米マイクロソフトの研究開発部門マイクロソフト リサーチ(MSR)のヘッドであるジャネット M.ウィン氏が2月28日に来日会見を開き、MSRのAI分野における基礎研究の動向について説明した。
ウィン氏はMSRについて、設立から27年目になる研究機関であり、コンピューターサイエンスを中心に、OSや分散システム、アルゴリズム、社会科学、経済学など幅広い研究分野をカバーしていると説明。その中でも特に、AI分野については深層学習、機械学習の基礎研究と製品化に10年以上にわたって投資をしてきたと述べた。さらに、2016年9月には5000人規模のAI研究専任部門「Microsoft AI and Research Group」を新設し、AIの基礎研究と製品への実装に向けた投資を加速している。
これまでのAIへの研究開発投資は、検索エンジンBing、パーソナルアシスタンスCortana、機械翻訳サービスSkype Translatorなどの製品で結実したとウィン氏。「たとえばSkype Translatorは、MSRが10年研究投資を続けてきた深層学習のテクノロジーを使って、音声認識、機械翻訳を行っている」(ウィン氏)
今後の方向性については“AI everywhere”という表現を用いて、OfficeやWindowsに新しいAIの機能が増えていき、Azure Cognitive Servicesなどクラウドサービスの形のAIが拡充され、さらにはAzureのインフラの深い部分にまでMSRが開発したAIテクノロジーが投入されていくと説明した。「ITベンダー各社がAIの研究開発を進めているが、マイクロソフトのAIの差別化要素は“人の能力を超えた認知技術”だ。そして、ビジネス面の強みは、強力なエンタープライズ顧客を持っている点。クラウドやソフトウェア製品にAIを投入することでエンタープライズ顧客を魅了し、長期的な関係を作っていく」(ウィン氏)
もう1つ、ウィン氏はMSRのAI研究のキーワードとして“Trusted AI(信頼できるAI)”を提示した。同社では、AIの裏にある機械学習や深層学習のモデルについて、「そのモデルがなぜその判断を下したのか」を説明できる透明性を担保することを重視している。「たとえば深層学習をつかった画像認識においては、その結果について確率を出すことが大事。この画像は95%の信頼をもって“猫”だというデータを提示し、最終的な判断は人間が下す」(ウィン氏)
チャットボットの失敗作「Tay」と後継「Zo」、開発はどう違うのか
MSRが開発したAIテクノロジーは、女子高生AI「りんな」や2016年12月に登場した「Zo」などのチャットボットにも使われている。マイクロソフトのチャットボットと言えば、2016年にリリースした「Tay」が、ユーザーからの学習で人種差別やヘイト発言をするようになり公開直後に停止したことが記憶に新しい。
失敗したTayと、その後継として登場したZoではどのように開発工程が違うのかとの質問に対して、ウィン氏は、「Tayの失敗を踏まえて、Zoでは内部的な処理を多くし、リリースする前のテストも増やした。さらに、倫理審議会も新設した。これからマイクロソフトがリリースするチャットボットはすべて審議にかけられる」と回答した。
深層学習フレームワークをOSS化した狙い
マイクロソフトは、MSRの研究成果である深層学習フレームワーク「CNTK」を2016年1月にオープンソースとして公開した(CNTKは2016年10月にMicrosoft Cognitive Toolkitに名称変更)。
その意図について尋ねると、ウィン氏は、「マイクロソフトはこれまでに多くのOSSコミュニティに貢献しており、CNTKをOSSとして公開するのも自然なことだった。狙いとしては、より多くの研究者にCNTKを使ってもらうことだった」と回答している。