル香港」で、HTC Viveはアート・バーゼルの公式VRパートナーとして、マリーナ・アブラモヴィッチとアニッシュ・カプーアによるVRアート作品2点を初公開しました。

 マリーナ・アブラモヴィッチの「Rising」とアニッシュ・カプーアの「Into Yourself, Fall」は、制作にVRアートスタジオAcute Artが協力し、最高クラスのVR没入体験が可能なVive ProとVive Focusを使用。香港コンベンション&エキシビションセンターのレベル3コンコース、HTC Vive Loungeで展示されました。

 マリーナ・アブラモヴィッチとアニッシュ・カプーアは、常に挑戦的でインスピレーションをかきたてる個性的な作品を送り出しつづけ、現在活躍中の現代アーティストの中でも世界的に極めて高い評価を受けています。どちらもVR技術を用いたアート作品の制作は今回が初めてです。

 Viveはアート・バーゼル香港のパートナーとして、他に類を見ない統合的なVR体験を同フェアの来場者に提供しました。さらに、来場者は代表的なVRアプリストアであるVIVEPORTを通じて、両アーティストの作品を自宅に帰ってからも鑑賞することができます。これはViveにとっても初の試みです。HTCはアート分野に長期的な取り組みを続けており、最新のテクノロジーを通じたアート鑑賞と制作を推進するグローバルプログラム「Vive Arts」も立ち上げています。

 マリーナ・アブラモヴィッチの「Rising」

 この作品では、鑑賞者は地球温暖化による海面上昇をまのあたりにすることになります。ヘッドセットを着けてVRに没入すると、そこはアブラモヴィッチ本人と2人きりの空間です。彼女はガラスタンクの中から鑑賞者に呼びかけていますが、そこに徐々に水が注入され、水位は腰の高さから首の高さへと上がっていきます。

 鑑賞者はこの「バーチャル・アブラモヴィッチ」と接触を試みるうちに、ふと周りを見回すと北極の氷冠が溶けていく壮絶な光景に取り巻かれています。バーチャル・アブラモヴィッチは鑑賞者に、自分が環境に与える影響について改めて考えるように促し、ひとつの選択を迫ります。環境を守ると誓えばタンク内から水が引き、彼女を救うことができます。断れば水位は上がりつづけ、やがて彼女は溺れてしまいます。

 アブラモヴィッチはパフォーマンス・アーティストの草分け的存在として、自分と観衆の肉体をキャンバスとして使い、時間の経過によって作品を現出させる手法で知られています。彼女はこうした活動によって現代パフォーマンスアートの限界に絶えず挑み続けてきました。そして「Rising」では、別次元へと飛翔を遂げたわけです。

 制作にあたりAcute Artの制作陣は、VR内のアブラモヴィッチを現実の本人そっくりに見せるため、彼女の顔をキャプチャして、その独特な表情をアバターに写し取りました。こうして彼女の分身はVR空間に転送され、人々は世界中どこからでもこのアーティストとバーチャルに交流できるようになったのです。

アニッシュ・カプーア「Into Yourself, Fall」

 これはカプーアが初めて手がけたVR作品であり、鑑賞者はヘッドセットを通じて仮想現実に没入し、自分の内側へと落下していく感覚を味わいながら人体を通り抜ける旅を体験することになります。人体の複雑怪奇な活動を内側から眺めながらどこまでも自分の中に落ちていくという、眩暈のするような感覚をシミュレートしようと試みています。

 旅は森の中から始まります。木々に囲まれた空き地の地面に、大きな黒い穴が開いています。鑑賞者はそこから、いくつもの入り組んだトンネルを落下していきますが、壁はすべて腱と筋肉でできているように見えます。未知の領域に踏み込み、自分を見失うというシュールレアリスティックな体験ができる作品です。

 カプーアとAcute ArtはVRで実現できる体験の可能性に挑むべく、「バーチャルな旅を通じてフィジカルな体験をさせる」というアイデアを軸に、このカスタムメイドのバーチャル空間を作りあげました。ヘッドセットをかぶった鑑賞者は自分“の肉体”を内側から見つめ直すという、めくるめく感覚を味わうことになります。

 カプーアは本作において、触覚性と超越性を同時に喚起する、彫刻界に強い影響を及ぼした彼独特の手法を用い、新しいテクノロジーでバーチャル領域における肉体性の探究に乗り出しました。息子のアイシャン・カプーアが制作したサウンドトラックにのせて、独特の生々しいバーチャルリアリティが展開されます。

アーティストやディレクター、CEOコメント

 マリーナ・アブラモヴィッチの出展前コメント:「私はアーティスト活動を通じて、現代のテクノロジーをどう使えば肉体から肉体へとエネルギーを移し替えることができるかを模索してきました。今回のVR作品は、いま世界が直面している切実な問題、地球温暖化というレンズを通して、テクノロジーが人間の共感にどこまで働きかけるかを問いかけるものです。地球温暖化は生物の存続を脅かす危機です。『Rising』は、その危機にさらされ助けを必要としている他者に共感し、行動を起こす機会を提供します。他者を助けるバーチャル体験が鑑賞者の意識とエネルギーにどのような影響を及ぼすのかという点に、特に注目したいところです」

 アニッシュ・カプーアの出展前コメント:「『Into Yourself, Fall』は、没入体験を作り出す媒体を通じて私たちを人体の内側の旅へと誘い、自分自身の中に落下していく感覚を味わわせます。人体の複雑怪奇な活動を内側から眺めながらどこまでも自分の中に落ちていくという、眩暈のするような感覚をシミュレートしようという試みです」

 Vive Artsディレクター、ヴィクトリア・チャンのコメント:「ファインアートの媒体としてのバーチャルリアリティを巡る議論は20年以上前からありますが、『Rising』や『Into Yourself, Fall』をはじめ、画期的なVRアート作品が世界中で広く鑑賞できるようになったのはごく最近のことです。こうしてアート界の進歩の最前線に立ち、アーティストや文化施設が最先端のテクノロジーを使ってそれぞれのヴィジョンを推し進め、新たなオーディエンスを開拓していくお手伝いができるのは、非常に喜ばしいことです」

 Acute ArtのCEO、ジェイコブ・デ・ギアのコメント:「Acute Artは第一線のアーティストたちと共に、芸術活動の新たな可能性を切り開く没入体験を生み出すVRアートの制作に取り組んでいます。アブラモヴィッチとカプーアは、それぞれの道を極めた、現在活動中のヴィジョナリー・アーティストの中では最高峰の人々です。その2人が先端テクノロジーを使った作品づくりに挑むところを見られるのは、とても刺激的です。その革新的なアートをVRで披露することで、皆様にはアーティストとその活動の新しい側面に触れていただけるわけです。私たちAcute Artは、これまでに手がけた作品をVR美術館で展示しており、個性豊かなエクスペリエンスを世界中どこからでも体験していただけるようになっています」

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