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パソナテックが「働き方改革とテクノロジーの関係」を世に問う

経営者や管理職がAIを知るべき理由、Job-Hub TECHで聞いた

2017年11月28日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders

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11月21日、パソナテックは「はたらくをもっと自由に」をテーマとしたリアルイベント「Job-Hub TECH」の大手町のパソナオフィスで開催した。第1回のテーマは今後の働き方に大きなインパクトを与える「AI」。「経営者や管理職がなぜAIを理解すべきか」が大きなテーマとなった。

AIの教育や開発、活用までを支援するエクサウィザーズ

 冒頭、「現場から見えたAI開発の実情」というテーマで登壇したのはパソナテック 取締役 Job-Hub事業担当でありながら、AIベンチャーであるエクサウィザーズの取締役でもある粟生万琴氏。粟生氏も15年間くらいリモートワークを続けており、パソナとベンチャーのパラレルワークをこなしながら、自宅のある名古屋と東京を行ったり来たりしているという。

パソナテック 取締役 Job-Hub事業担当、エクサウィザーズ 取締役 粟生万琴氏

 粟生さんが取締役を務めるエクサウィザーズは、元DeNA会長の春田真氏が率いるエクサインテリジェンス、元リクルートAI研究所 所長の石山洸のデジタルセンセーションの2社が合併して生まれたAI企業。「人工知能の父」とも言える故マービン・ミンスキー氏のほか、アカデミック中心としたAIの第一人者も顧問として名前を連ねているという。事業としては、AIのプラットフォームやソリューション、サービスのほか、教育サービス、認知症のケアにAIを活かすユマニチュード(Humanitude)の啓蒙など幅広く手がける。

 エクサウィザーズはAIプロジェクトに際して企画や開発の実行をクライアントと共同で行なうLab型契約を採用する。リサーチフェーズでは、インド等での論文調査で行なった後、AIの共同設計や教師データの作成を進め、約3ヶ月でプロトタイプまで仕上げる。その後、サービスの検討もクライアントと共同で実施し、最終的な実装や運用面までを進めていくという。

 こうしたAI導入プロジェクトに関連し、経営者や開発者など対象に合わせて、AIを使えるようにする教育事業も推進。さらに活躍する人材をAIで予測したり、コーチングする「HR君」などのサービスも提供しているという。

AI時代の働き方を考えるために、まずは理解し、実践する

 粟生氏の後半のセッションは、人工知能の基礎概念やトレンドについて説明する。前述したミンスキー氏は、「『人間が頭の中で考えていることを機械にも行なわせること』を目的に人工知能(AI)という言葉を作った」と説明しているが、現在の人工知能は研究者によってさまざまな定義が行なわれている。実際、技術分野としては画像認識や自然言語処理、音声認識、リコメンド、プランニングなど多岐に及んでおり、これを支える学問領域も確率統計学やロボット工学のほか、言語学、脳科学、心理学などのエッセンスが取り入れられている。

 一言で人工知能といっても、技術的な難易度によって「制御プログラム」「ルールベースの人工知能」「機械学習を取り入れた人工知能」「ディープラーニングを取り入れた人工知能」などの4つのレベルで分けられる。「昔は温度の変化に応じて動作するエアコンや冷蔵庫もAIと言われていた」と粟生氏が指摘するとおり、技術や学問の分野だけではなく、時代によっても人工知能の定義が異なる。

人工知能の4つの技術レベル

 ご存じの通り、1956年のダートマスの会議でAIという言葉が誕生して以来、現在は第3次AIブームとなっている。現在は機械学習に大きな注目が集まっており、その技術の一分野であるディープラーニングにより、画像認識や自動翻訳、不正検知などさまざまな適用例も現れていると説明した。粟生氏は、自動運転やSkype Translatorのリアルタイム翻訳、チャットボット、がん患者向けの投薬予測などの事例を披露しつつ、「人工知能の時代の働き方を考えていくために、まずはAIを理解していただき、作ったりいただきたいと思います」とまとめた。

「AIが人間の仕事を奪う」という考え方をそもそも変えるべき

 続いて登壇したのは、働きごこち研究所 代表取締役 ワークスタイルクリエイター 藤野貴教氏。社名の通り、働きごこちのよい組織作りを支援し続け、「2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方(かんき出版)」という書籍も出している藤野氏は、「Pickup AI Training」というタイトルで現場でのAI活用について語った。

働きごこち研究所 代表取締役 ワークスタイルクリエイター 藤野貴教氏

 人事担当者とIT部門が占める聴衆に対し、藤野氏が「具体的なAIの活用法を聞きたい」のか、「AIを学ぶための能力開発について聞きたい」のかを質問すると、挙手は半々ずつに。それを受けた藤野氏は、「みなさんがすでにRPA(Robotic Process Automation)で人間の仕事を置き換えて行こうと考えているのであれば、横のブースで事例をチェックするのがオススメです。でも、『AIが人間の仕事を奪う』という考えをお持ちなのであれば、そもそもマインドセットから変える必要があります」と聴衆に訴える。

 この「AIが人間の仕事を奪う」という考え方は、Google CEOのラリー・ペイジ氏の「20年後、あなたが望もうが、望まなかろうが、現在の仕事の多くは機械によって代行される」という発言から端を発し、メディアがいろいろな形でかき立てている文脈だ。「われわれの仕事が奪われるという危機感を感じているのは、現場だけでなく、管理職の方も多い。僕からすれば自分の仕事を任せられて、楽になった方がいいのですが、大企業の最前線で働いている人ですら、けっこう不安を感じている」というのが藤野氏から見た現状。先般の大手銀行のリストラのニュースも、「機械で仕事を回せば、人間はもっと楽しく働ける」という内容が、機械が仕事を奪ったという文脈にすり替わっていると藤野氏は指摘する。

 一方、企業では「IT苦手なんですよ」と公言してしまう管理職も多い。藤野氏も動画やデモで2時間がっちりAIを説明した後に、聴衆から「本当にターミネーターのような時代が来るのでしょうか?」という質問にさらされるという。これに対して、藤野氏は「日本の大企業はテクノロジーのリテラシが非常に低い状況に対して危機感を持たなければならない。日々、大企業相手に講演をしていると、本当に胸が痛くなる。このままでいいんだろうか?」と苦言を呈す。トヨタ自動車と自動運転の技術開発パートナーとなったNVIDIA(エヌビデイア)は、新聞に「謎の企業」と書かれたばかりだが、これはまさに大企業の実態。「大企業の管理職の方々でNVIDIAを知っている人は、100人中15人くらい。しかも、AIに関心がないから、記事が載っていても目に入らない。現場の管理職がこの状態だったら、経営者やIT推進部がAIやIoTをがんばっても進まない」と藤野氏は指摘する。

テクノロジーリテラシの役職ごとのギャップ

 そして、いくらAIを導入したくても、ユーザー側に知識がなければ、サプライヤーへの発注が難しいし、最初から極端な期待をいただいてしまうことになる。「学習すればするほど精度が上がるということをユーザー側が理解し、現場できちんと期待値調整を行なわなければ、AI導入はうまく行かない」と藤野氏は指摘する。

テクノロジーで業務改善を実現したところが強い会社になる

 こうした中、藤野氏は、エンジニアではなく、普通のビジネスパーソンに人工知能をはじめとするテクノロジーの概要や価値を伝えている。「リテラシって、『プログラミングができる』という話ではなく、テクノロジーの本質を理解して、自分のビジネスに活かせる能力のことじゃないですか?」と藤野氏は問いかける。

 そのため、まずは「AIが仕事を奪う」という誤解を払拭し、働き方改革にテクノロジーが寄与するというマインドセットに変えて行く。その上で、極力わかりやすい形でAIのことを理解してもらうという。技術者やビジネスパーソンだけではなく、経営者向けのプログラムも用意しており、とにかく幅広い層に対してきちんとAIを理解してもらうことを目的にしている。

 ビジネススクールで得た知識が、自分のビジネスに活かせなければ意味を持たないのはAIも同じ。「20世紀は経営理論とマーケティングの時代だったが、21世紀はテクノロジーの時代。でも、自分の仕事とテクノロジーを切り分けている人が多すぎる。本当は、もっといろんな事例を学ぶべき。テクノロジーに強いというのは2030年くらいまではビジネスの必須条件」とのことで、藤野氏もエクサウィザーズとともにビジネスパーソンのAIリテラシ向上に注力している。

 その上で、これからのビジネスリーダーは、業務改善と新規事業開発の2つの面でテクノロジー活用が重要になるという。業務改善に関しては、「今の仕事を切り分けて、どの仕事を自動化できるかを見極める能力」、新規事業開発に関しては「テクノロジーを活用しながら、人間の生み出す付加価値をリードしていく人材」が必要になってくるという。「そもそもの仕事を減らすのも重要ですが、労働時間も短縮する方向にあります。人が減っても、仕事は減らないんですから、テクノロジーを活用するしかないじゃないですか。どうやって仕事を効率化するか知恵を絞れた会社がこれから強くなるし、これを考えるのはリーダーの仕事。でも、それに成功して、人間の頭に余裕ができたら、新規事業も始められます」と藤野氏は語る。

妄想・アイデア・業務知識とテクノロジーがかけ合わさるとビジネスアイデアが生まれる

RPAの導入支援や人材育成、機械学習のデータ生成などを提供

 藤野氏の講演の後は、パソナテックのJob-Hub事業部がHR TECH・AI関連サービスの取り組みを披露した。2016年2月より40周年をスタートしたパソナグループは一貫して人に関わるビジネスを展開しており、近年RPA(Robotic Process Automation)の導入支援やRPAを利用できる人材の育成・輩出に注力しているという。

 また、パソナグループの中でIT関連を手がけるパソナテックでは新しい働き方を実現する「Job-Hub」でさまざまなデータソリューションを展開している。2012年にはクラウドソーシング事業を開始し、現在は国内6箇所のラボをベースに開発やデータエントリ・分析などの業務を進めている。データソリューションとしては、人工知能の学習で必要になる教師学習のための、データの収集やアノテーション、クレンジングなど情報加工をクラウドソーシングで提供しているという。

パソナテック「Job-Hub」のデータソリューション

 「Job-Hub TECH」の第1回として開催された今回の勉強会。別々に考えられることの多い働き方とテクノロジーが、もはや密接に結びついてきている現状が理解できた。参加者は人事部門とIT部門の担当者が半々くらいとのことだが、「AIがすでに待ったなし」の状態であることはかなり理解できたのではないかと思う。パソナテックでは引き続き、「Job-Hub TECH」を続け、ビジネスパーソンや人事部門でのテクノロジー啓蒙に努めていくという。

訂正とお詫び:初出時、石山氏のお名前に誤りがありました。ここに訂正し、お詫びいたします。(2017年11月30日)

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