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柳谷智宣のkintoneマスターへの道 第29回

医療現場にいる開発者が語るkintoneがもたらしたもの

2017年11月17日 11時00分更新

文● 柳谷智宣

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サイボウズ社が提供しているウェブサービス「kintone」は、一言で言うなら「簡単に自社の業務に適したシステムを作成できるクラウドサービス」だ。業務アプリを直感的に作成できるほか、社内SNSとしての機能も備えスピーディーに情報共有ができるなど魅力が盛り沢山だ。
本連載では、そんなkintoneの導入から基本機能の紹介、そしてアプリの活用法など、ビジネスの現場で役立つ情報を取り上げていく。第29回では、アワードに選出されなかったkintoneユーザーによるプレゼン企画「裏kintone AWORD」をレポートしてみる。

 11月10日、ヴァル研究所でkintone Cafe Japan Tokyoが開催された。当日はいくつもの講演やハンズオンが行なわれ盛り上がったのだが、今回は、「裏kintone AWORD」という企画で、惜しくもアワードに選出されなかったkintoneユーザーによるプレゼンが行なわれた。

お題は「医療現場にいる開発者が語るkintoneがもたらしたもの」

 お題は「医療現場にいる開発者が語るkintoneがもたらしたもの~トンチンカンなものを作らなために~」で、プレゼンターは猪原歯科リハビリテーション科、医療情報・広報の前田浩幸さん。

猪原歯科リハビリテーション科、医療情報・広報の前田浩幸さん

お題は「医療現場にいる開発者が語るkintoneがもたらしたもの~トンチンカンなものを作らなために~」

 広島県福山市にある歯医者で働いており、少し南に行くと、宮崎アニメ「崖の上のポニョ」のモデルになった町があるという。前田さんは、東京出身で、東京医療保健大学の医療情報学部を卒業。医療情報技師という資格を持っている。

 「医療とITという2つの専門領域の間には深い谷があります。お互いはそれぞれのプロフェッショナルですが、お互いのことを知らないのです。そのため、プログラマーが事務所で考えて医療のシステムを作ると、現場に即しておらず全然使えないシステムができてしまうのです。そこで、医療とITをつないであげる専門の人が医療情報技師というわけです」(前田さん)

 前田さんが働く猪原歯科には、なんと受付にキッチンがある。それは、彼らのポリシーをアピールするためだという。

 「私たちは、自分たちを“食べる支援をする歯科医院”と定義づけています。その象徴として、受付を入るとすぐにキッチンがあるのです」(前田さん)

猪原歯科の入り口には、キッチンがある

 地域における歯科医院の仕事は、虫歯を治したり、歯のクリーニングをしたりするだけではない。たとえば、入れ歯のケア。入れ歯は口に入れていれば使えるものではなく、きちんと合っていないとゆるんだり落ちたりして、全然ご飯が食べられないという。そのため、入れ歯を調整してあげるのはとても大切な仕事なのだ。また、脳卒中などで体に麻痺が出ている場合、ご飯をうまく呑み込めないこともある。この場合は、リハビリテーションが必要になったり、その人が今食べられるご飯の中でどうやって栄養を取るのか、といった提案が必要になる。前田さんは、歯科医院は虫歯を治すだけでなく、ごはんを食べられるようになってもらうのが仕事、と考えているという。

 「普通の歯科医院に行くと、歯科医師と歯科助手、事務の人くらいしかいません。たとえば、喉に麻痺があって飲み込めない人に栄養を取ってもらう仕事には、これらの職種だけでは対応できないんです。食支援は多職種での取り組みが必要です。メニューを考えるなら管理栄養士が必要ですし、介護にかかわるならケアマネージャーが必要です」(前田さん)

食支援をするには多職種での取り組みが必要になる

 続いて、「さて、これは食べられるお口でしょうか」と言って前田さんが表示したスライドは衝撃的な写真だった。前田さんが見ている患者さんの口の中なのだが、まともに歯が生えていないのだ。数本しか残っていなかったり、とんでもない方向に生えていたり、これでは到底まともな食事はできないだろう。しかし、前田さんは「よく見る口です」と言う。高齢者の方で口のケアをしていないと、歯周病が悪化して歯茎が下がり、最後には歯が折れてしまう。

 「入れ歯をしている人が、邪魔だからと外すと唇を巻き込んで、ふごふごふごという状態になります。唇が中に入っていくので、しばらくすると自分の歯で唇に穴が開くんです。これが、日本でたくさん起きているリアルな口の中です。果たして、こういう口になると、ご飯がおいしく食べられるかってことなんです」(前田さん)

 そんな彼らの歯医者には、外来診療部と訪問診療部がある。外来は患者が自分で通院して受診してもらうところ。訪問診療は、患者の自宅や入院先の病院といった施設に出向いてケアをするのだ。

 「私たちが2つの部署を持っている理由は、患者さんの人生のどこのライフステージにおいても“食支援”、つまりご飯を美味しく食べていただきたいからです。元気な時は自分たちで歯医者に来てください。もし、脳卒中で倒れたというときにも、私たちの訪問診療部が病院に行って、口の中を見せてください、退院して在宅治療になっても、麻痺があるならちゃんとケアをするために、ご自宅に行って、変わらずケアをしますと」(前田さん)

 ところがこの訪問診療という仕事がなかなか大変で、現場で問題が起きていたそう。前田さんが入職したときに、訪問仕事に無駄が多く、スタッフの業務負担が大きいのでなんとかしたいという話がきたそうだ。

 「感情的に「本当に困ってるのよ!」とまくしたてられるわけです。そこで、現状を調べるために、実際に訪問診療に同行したり、スタッフたちの聞き取りを進めました」(前田さん)

 訪問診療で現地に向かい、治療した後は、患者の記録を取るためにマイクロソフトの情報管理ソフト「OneNote」にデータを入力する。次に、ワードに内容をコピーして印刷し、患者のところに置いてくる。そして、帰ってきたら「OneNote」を開いて、別のソフトにコピー&ペーストして、さらに印刷して郵送という作業を行なう。そのため、毎日午後8時まで残業が発生していたという。

 「複数のソフトが混在していて、元が同じ情報なのに何度もコピー&ペーストしているのが、すごい無駄でした。また、誰がどの作業をやるのかというワークフローも決まっていなかったのが問題でした。

 また、日中は訪問診療部は外に出ているが、その間にもほかの施設からどんどん電話がかかってくるそう。「●●さんのごはんなんですけど、食べれてますかね~?」といった内容なのだが、事務の人は情報を持っていないので、スタッフが帰ってきたら折り返し電話を掛けさせるという対応になる。すると、訪問診療から帰ってきたスタッフは、さらに積みあがった業務をさばかなければならず、残業時間は伸びるばかり。

毎日2時間の残業が発生し、みんなが疲労していた

 そうなると、システムを導入して業務効率の改善を行なう必要がある。しかし、前田さんは既存のシステムをベンダーから買って使っても、だいたいみんな使いづらいと感じているという。

 「意識が高いところは、では作ろうという話になります。すると、外部のSEさんに会って、うちの電子カルテ使いづらいんですけど、という話から始まり、じゃあどんなシステム欲しいんですか、っていうから、こういうシステムが欲しくてと、とりあえず自分たちの困っていることを伝える。SEさんは医療のことはわからないけど、自分の中でかみ砕いて要件定義していきます。ある程度完成したと、いざテストすると、だいたい思ってることと違うなとなります。それで、正直にSEさんに言うと、修正するのに何十万円かかりますと言われてしまいます。仕方がないので我慢して使うというのが、本当に起きているところです。システム開発会社が主導で進めるパターンはさらに現場のニーズに合っていないことが多いです」(前田さん)

 たとえば、ある情報が必要だとしても、その流れに沿って入力する時間はないとか、製品価格が、そのシステムを導入したときに、その業務改善で儲かる稼ぎより明らかに高すぎるといったことが起きるそう。

システム開発を外注しても、医療の現場に即したものにならないケースが多いそう

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