世界3カ所目の気象予報センターを東京に開設、企業ビジネスでの気象データ活用を支援
日本IBM、ワトソン事業部で「気象予報情報サービス」開始
2017年03月14日 07時00分更新
日本IBMは3月13日、企業向けの気象情報提供サービスを国内でも開始したことを発表した。航空/交通やエネルギー、小売、保険といった幅広い業種の企業に対し、短期/中長期、狭域/広域に対応した精度の高い気象予測データを提供するほか、「IBM Watson」のアナリティクスやコグニティブの能力も組み合わせた業種別の気象データ活用ソリューションも提供していく。
高精度気象予報データとビジネス活用のための業種別ソリューションを提供
IBMでは2016年1月、グローバルな気象情報を提供する米The Weather Company(TWC)の買収を完了し、すでに米国や欧州市場では気象情報ビジネスを展開している。TWCは、世界25万カ所以上の計測点と毎日5万回以上の航空機フライトから膨大な気象データを収集しており、それを分析することで高精度のグローバル気象予報サービスを実現している。加えて昨年(2016年)6月には、IBMリサーチとTWCで新たに共同開発した短期/狭域対象の気象予測モデル「Deep Thunder」も発表した。これは、0.3~1.9km四方ごとのハイパーローカル気象予測を可能にするものだ。
これにより、TWCの気象情報サービスは一般的な気象予報よりも精度/粒度が細かく、ビジネス活用につなげやすいものとなっている。TWCの気象情報サービスを活用する企業は、たとえばアメリカン航空などの航空会社、CNNやアップル(iOS「天気」アプリ)などのメディア企業、大手小売業など、すでに数千社に及ぶという。
今回は、日本IBMが日本の気象庁から気象予報業務の許可を取得し、日本国内での気象情報サービスをスタートした。米国、欧州に続く3拠点目として日本IBM本社内に新設した「アジア・太平洋気象予報センター」には気象予報士を配置しており、従来よりもさらに正確な気象予報データを日本およびアジア太平洋地域の顧客に提供していく。
気象予報データは、海外の気象局や日本の気象庁、さらにDeep Thunderなどによる数値予報モデルからのデータ、レーダーやアメダスによる実況データなどに基づいて、自動算出される予測データに予報士が補正を加えるかたちで作成される。新たな気象予報データは1時間ごと(3時間以内の予報は15分ごと)に作成、配信する。気象データはAPI経由で取得できるほか、統計解析ソフト「SPSS Modeler」で直接データ取得できるサービスも提供する。
また、各業界における気象データ活用に特化したパッケージソリューションも、SaaSとして提供する。この業界向けSaaSとしては、メディア企業向けに天気予報を3Dマップ上で可視化するもの、エネルギー企業向けに気温変動の長期予報を提供するもの、航空会社向けに航路上の乱気流発生予測を可視化するものなどがすでに提供されている。
加えて、個別顧客のニーズに応じて、IBMが持つアナリティクスやコグニティブの能力も組み合わせた気象データ活用ソリューションのコンサルティングや構築も手がけていく。
なお、気象データやSaaSの提供はIBMのクラウドプラットフォームで行われるため、Watsonのコグニティブサービスやアナリティクスサービスとの統合も容易になっている。
「気象情報は例外なくすべてのビジネスに影響を与える」
発表会に出席したTWCプレジデントのギルダースリーブ氏は、「天候は例外なくすべてのビジネスに影響を与えるため、正確で詳細な気象予報データは幅広い業種のビジネスで利用価値がある」と語った。
たとえば自動車/損害保険業界では、悪天候の発生を事前に知ることで顧客に注意喚起(悪天候の回避)を促すことができ、顧客満足度向上と保険請求の抑制につなげられる。またエネルギー業界では、精度の高い気温予測に基づいてエネルギー需要予測やエネルギー取引の意思決定ができる。
「現在の一般的な企業では、天候の変化が起きてから『後追い』で対策を行っている。TWCのサービスを活用することで『事前に』アクションを起こすことが可能になる」(ギルダースリーブ氏)
また日本IBM ワトソン事業部 TWCセールス担当の加藤陽一氏は、今回のサービスでは単なるデータ提供だけでなく、顧客のビジネス価値につながる業種別ソリューションのコンサルティングおよび提供にも注力すると説明。これまで米国や欧州で培ってきたTWCの知見を、日本の顧客にも積極的に展開したいと述べた。
また日本IBM 執行役員 ワトソン事業部担当の吉崎氏は、今回の気象情報サービス開始が、ワトソン事業そのものにもプラスになるとの見解を示した。気象データをビジネス活用する際のアナリティクスや自然言語処理などの部分で、Watsonのコグニティブ能力が生きてくると考えているという。
「昨年は国内200社以上の大手顧客でWatsonの導入が実現し、今年はその裾野をさらに広げていく年。TWCのサービスは幅広い業種で使われており、(裾野を広げるという意味で)Watsonとの相乗効果も狙える」(吉崎氏)
なお、TWCのサービスでは(現時点では)気象予測そのものにWatsonの技術が使われているわけではない。気象予報士が所属する予報センターを設立しているのもそのためで、ギルダースリーブ氏は、「コンピューターによって気象予報にかかわる多くの作業が自動化され、精度も高まるが、最終的には人間(気象予報士)が介在することで、より良い結果(正確な予報)が提供できる」と説明している。
ただし、ギルダースリーブ氏によると、TWCの気象予測では162の予測モデルを併用しており、地点ごとに各予測モデル間の重み付けを動的に調整することで予測の精度を高めているが、この重み付け調整には人工知能技術が用いられているという。また吉崎氏は、IBM社内では現在、中長期(3カ月以上)予測に機械学習を適用して、より高い予測精度を実現する研究プロジェクトが進行中だと紹介した。