「ここ10年ほど、経産省、総務省から『データセンターの地方分散』が提言されているが、なかなか実現していない。特に日本海側はデータセンターが少ない」「首都圏に集中しているデータセンターの地方分散化、これに一石を投じ、先鞭をつけられないかと考えている」(データドック 代表取締役社長 宇佐美浩一氏)
データドック(data dock)は2018年1月22日、新潟県長岡市内に開設/サービスインした「新潟・長岡データセンター(新潟・長岡DC)」の開所式を行い、報道関係者向けに同社事業コンセプトや施設の特徴を紹介した。
データセンターサービスだけでなく企業の「データ活用」も支援
データドックではすでに今月9日、新潟・長岡DCで提供するハウジング、ホスティングなどのデータセンターサービスの提供開始を発表している。
同DCはラックあたり最大30kVAの大容量電力供給性能、3トン/㎡の床耐荷重性能を持つため、近年ニーズが高まっているGPU搭載サーバーやHPC環境などの高密度/高負荷IT環境の収容にも対応する。また、長岡~東京(大手町)間を100Gbps、長岡~大阪(堂島)間を10Gbpsの高速なIPバックボーンで接続しており、大容量データが高速伝送できる。
「一言で言えば“ビッグデータ仕様のデータセンター”」(宇佐美氏)
開所式では同社 代表取締役社長の宇佐美浩一氏が、この新潟・長岡DCを開設した背景にある同社の事業戦略を説明した。データドックが考える事業コンセプトの3本柱は、「データマネジメント」「グリーンエナジー」「地方創生」だという。
「データマネジメント」は、顧客のデータを安全に「預かる」という従来からのDCの役割に加えて、そのデータを「活用する」場面においても顧客をサポートしていく姿勢を指している。前述したように、GPUサーバー/HPC環境対応のスペックを持つDCサービスを提供してAIやビッグデータ解析などの取り組みを促すのもその一環だが、さらに今後はデータ活用領域のサービスも提供していく計画だと述べた。
具体的には、長岡や新潟に本社や拠点を持つIT企業との協業も図りながら、今年上半期には「動画解析/活用サービス」「データマネジメントサービス」などの展開する計画だという。
2つめの「グリーンエナジー」は、長岡の気候も生かした最先端のデータセンター設備でエネルギー消費を抑え、同時にDCからの排熱も活用していくというものだ。
新潟・長岡DCでは、首都圏と比べて冷涼な長岡の気候を生かした間接外気冷房に加えて、冬季に降る大量の雪を蓄え夏季に使う「雪氷冷房」の設備(詳細は後述)も備えている。これにより、大量の電力を消費する機械冷房(従来型のクーラー)を年間を通じてほとんど使うことなく、DCの空調を運用できるという。PUEは1.19(設計値)、空調電気代(および人件費、土地代など)が首都圏DC比でおよそ38%削減できる見込みだ。
さらに今後、DCに隣接する敷地内に植物工場(水耕栽培)や水産養殖の施設も設け、DCからの排熱をそこで活用していく計画もある。ちなみに長岡市はニシキゴイの産地としても全国的に有名だ。
3つめの「地方創生」については、DCにおける直接的な地元雇用の創出だけでなく、地元企業や地元教育機関、自治体との連携も積極的に提案していく方針だ。
地元雇用について宇佐美氏は、「DCは大人数を必要とするわけではないが、ITスペシャリストとして雇用の質は高い」と述べ、加えて、今後展開するデータ活用領域のサービス提供などを通じ、IT技術者に幅広いキャリアプランも提供できるだろうと語った。なお、すでに今春卒業の大学生3名に内定を出しており、今後も専門人材の雇用/育成を通じて「新潟出身の学生が地元に残り、プライドを持って仕事ができる機会を提供できれば」としている。
また長岡市にある3大学1高専(長岡技術科学大学、長岡造形大学、長岡大学、長岡工業高専)が昨年11月、新産業の創出や人材育成を目的とした共同イノベーション施設構想「NaDec(ナデック)構想」を発表し、長岡市長に提案しているが、この構想に対してもITインフラの提供や共同研究開発への参画などを計画している。
加えて、長岡市に本社を構える映像ディープラーニングベンチャーのAIUEO(エーアイユーイーオー、代表取締役社長 清水亮氏)、アプリ開発のフラーなど、長岡や新潟に拠点を持つIT企業との協業、地元自治体への提案と連携も積極的に図っていきたいと語った。
首都圏の企業ニーズをターゲットとして幅広いサービスを展開
「(顧客企業における)データセンターの選定要素は、その比重が変化してきている」「向こう10年、20年を見通して、競争力を維持できるデータセンターを設計、建築した」(宇佐美氏)
データドックの新潟・長岡データセンターは、JR長岡駅から車でおよそ15分の距離にある。上越新幹線を使えば、東京から最短2時間ほどで着く計算になる。この場所に“ビッグデータ仕様のデータセンター”を構えることで、現在ニーズの高まっている高性能計算処理(ビッグデータ解析やAI、HPCなど)を中心とした首都圏の企業需要をカバーし、市場を獲得していく狙いがある。
そのほかにも、老朽化したDCの移設/サーバー高集積化によるコスト削減ニーズ、広帯域なバックボーンネットワークが求められるBCP/DRサイトのニーズなど、企業の幅広いデータセンターニーズに応えていきたいと宇佐美氏は付け加えた。
今回サービスインした新潟・長岡DC 第1期棟は、地上2階建て(+免震層)で延べ床面積5396㎡、500ラックを収容する。2020年度には第2期棟(地上4階建て)の竣工も予定しており、両方を合わせると2000ラック規模となる。前述のとおり床耐荷重3トン/㎡、1ラックあたり最大30kVAの給電能力を持つ。
同DCは、活断層から離れ、ハザードマップ上も洪水の恐れが低い標高30メートルに立地している。地盤も強固で、地下2メートル地点のN値が60あり、杭を打ち込むことなく“ベタ基礎”で建設できたという。そのほか、建屋自体には、粘性の異なる3種類の免震ゴムとオイルダンパーを用いた免震構造を備える。
そのほか、冗長化された受電設備、無給油で最大72時間稼働するガスタービン発電機などの設備を備え、JDCC(日本データセンター協会)の定めるファシリティスタンダードで最高レベルの「ティア4」に適合する。
そして同DCの大きな特徴となるのが、エネルギー消費を大幅に抑える空調設備だ。
同DCでは間接外気冷房設備を備えており、夏季を除く秋季~春季には長岡の冷涼な外気を用いた空調運転を行う。一方で、それだけでは間に合わない夏季には、雪氷冷房を追加して冷却力を高める。その結果、年間を通じて、多くの電力を消費する機械冷却をほとんど使わない空調運用を可能にするという。
その名のとおり、雪氷冷房は冬季に降る大量の雪を使った冷房方式だ。具体的には、データセンター建屋の隣に不凍液の流れるパイプを埋設した広場を用意し、冬季はここに排雪を運び込んで大きな雪山を作る。気温が上がり外気冷房ではまかなえなくなる夏季には、雪が冷やした不凍液を循環させ、熱交換器を通じて外気を冷やし、サーバールーム内の空調に用いる。第1期棟の冷房をまかなうために、冬季の間におよそ4000立方メートル(4000トン)の雪山を作るという。
もうひとつ、サーバールーム内の空調にも工夫がこらされている。サーバールーム内はコールドアイル/ホットアイルが切り分けられ、壁横吹き出し方式でコールドアイルから冷気を供給する仕組みだが、空調機とコールドアイルを“1対1”でつなぐのではなく、「共通ダクトチャンバー」を介して冷気を供給する方式をとっている。
こうすることで、サーバールーム内で特に排熱の多いラック列に集中して冷気を供給するよう調整できるほか、将来的に空調機の増設が必要になった場合も容易に増設できる。データドックによると、共通ダクトチャンバーを用いるこの方式のデータセンター空調は「国内初」となる。
宇佐美氏は今後、より「特化したニーズ」に対応すべく、サービスラインアップを拡充していく方針を語った。現在は汎用的なハウジング/ホスティング/ストレージサービスを提供しているが、より高電力を必要とするハウジング、GPUサーバーのホスティング、あるいは映像データに特化したストレージサービスなどを考えているという。また、VPS(仮想専用サーバー)サービスも検討していると語った。