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女性の労働を支援する「Empowered Woman JAPAN 2018」開催

「マルチステージの人生」に向けた女性の働き方改革とは

2018年04月23日 12時00分更新

文● 阿久津良和 編集 ● 羽野/TECH.ASCII.jp

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「ウーマンテレワーク体験プログラム」の実践

 次の講演は、新閃力 代表 兼 Trist オーナー 尾崎えり子氏、ダンクソフト 代表取締役 兼 本イベント実行委員 星野晃一朗氏、ウーマンテレワーク体験プログラム参加者代表 入谷真紀氏、流山市長 井崎義治氏、日本マイクロソフト 政策渉外・法務本部 地方創生担当部長 兼 本イベント事務局長 宮崎翔太氏の5人による討論形式で行われた。

左から新閃力 代表 兼 Trist オーナー 尾崎えり子氏、ダンクソフト 代表取締役 兼 本イベント実行委員 星野晃一朗氏

 日本マイクロソフトは2018年3月から企業や支援団体、自治体と連携し、働く意思を持ちながらも諸事情で職に就けない地方在住の女性に、テレワークの体験やスキル習得を目的とする「ウーマンテレワーク体験プログラム」を先行実施した。同年3月から千葉県流山市で同プログラムを開始し、4月3日から佐賀県佐賀市、愛知県岡崎市、群馬県利根郡みなかみ町、そして流山市の4自治体で実施中である。

 日本マイクロソフトは、「技術観点から取り組みを支援しつつ、(本イベントを)全国中継して活動に関与する方々を集め、政府と共に国民的な"うねり"を作り出す」(日本マイクロソフト 宮崎氏)と、ウーマンテレワーク体験プログラムの目的を説明した。同社内では10を超える部門が連携して同プログラムに取り組んでいる。

 本プログラムの作成や実施を担うTristは、「マインドセット」「ITテレワークセット」「専門家講座」「テレワークインターン」と、4段階の教育プログラムを用意。特に最後のテレワークインターンは、「用意した課題にSkype経由で対応する5日間を過ごす。企業側はテレワークの推進方法を理解し、女性側も意思疎通とスキルの活かし方を体験できる」(Tris 尾崎氏)。また、企業向けオンライン講座として社会保険労務士によるテレワーク導入と労務管理や実践企業事例の紹介なども行う。

左からウーマンテレワーク体験プログラム参加者代表 入谷真紀氏、流山市市長 井崎義治氏、日本マイクロソフト 政策渉外・法務本部 地方創生担当部長 兼 本イベント事務局長 宮崎翔太氏

 実際に本プログラムに参加した入谷氏。出産退職後は育児に専念していたが、子どもに手がかからなくなったら働きたいと考えていた。だが、入谷氏が住む流山市周辺では条件に合致する企業が見つからず、酷く落胆したという。そのような状況下でウーマンテレワーク体験プログラム出会った入谷氏だが、当時はテレワークという単語を知らなかったと語る。利用するツールの使い方やコミュニケーションの取り方を学んでいくと、フルタイムで働けない受け身的な状況が一変し、「テレワークビジネスの可能性に広がりを感じると同時に、自身の将来についても深く考えられるようになった」(入谷氏)と感想を述べた。

 一方で入谷氏を受け入れたダンクソフト 星野氏は、「Skypeごしでも(入谷氏の)雰囲気はわかる。弊社は採用面接にもSkypeを使っているが、仮にお断りする可能性を踏まえても、(移動時間や費用がかからないSkypeは)便利だ」と利便性を語る。さらに「テレワークを実践している企業は少ない。弊社ではSkypeの会議室を365日設けて、互いに顔を見ることで共通空間にいる感覚を演出している。ちょっとした工夫でテレワークは身近な道具となる」(星野氏)とテレワーク未導入の企業に対して助言した。

 入谷氏が在住する流山市は前述のとおり、本プログラムを先行実施しているが、同市市長の井崎義治氏は、「新事業を草案する場面ではリスクを想定しがちだが、実行しないリスクも考えなければいけない。また、顕在化した需要と潜在化する需要を考える2つの視点が重要」と本プログラムに協力する理由を語った。他の登壇者も「どの街の女性もキャリアを調整して、ライフスタイルを維持する切実な状況だ。第一歩を踏み出した方々の覚悟を強く感じる」(尾崎氏)。「4都市はあくまでスタート。全国の方々を技術的観点からコーディネートしたい」(宮崎氏)。「IT技術で地方産業が変革することを体感した。日本マイクロソフトには活動を継続して頂き、明るい未来を作りたい」(星野氏)とプログラムに関する感想を述べている。

「マルチステージの人生」への意識改革が必要

 最後の講演は『Work Shift』、『Life Shift』などの著作を持ち、人生100年時代構想会議の有識者メンバーとして参加するLondon Business School教授のLynda Gratton氏が登壇。「女性は大きく変われるタイミングを迎えている」と語る。

 技術の進化に伴い人々は単純作業から解放され、人間的な時間の享受と働き方を可能にしたが、「日本はフレキシブルワーキングなど多様的な働き方で先進的な部分もあるが、遅れている部分もある。その溝を埋めるためリープフロッグ(馬跳び)やショートカットで対応するのが重要」(Gratton氏)重要だという。

London Business School ProfessorのLynda Gratton氏

 日本は、2007年生まれの子どもの半数が107歳に到達するという調査結果があり、グローバルでトップの長寿国になっている。だからこそ、「子育てを終えた後でも60年間も働ける。自身の人生をどう過ごしたいのか考える『マルチステージの人生』を意識しなければならない」(Gratton氏)。組織に雇用されない働き方や、有給と無給活動を組み合わせた資産構成など多様な要素を組み合わせる必要があるという。

 その本質は、「人間であることを軸足を置く」ことにあるとGratton氏は強調した。柔軟な働き方を実現するためには、分離・孤立した取り組みを包括的な文化に転換し、要求に反応するのではなく、自主性を重視する。そして、厳格なルールではなく明確なシグナルを実践しなければならない。「製造業が中心だった時代は既存ルールで構わないが、知識集約型時代には当てはまらない」(Gratton氏)。Gratton氏は、働く人々に対して自身の意識改革をうながす。

 マルチステージという見直しは、女性に限った話ではない。パートナーがそれぞれキャリアを積み重ね、現状に対応しつつも互いを高め合う状況に性差はない。さらにダイバーシティの観点から見れば、今後10年間で途上国から8.65億人の女性が経済市場に参加し、英国では人口の22%にあたる65~69歳の高齢者の雇用が始まっている。そしてパートナーが仕事と家庭を交互に追求する"シーソー型カップル"の増加が見込まれている。既に世界人口の6分の1は自由契約を選択し、68%の企業がジョイントベンチャーの増加を予測して、OECD(経済協力開発機構)参加国の8割におよぶ企業が10人以下の従業員数だという調査がある。

 彼女は最後に、「AIは素晴らしい。だが、彼・彼女は想像力を持っていない。だからこそ我々は目の前に広がりつつあるチャンスを活かし、人間らしい働き方を目指すべき」(Gratton氏)と聴講者にエールを送った。

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