ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第406回
業界に痕跡を残して消えたメーカー データベースソフトdBASE IIで成功し会社経営に失敗したAshton-tate
2017年05月08日 11時00分更新
前回のBorland Internationalでも名前が出てきたAshton-tate。実はこの会社に関してはわりとその経営方針が「悪い意味で」有名である。
Merrill R. Chapman氏の著書“In Search of Stupidity: Over Twenty Years of High Tech Marketing Disasters”の第5章では、なぜ同社が凋落したのかを事細かに説明してあり、「この本読んでください」で説明が終わってしまうのだが、それだと編集部から石が飛んできそうなので、きちんと説明したい。
ちなみにこの本、邦訳(「アホでマヌケな米国ハイテク企業―エクセレント・カンパニーを崩壊に導いた、トホホなマーケティング20年史」)も出版されている。
スポーツくじの賭け率計算のために
私用で開発したデータベースソフト
Ashton-Tate Corporationの元になるSoftware Plusという会社は1980年に設立された。創業者はGeorge Tate氏とHal Lashlee氏の2人であるが、彼らはすでにDiscount Softwareというソフトウェア小売メーカーと、Software Distributorsというソフトウェアの卸売メーカーを立ち上げ、それぞれうまくいっていた。
この2社があるにも関わらず3社目を作った理由は、新規のソフトウェアを製造・販売するためである。今でこそ、コンビニで自社ブランド製品が派手に売られているが、1980年当時はまだ流通・小売業とメーカーは明確に分かれているのが普通だったので、改めて3社目を興した形だ。
このSoftware Plusを興した理由は、当時マーチン・マリエッタと契約してJPL(Jet Propulsion Laboratory:ジェット推進研究所)で勤務していたWayne Ratliff氏が開発したVulcan、というデータベースソフトを販売するためである。
もともとのVulcanの目的はスポーツくじの賭け率の計算のため(これは本人がスポーツくじが大好きだったらしい)だが、完成させてみたら「市販できるんじゃないか?」と思ったらしい。かくしてBYTEの1979年10月号に、490ドルという価格をつけて広告を出した。
画像の出典は、“Internet AchiveのByte Magazine Volume 04 Number 10”
このVulcanは、実際に販売してみるとそれなりに評判が良かったらしいが、Ratliff氏は突如として受注や出荷、サポートといった業務に忙殺されることになった。画像にあるSCDP(Software Consulation Design and Production)なる会社の実体はRatliff氏個人であって、しかもJPLの仕事をしながらの片手間では到底手が回らない。
そこでRatliff氏はTate氏に話を持ちかける。Tete氏とLashlee氏はVulcanに可能性を見出し、ただちに独占販売契約を結ぶ。当時すでにSoftware Plusは存在しており、ここでの販売を考えていたが、問題はSoftware Plusそのものはあまり成功していなかったことで、そこでこのVulcanを大々的に売り上げるべく社名をAshton-tateに、製品名もdBASE IIに変更する。
ちなみにAshton-tateの“tate”はTate氏から取ったものだが、Ashtonの方は架空の名前である。これは、イギリス風の響きがあるということらしい。また、Lashlee氏が名前を出すのを嫌がった、という事情もあるようだ。
またVulcanの方はStar-Trekから取られたらしいのだが、問題は当時Harris Corporationが自社のシステム向けのOSにVulcanという名前を使っていることで、名前の混同を避けるために別の名前が必要になった。
当時Software Plusを担当する広告会社にいたHal Pawluk氏がdBASEという名前を提案、さらに「あたかもSecond Versionで安定性が増し機能が増えたかのように思わせる」目的でIIをつけることも提唱、結果dBASE IIという名前になった。
ちなみにVulcanそのものは、元々JPLで利用されていたJPLDIS(JPL Data Information System)というソフトウェアにヒントを得たものだ。ただJPLDISはUnivac 1108という大型のシステムで動いていたが、Ratliff氏はこれをCP/Mが動く8080/Z80マシン向けにアセンブラで移植した。

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第845回
PC
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密 -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ











