締切、請求、カネがない
橘川 まあ、そういうようなことがあって、商売って大変だなと。で、ロッキング・オンというのは4号から、一般流通に乗る全国販売の雑誌になったんだ。それまではミニコミだから良かったけど、定期刊行物になると発行日が決まっていて、締切があるんだよ。締切ってさ、本当に不愉快だろ? な?
四本 いやーそんなことはないねーいっつも守ってるしー。
西牧 えっ……。
橘川 だいたいさ、書きたいことがあるから書くわけだよ。締切があるから書くわけじゃないんだよ。書きたいことのほうが大事で、書きたくなかったら書かなくていいんだよ、ホントは。締切があって書くなんてさ、これ仕事じゃん。
西牧 もちろん仕事ですよね、うん。
橘川 仕事だったらほかのことをやったって一緒でさ、別にメディアなんかやらなくたっていいじゃない。ラーメン作ってたっていいわけだろ。でも俺たちはメディアを作りたかったわけだよ。で、不愉快だけど社会はそうなってますって言うんで、しょうがねえからさ、締切守るわけだ。
四本 社会人だったら当たり前だよねー。
西牧 ……。
橘川 でも、全部売れたって儲からないわけだよ。俺ら印刷屋の言い値で印刷代決まっててさ、書店の掛け率も言われた額でさ、そんなんでやってたら儲からないわけだよ。なおかつ返本もあるわけだよ。
西牧 おまけに締切もあるし。
橘川 だから俺は世の中の不条理を一手に引き受けた気になったね。世の中間違ってると。
西牧 はははは!
橘川 それで印刷費の請求が来るわけだ。何十万とか何百万とか。そんなカネなんかどこにもないんだよ。でも渋谷が「ロッキング・オンで食うんだ。だからみんな頑張ろう!」って言うんだけど、ウソつけと思うわけだよ。それよりおまえ交通費払えって。
四本 渋谷っていうのは陽一ね。ロックフェスからミュージシャンのギャラとPA代除いたら丸儲けっていうのに気づいた天才。
西牧 あ、それもういいです。
橘川 それで、どうしたかって言うとさ。
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ロッキング・オンの時代 |
橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』
11月19日発売
渋谷陽一、岩谷宏、松村雄策とともに創刊メンバーだった著者が振り返る、創刊から10年の歩み。荒ぶる1970年代カウンターカルチャーと今をつなぐメディア創世記。装丁はアジール。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ
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