コンピュータのメモリの増設やハードディスクの交換など、IT、デジタル機器でもお世話になるドライバー。オジサンや昔の人なら「ネジ回し」なんて呼んだりするかもしれません(笑)。ただし、この「ネジ回し」の名称は、れっきとしたJIS規格の呼称。おそらく「自動車の運転手」や周辺機器用のためのソフト「デバイスドライバー」と混同を避けるためかもしれません。
ちなみに、なんでマジシャンがネジのことに詳しいかというと…、筆者が工業高校→電機系大学→アメリカ留学と、少し変わった経歴だから。けっしてマジックのタネに使っているわけでも、ナード(オタク)なわけでもありません、たぶんですが…(汗)。
じつはプラスネジは2種類 フィリップスとポジドライブ
ネジの頭の形状は、日本では一般的にはプラスとマイナスが知られていますが、プラスネジには大きく2種類あるのはご存知でしょうか。日本のプラスネジは、アメリカやヨーロッパではフィリップス形(Phillips)と呼ばれています。厳密に説明すると、日本のプラス形とフィリップス形は微妙に形状が異なりますが、ほぼ同じで互換性があると考えてもいいでしょう。
問題なのは、ドイツや英国など、ヨーロッパで普及しているプラスネジ。これはポジドライブ形(Pozidriv)と呼ばれ、気がつかなければ普通のプラス形にみえますが、よく見ると十字型の溝の対角線上にさらに小さな4つの刻みが入っています。このタイプは、日本やアメリカのドライバーを使うと、ネジ頭を壊してしまうことがあります。いわゆる、「滑る(なめる)」という、ドライバーでネジが回らなく状態です。
そうした理由から、海外製の周辺機器やノートパソコンのネジにドライバーを使う場合は注意が必要です。ネジに米印のような溝があればポジドライブ形。ホームセンターやショッピングサイトでドライバーを購入する場合は、同じプラス形でもフィリップス形には「PH」や「H」、ポジドライブには「PZ」、または「Z」の記号が記されています。
IT関連、デジタル機器の星形ネジにも違いが…
ハードディスクなどを換装したことがある人にはお馴染みの星形のネジ、トルクス形(Torx)のネジ。もともとは自動車や電化製品などで普及しました。これは、ユーザーに「開けさせないぞ!」と意地悪をしているわけでなく、カムアウト(ネジを締めるときにドライバーが持ち上がること)防止のために1967年に発明されたもの。
じつは、Nintendoやセガ、IBMのPCに使われている星形のネジは形状がトルクスと似ていますが、トルクスではなく、「ラインスクリュー」や「ゲーム用ビット」と呼ばれるタイプ。トルクス型のドライバーで代用できるかもしれませんが、もし力がかかる場所のネジに使うなら専用のドライバーのほうがネジを壊すリスクがさがります。
トルクスのドライバーには「TX」または「®TROX」、ゲーム機に使われるラインスクリューのドライバーには「ALR」の記号があります。もし、内部のファンの掃除など、メンテナンスで頻繁にネジを緩めるなら、正しいドライバーを使った方がネジ頭を滑めにくくなります。
さらに、ユーザーや子供がプラスのドライバーなどを使って開けることを防ぐ、「不正防止(tamper-resistant)」のネジには溝の中心に丸い突起がある場合があり、ドライバーには「T」や「TR」、「BO」などの記号がつきます。(例えば 「TX BO」や「ALR 2 T」など)。
余談ですが、マクドナルドのハッピーセットのオモチャの電池交換やプラレールの修理にも使える、三角の溝のネジのドライバー記号は「TA」です(笑)。
iPhoneやMacBook Proは?
2009年以降のMacBook ProやiPhone 4から使われはじめた特殊な五角の星形の頭のネジ。これはペンタローブ(Pentalobe screw)と呼ばれているネジです。形状が似ていることから、たまにトルクスの5角形(TPH)と誤解されますが、微妙に溝が違います。ショッピングサイトなどでドライバーを購入する場合は注意が必要です。
ユーザーが分解すると保証が受けられなくなりますが、もし自己責任でケースをあける場合は、ペンタローブ用のドライバーがiFixit.com(アメリカ)やWiha(ドイツ)から販売されています。iPhone用のサイズはP2またはPL1。MacBook AirとMacBook Pro Retinaは、P5またはPL4。MacBook Pro(2009)のバッテリー交換用にはP6またはPL5のドライバーが対応しています。(PはiFixit社、PLはWiha社での型番です)。
最後に…
ネジとうまく付き合う秘訣は、ネジにピッタリのドライバーを使うこと、それにつきます。ドライバーを回す力は、ネジに押し付ける力が「7」、回す力が「3」なんて習いました。小さなネジは弱く、大きくなるにしたがって少しづつ強めのトルク(ネジをしめる加減)を強めにしていくのもポイントです。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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