データ保護製品ベンダーのヴィーム・ソフトウェア(Veeam Software)は2018年4月18日、製品戦略やロードマップに関する記者説明会を開催した。新たなミッションとして「マルチクラウド環境における企業の“ハイパーアベイラビリティ”実現」を掲げ、従来のデータ保護/システム復旧だけではない新しい価値の提供に取り組んでいく。
同説明会には、全学仮想化環境のバックアップソリューションとしてヴィーム製品を採用した慶應義塾のIT担当者も出席し、採用の理由やメリットなどを語った。
単なるシステム可用性を超えた“ハイパーアベイラビリティ”とは何か
説明会ではまず、APAC地域SVPのショーン・マクレガン氏が登壇。ヴィームの顧客数は毎月4000社以上のペースで増加しており、現在の28万2000社から、今後数カ月のうちには30万社を突破する見込みだと語った。保護対象とする仮想マシン(VM)数は1630万以上に及ぶ。
続いてマクレガン氏は、ヴィームの歩みと現在の目標について説明した。2006年に設立されたヴィームは、まず2008年からVMware環境に対応した「仮想ワークロードの保護」製品を提供し始めた。その後、2012年からは、プライベートクラウド環境を対象とした「データセンター全体のアベイラビリティ実現」へと目標を拡大。そして、現在目指しているのが、マルチクラウド環境における「企業のハイパーアベイラビリティ実現」である。
この“ハイパーアベイラビリティ”とは何なのか。これについて、次に登壇した製品戦略担当VPのダニー・アラン氏が説明した。
企業や政府がデジタルトランスフォーメーションの取り組みを推進していくうえで、あらゆる取り組みの基盤となるのが保有する「データ」だ。個人情報や顧客情報、知的財産といったデータの重要性(価値)は急激に高まっており、同時にその量も増加し続けている。したがって、それらのデータを安全かつ確実に保護する仕組みも必要となるが、そうしたデータの保管場所はプライベートクラウド/パブリッククラウド/SaaSへと急速に分散(スプロール化)しており、その管理にも大きな問題が生じている。
「そこでヴィームでは、企業に“ハイパーアベイラビリティ”を提供していかなければならないと考えている。これまでヴィームでは、バックアップ製品などを通じてアベイラビリティを提供してきた。これが“ハイパーアベイラビリティ”に進化すると、1つのデータセンターだけでなくあらゆる(マルチクラウドの)環境でのシステム可用性を保証し、さらに単なる(障害発生時の)“保険”としてだけではなく、データのプロアクティブな(積極的な)活用も可能にしてビジネス利益も生むものとなる」(アラン氏)
そのために、提供するデータ保護プラットフォームにさらなるインテリジェンスも組み込んで行く方針だと説明したうえで、アラン氏はインテリジェント化にむけた道のりを「5つのステージ」で具体的に説明した。
まず最初のステージは、すべてのワークロードをバックアップし、その復元を保証する「バックアップ」。その次のステージとして、マルチクラウド環境におけるデータ保護と事業継続性を単一プラットフォームで保証する「統合」がある。「現在、多くのエンタープライズはこのステップ2にいる」(アラン氏)。
続くステージ3は「可視性」だ。保護対象データを単一プラットフォームに集約することで、統一された可視性が生まれる。アラン氏は「プロアクティブなデータ活用は、ここが最初のステップとなる」と述べ、たとえば「データのクラウド移行によるストレージスペースの有効活用」「アプリケーション開発者向けのテスト用コピーデータの提供」など、これまでできなかった積極的なビジネス活用が可能になるとする。
ステージ4「オーケストレーション」では、マルチクラウド間でのシームレスなデータ移動を可能にし、それにより事業継続性やセキュリティ、コストの最適化を実現する。アラン氏は、特にシステム復旧のオーケストレーションによって、迅速にビジネス活動を再開できる環境作りが「先行企業にとって2018年の大きな課題になる」と語る。
そして最後のステージ5が「自動化」だ。バックアップ取得や最適な場所へのデータの移動、そして障害発生時のデータ保護と復元を自動化することで、データ環境全体の「自律的な」管理を実現していく。
この自動化ステージについてアラン氏は、「外部インテリジェンス」も使った、より高度な自動化の実現に向け取り組んでいることを明らかにした。たとえばセキュリティ製品が社内でマルウェア攻撃を検知した場合には、その通知を受けてデータ管理プラットフォームがすぐさまスナップショットを取得し、データの改竄や破壊による被害を最小限に抑える。また、津波やハリケーンなどの発生情報を取得できれば、ほかの安全なデータセンターやクラウドへ自動的にデータを移動させることもできる。そうしたインテリジェントな将来像を考えているという。
ヴィームでは、こうしたハイパーアベイラビリティなデータ管理プラットフォームの実現を目指している。これまでどおり、データのバックアップやレプリケーション、システムのリカバリやフェイルオーバーの機能を中核に据えつつ、APIを介したパートナー製品/クラウドサービスとの連携もさらに注力していく。
その一環として、同日にはピュア・ストレージとのパートナーシップも発表された。ピュア・ストレージ製品が備えるスナップショット機能をヴィーム側から活用して、本番環境の稼働に影響を与えないバックアップ処理や「Veeam DataLabs」(旧称Veeam VirtualLabs)における独立したテスト環境の迅速な提供などを実現する。
慶應義塾がヴィームのデータ保護製品を採用した理由
説明会には、全学仮想化環境のデータ/ワークロード保護にヴィーム製品を採用した慶應義塾 インフォメーションテクノロジーセンター本部の宮本靖生氏も出席した。
慶應義塾では、主要6キャンパスをはじめとする全塾(全学)に及ぶ仮想化環境を構築し、教育/研究活動などに活用している。宮本氏によると、同学ではこの数年間、各キャンパスに散在していたサーバー群を、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品をベースに構築した仮想化基盤に統合してきた。
そのうえで課題となったのが、この仮想化基盤の確実なバックアップ、迅速なリストアとシステム復旧を通じたサービス継続性の確保だった。「仮想化環境の障害によって、教育/研究活動が止まってしまえば影響が大きく、それは避けたい」(宮本氏)。また将来的には、パブリッククラウドで提供されるSaaSやPaaS、IaaSの利用も念頭にあり、それを含めたデータ保護/可用性の実現が必要だった。
しかしながら、従来利用してきたバックアップ製品ではイニシャルバックアップに20時間以上、いろいろと改善を試みても毎回数時間程度処理にかかっていたという。そこで新しいソリューションの導入を検討し、RFP項目をすべて満たすヴィーム製品を2013年夏に初採用した。昨年度のリプレース以降も継続しており、現在は仮想化環境の拡大に合わせて追加導入も検討している。
ヴィーム製品を選択した理由について、宮本氏はバックアップ処理が「速い」、バックアップ容量が「小さい」、コストが「安い」という3点のメリットに加えて、稼働が安定しており管理者が日々監視する必要がないこと、リストアも数クリックで済むほどシンプルなツールであることなどをを挙げた。復旧環境を短時間で稼働させることができる「インスタントリカバリ」や、バックアップデータから仮想マシンのクローンを作成できる機能などが、特に便利さを実感する機能だという。。現在では、毎日およそ15TBのデータバックアップを差分バックアップで数十分程度で完了している。
「(アラン氏が紹介した)“ハイパーアベイラビリティ”の考え方は、まさにわれわれが今後求めていく仮想化基盤の機能がほぼ網羅されているのではないかと感じた。もはやワークロードがどこで動いているのかを気にする時代ではなく、『サービスが動いていること』こそが重要であり、ハイパーアベイラビリティにはとても興味がある」(宮本氏)。