自分の作りたいギターができるまでやる
―― 自分のために?
伊集院 そうです。あのギターがほしかったんです。だから22のときにギターの専門学校に入りました、大学を辞めて、それまでバイトで貯めたお金でね。ちょうどボンダイブルーのiMacが出た頃です。インターネットが普及し始めた時期で、海外の人達とやり取りができるようになって。
―― ああ、懐かしい話ですね。まだ速くてもISDNだったり。
伊集院 そうしたら海外にレッド・スペシャルのコミュニティーがあって。僕もファンのひとりとして参加していたんですけど、1990年代にGuildが再発したシグネチャーモデル(BM01)のトレモロユニットがオリジナルに近くて、その仕組みがどうなってるんだろうとか、そういうやり取りをしていましたね。
―― やっぱりディープな話が共有できるネットの影響は大きかった?
伊集院 ネットがなければレッド・スペシャルは作れていないです。レッド・スペシャルを作ってくれたら買いたいとか、あれば自分もほしいとか、そういう人の欲求を知ったのもネットです。
―― お客さんもいたと。でも、なにゆえそこまでレッド・スペシャルなんですか?
伊集院 ブライアン・メイが自分で作ったギターだから、オリジナルは世界に1本しかない。そのギターを、ずっと使い続けている。いまは何10億と稼ぐ人が、ほとんどお金をかけずに作ったギターを、ずっと使っているんですよ。
唯一無二なんです、すべての面で。設計から、構造から、なにひとつほかのギターと同じところはない。トレモロユニットも自分のデザインだし、ブリッジも自分のデザイン。
その彼と同じギターがほしければ、それは自分で作るしかないんです。僕はものを作るのが好きだし、だったら自分でと思うのは、僕の中ではものすごく自然なことなんです。そのために、まずギターを作る技術を身に着けようと。
―― ただレッド・スペシャルを作るだけのために。
伊集院 そうです。まだ、当時は若かったですから。将来のことをそんなに考えてなかったですし、すごく短絡的な、いまほしいから作ろうという、まあ子供と一緒ですよね。
―― じゃあレッド・スペシャル以前にギターを作った経験は?
伊集院 ないですよ。
―― でも、専門学校に行かれたんですよね?
伊集院 いや、専門学校に2年行ったって、売り物のギターは作れるようにならないですよ。
―― 文学部に行っても小説家になれないのと同じですね。では、レッド・スペシャルを作れるようになるまでなにをしましたか。
伊集院 あきらめない。
―― なるほど!
伊集院 いや、ホントそれだけなんですよ。ギター作りは正解のない世界なので。あきらめずに自分の作りたいギターができるまでやる。それだけです。ちょっと手先が器用で、ちょっと楽器が好きで、ほかより良いものができたからって、ダメなんです。やっぱり強いビジョンがあって、夢があって、野望があって……。まあ、それくらいじゃないと。
―― なにかミュージシャンと一緒ですね。
伊集院 ほんとにそう、一緒です。あきらめない人が、最終的にミュージシャンになっているのと一緒。だから、あきらめなかったからギター製作家になっている。そういうことです。でも、僕はかなり特殊だと思います。ギターが好きなわけではなくて、レッド・スペシャルが好きなだけ。自分のレッド・スペシャルを作って、自分と自分の周りの人たちのために作れたら、それでいいと思っていました。

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