忙しい毎日になんだか疲れてしまった人、今のままで大丈夫なのかという不安を抱えている人、元気になる作品が観たいなという人にぜひオススメしたい映画がある。元気がもらえる作品として今話題沸騰中の映画が、3月2日に公開された「ダウンサイズ」だ。
経済的に豊かな生活を送りたいと願う平凡な男ポール・サフラネックが、妻と共に人類を14分の1に縮小する“ダウンサイズ”計画に参加し、予想外の出来事に巻き込まれていくなかで“本当の幸せとは何か”という問いと向き合っていく。平凡な男ポールを「ボーン・アイデンティティー」シリーズや「オデッセイ」のマット・デイモンが演じ、「ファミリー・ツリー」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のアレクサンダー・ペイン監督がメガホンをとる。
試写にて鑑賞させてもらったが、予告編からはまったく予想できない展開になり、最後にはほっこりした気分で鑑賞を終えた。もちろん13cmになるまでの過程や、なったあとの世界にも要注目なのだが、それ以上に13cmになってしまった人達が繰り広げる人間ドラマがとてもよかった。世の中には周りに様々なことを言う人たちがいるし、本当に今やっていることは正しいことなのかを迷うけど、最後は自分の一番やりたいことをやるべきだなと改めて考えさせられる内容だった。
また、ベトナム人の清掃人ノク・ラン・トランを演じ、本作でゴールデングローブ賞や全米俳優組合賞などの助演女優賞にノミネートされたホン・チャウや、13cmになった後の世界でポールの隣人となるドゥシャン・ミルコヴィッチを演じるクリストフ・ヴァルツの演技もかなりよかった。そのほか、ストーリーの中にたまに入ってくるコメディー要素も、人間ドラマを崩さず自然に入ってくるうえクスッと笑えてよかった。
同じコンセプトの作品が、50年以上前に日本にあった!
桜井 浩子さんにインタビュー!
さて、13cmに“ダウンサイズ”するというのが本作の物語の中核となるわけだが、日本では50年以上前に似たようなコンセプトの作品があるのをご存知だろうか。1966年に放送され、ウルトラマンシリーズの原点でもある「ウルトラQ」の第17話「1/8計画」だ。
いつものように、万城目淳や戸川一平とドライブをしていた江戸川由利子は、ひょんなことから増加する人口密度を解消するために考えられた「1/8計画」に巻き込まれてしまい、1/8のサイズにされてしまう。ポールと由利子は小さくなった理由は違うものの、両作品での小さくなった世界の描かれ方や表現は共通する部分が結構ある。
今回、なんと「ウルトラQ」のヒロインであり、「1/8計画」で小さくなってしまう由利子を演じた桜井 浩子さんにインタビューすることができた。桜井さんもダウンサイズを鑑賞して、半世紀以上が経過してなお多くの近似性を持つ両作に深く感銘を受けたそうだ。
ーーダウンサイズと1/8計画どちらも鑑賞して共通している部分が多いなと感じました。桜井さんが感じた共通点だなと感じた部分はどんなところですか?
桜井 浩子さん(以下、桜井):ダウンサイズでポールが離婚届を各部分がありますよね。1/8計画でも私が淳ちゃんや一平君に「さよなら」って紙に書くシーンがあるのですが、あそこはダブりましたね。ダウンサイズでは巨大鉛筆ではないんですけど、もっと大きく書けって言われてたじゃないですか。私も円谷 一監督に「小さく書いちゃだめだよ。もっと大きく書いてね」と指示されたので、共通点だなと思いました。あの鉛筆、実際に書けるんですよ。
ーーえ、実際に書けるんですか?
桜井:書けます。よくできてましたよ。重たくなくて。
ーー1/8計画はNetflixで鑑賞しました。カラー版だったのですが、カラーライズのクオリティーがとても高くて驚きました。
桜井:ありがとうございます。2011年に発売されたカラー版で私は衣装などの監修を担当しました。警官がでてきたりするのですが、時代や季節によって服装が違うじゃないですか。スタッフさんが当時の警官の制服を図書館で調べてきたり、タクシーの色や電車の色など細かい部分までこだわりました。ウルトラQのカラーライズでは裏方もできて面白かったです。
ダウンサイズは物語が深い。
ーー劇場版を観る前に予告編はチェックしていたのですが、実際に観てみると予想外の展開になったなと感じました。実際に鑑賞されていかがでしたか。
桜井:そうですね。物語が深いですよね。ノク・ラン・トランがでてきてからは人間ドラマや社会問題的なものなど、監督の描きたい方向にグッと寄って行ったなと。大きいままでも小さくなっても同じなんだなって思うくらい(笑)。特に後半はそうくるか! と思いましたよ。
ーーそうですよね。1/8計画のように万城目と一平が1/8になった人達の街に行くシーンがありましたが、そういう内容になっていくと思いきや、後半普通のサイズの人間はあまりでてこなくなりますしね。
桜井:そうですね。後半は1/8計画の世界観を期待して観るとちょっと違ってくると思うんですが、それもよかったですね。ただ、マット・デイモンが主演なので、映画好きの方に観てほしい作品ですよね。1/8計画との比較うんぬんというよりも、マット・デイモンが小さくなってどうなるのかなというのが、私も気になりましたもん。ダウンサイズを見る前に「マッド・デイモンが演じる1/8計画(のような)映画が公開されるよ」と色々な人に言われたんですけど、言われるまでダウンサイズが1/8計画と共通点が多い作品だとは気づかなかったですから。最初は1/8計画を男の人が演じたらどうなるんだろうと思いましたね。
ーー確かに映画好きに観てほしい作品ですね。
桜井:特に前半は特撮好きの人も楽しいと思いますよ。1/8計画はずいぶん前の作品なので、由利ちゃんはそのまま小さくなりますけど、ダウンサイズでは毛を全部剃ったり差し歯も抜いてというリアルな設定になっていていいなと感じました。13cmになった人間をヘラみたいなもので移すシーンがありましたよね。あのあたりは今だな~と思いました。
ーー確かに。
桜井:1/8計画で大きな男の人との会話のシーンがあって、大きな人の声が大きいので耳をふさぐ芝居をしてくれと言われた部分がありました。でも、ダウンサイズではそういうところは特になく。そういった部分にこだわりすぎると、後半部分が不十分に終わってしまうかなと思うので、バランスよくつくられているなと感じました。前半後半で2度おいしい映画になっていると思います。退屈しないんですよね。また、出演者の方々も13cmになったときをうまく演じられていて、素晴らしいなと思いました。
ーーダウンサイズは、合成やCGの技術が進んでいて13cmになった人間といっても映画のなかであれば違和感はないですが、1/8計画のときは50年以上前なので、どうやって撮影したんだろうというシーンが多くありました。
桜井:1/8計画のときは、オプチカル・プリンターという機械を使っていたんだと思います。当時すごく高額な機械だったんですが、勝手に円谷 英二さんが注文しちゃって(笑)。TBSさんが代わって購入し、「ウルトラQ」の誕生につながったのだと思います。
ーーそうなんですね! 1/8になった住人が住む街中のシーンもオプチカル・プリンターが使われていたのでしょうか。
桜井:当時特撮用のステージとドラマシーンのスタジオは別だったので、細かい部分まではわかりませんが、特撮用のステージにミニチュアの街を作ったんだと思います。光学撮影を担当していた中野 稔さんに聞いてくればよかったなあ(笑)。
ーー当時は様々な工夫をされて1/8を描いていたんですね。
桜井:そうですね。当時は後からアフレコしていたので、由利ちゃんがキューっとそのまま小さくなっていく映像を観ながら声をあてていたんですが、今になってダウンサイズと比べると表現の方法が大分チープだなと感じますね。ダウンサイズは設定もとても細かくて、そっちのほうが今の人たちにはあっているかなと思います。設定がしっかり細かいとちゃんと納得できますしね。
ーーもし、今1/8のサイズになれるといわれたらどうしますか?
桜井:迷うと思います。ポールが小さくなったときに、妻のオードリー・サフラネック(クリステン・ウィグ)がポールに一緒に小さくなれないと謝るシーンがあるのですが、坊主姿に眉毛が半分なくて。確かにあれは女性として嫌だよなーと思いました。途中でやめたくなる気持ちもわかります。あの途中で逃げ出すというのが、よくできてるなーと感じました。
「Apple Watch」をみて、ウルトラセブンのあれだ! と思った
ーー人間が13cmになるというようなテクノロジーはまだまだ先のことだとは思いますが、今すごいなという技術やテクノロジーなどはありますか。
桜井:普段仕事でパソコンを使っていたり、スマートフォンやタブレットも使用していますが、ずいぶん進化したなと感じます。アナログ人間なので、仕事ではないと使わなかったですから。あと、Apple Watchが登場したときに、ウルトラセブンのビデオシーバーじゃん! とは思いましたね。あの頃の人たちがこういうのがあったらいいなと思い描いていたものが現在になって実際にでてくると、今の技術も当時の人たちの想像力もすごいなと思います。
ーーありがとうございました。
ダウンサイズは3月2日より上映中だ。
作品情報
タイトル:『ダウンサイズ』
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー
制作:マーク・ジョンソン、アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー
制作総指揮:ミーガン・エリソン、ジム・パーク、ダイアナ・ポコーニイ
キャスト:マット・デイモン、クリフトフ・ヴァルツ、ホン・チャウ、クリステン・ウィグ
配給:東和ピクチャーズ
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