品川女子学院 漆校長×人工知能プログラマー 清水亮
「先生、人工知能で未来の仕事はどう変わるんでしょう? 」人工知能と教育をめぐる5つの質問
2016年11月24日 09時00分更新
品川女子学院 漆校長を迎えて行われた「よくわかる人工知能 発売記念対談」。短期集中シリーズ最終回は、活発な質問で湧いた質疑応答の模様をお送りします。
→第1回「人工知能は教育をどう変える? 2020年に向けた日本の「学び方」と漆紫穂子校長が気づいたこと」はこちらからどうぞ
→第2回「人工知能を持ち歩く時代に生き残る仕事っていったいなんだろう?」
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よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ |
質問その1 テクノロジーでドラスティックに世界が変わっていくなかで、子供たちに果たして何を学ばせるべきでしょうか?
女性 今日は面白い話、ありがとうございます。結局答えが出ないまま曖昧になっている、先生も何度も清水さんに質問を投げられている、「2025年に今の小中高生はシンギュラリティを迎えている中に出ていく中で、結局何を毎日勉強していればいいのか」。
それが一番知りたくて。不老不死がくるかもしれない、シンギュラリティがくるかもしれない世の中に出ていく子たちに、何を今、学んで、何を経験していればいいんだろうって、常に親として思うんです。
清水 よくわからないってことですね(笑)。
女性 好きなことをやってたら、もしかして(人工知能の発展によって)不老不死のようになって働かなくてよくなって、好きなことがやれる人生がくるかもしれないから、好きなことを見出すのが一番いい、みたいなことですかね。
清水 僕は、シンギュラリティに関係なく、ずっと好きなことしかやってないので、好きなことをやってればいいんじゃないですかね、とは思います。無責任なこと言えないので、それはもう各ご家庭でご判断いただいて(笑)。
漆 松尾 豊先生(※)に同じこと聞いたんです。そしたらちゃんと答えてました(笑)。
※人工知能の研究者として知られる東京大学大学院の松尾 豊特任准教授
清水 松尾先生、そんなにちゃんと答えてくださったんですか?
漆 相手を選んで答えたと思うんですけど(笑)。哲学とか、人の生き方って、私もすごく逆に興味を持つようになって。だから聞いたんですよ。
「松尾先生、海外とか引き合いあるでしょ。給料倍になるんじゃないですか」と言ったら、「こういうこと(人工知能の研究)をやればやるほど、幸せってなんだろう、生きるってなんだろうと考える。そうすると自分の幸せは、なるべく身近な人に貢献することで、それは自分にとっては日本だから、僕は日本にいてこの研究をしたい」。美しい答えでしたよ。
清水 美しいけど、結局哲学やったら生きていけない。それで生きてる人は(思想家の)東浩紀さんしか知らないです。それ、答えはぐらかされてますよ(笑)。これは、非常に難しくて、お子さんの性質とか性格もあるので、真面目に勉強が好きな人には「なんで勉強なんかしてるの」と言う必要はないし、勉強が全然できないしやりたくもない人に「なんで勉強しないんだ」と言う必要も、僕はないかなと思うんです。
漆 そうですね。1つ言えることは、なんでもいいので好きなことを見つけること。たとえば、ゲームは一所懸命やってるとか、部活は好きとか、親から見たときにどうでもいいようなことでも、何かを一所懸命やった体験というのは、他の道でも応用できるんですね。その過程で身についたことが自分の中に入ってくるから。だからもしかしたら、あまり「何」というのは考えないで、夢中になってやるプロセスを大事にするといいのかもしれませんね。
清水 結局好きにやればいい、と(笑)。
漆 というコメントを、上手に言ってみました。
清水 正直僕は、これから勉強して東京大学入って卒業すると幸せになれるというのは、まったくそうは思ってないんです。
東京大学へ行く価値はとてもあります。素晴らしい大学だし、素晴らしい先生方がいらっしゃいます。ただ、東京大学へ入るのは、高校出てすぐじゃなくても良い。別に就職してから東大に入ることもできるし、大学院から入ってもいいわけです。
素晴らしい先生に若い頃に会うと、ありがたみがわからないんですよ。うちの会社にも結構いるんですけど、うちに東大の先生がいたときに、その人の教え子を雇ったことがあります。「あの先生ってそんなすごい先生だったんですか。僕、全然、話聞いてませんでした」なんて言うんです。一度社会に出ないと、ありがたみがわからなかったりする。僕が社会に出たほうがいい、というのはそういう意味です。
あんまり真剣に勉強したところで、それが報われるよというのは、「正直それは嘘だ」と思うんですね。親が子どもについてる嘘だと思っていて、その上で子供に嘘をつくなというのはむちゃくちゃだと思ってます。こういうことしたいから東大行きなさい、こういうことしたいからこの大学行きなさい、こういうことしたいからこの勉強しなさいというのは当然ありですが、寿司職人になりたい人が東大に行ってもしょうがない。
1つ僕が付け加えたいのは、僕の尊敬する素晴らしい友人で、樋口真嗣さんという映画監督の方がいらして、彼は高校時代からずっと映画が大好きで「ゴジラ」からやってるわけです。当然大学なんか行く気もないし、行ってもない。でもだからこそ樋口真嗣というのは、日本を代表する特撮監督になれたわけです。それはそれで彼の生き方だと思うし、好きに生きてきた。
でも、好きを貫くのはすごく大変だから、それだけ苦しんで生きてきたことの証だと僕は思っていて、だからこそ彼をすごく尊敬しています。どんな東大教授と比較しても遜色ないし、そして彼の友達は東大教授ばっかりという、そういうこともあるわけです。それって道が違うだけで、この道でやりたいというのがあるんだったら、一回その道に全力で挑戦するのは僕は全然ありだと思いますね。
うちのアルバイトで、サッカー推薦だけで大学へ行った人がいます。もうずっと小学校のときからサッカーが得意で、サッカー推薦で大学行って、「俺なんか大学入れてラッキーですよ」とか言ってるわけです。「サッカーの選手にならないの?」と聞いたら「なれるわけないじゃないですか」って言うわけです。当然、勉強にも全然ついていけないわけです。でも、ノリのよさだけで、結構いいところに就職して、万歳!みたいな。
彼は僕の生徒でもあるので、そういう若者を見てると、サッカーだけやってても、良い会社に就職できたんで、それはそれでありじゃんと。逆に彼がサッカーで培った知見とかチームワークとか突破力というのは、次の仕事にも活かされる。
漆 それはほんとにあると思う。次に活かせる。
清水 僕が親御さんに言いたいのは、子どものほうが優れてるんです、そこだけです。そうじゃなきゃおかしいんですから。自分たちだって、自分の親がおかしいなって思ってたじゃないですか、子どもの頃。今はもっとおかしいと思ってますよね。
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