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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第156回

QUEENブライアン・メイのギターを日本人製作家が作るまで

2016年10月29日 12時00分更新

文● 四本淑三

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 神奈川県逗子市にあるギター工房・ケイズギターワークス代表の伊集院 香崇尊(かずたか)氏は、ブライアン・メイの愛器「レッド・スペシャル」のオフィシャルシグネチャーモデルを手掛けたことで、世界的に知られたギター製作家だ。

 そのケイズギターワークスは、2016年1月のNAMMショーで、初のオリジナルモデル「Kz One Standard」を発表。レッド・スペシャルの発展系とも言える、このフルオリジナルのハンドメイドギターは、ほかのどのギターにも似ていない音を持ちながら、適正な重量バランスや弾きやすさに優れ、最初から楽器としてパーフェクトな完成度を持っていた。

Kz One Standard取扱店のフーチーズが公開しているデモ動画。ピックアップとフェイズ切り替えで13通りの幅広い音色が出せる

 そのKz Oneが気になって仕方ない私は、まず伊集院氏の過去の仕事ぶりを確かめておこうと、彼のギター作りの原点であるレッド・スペシャルのレプリカ「Kz Pro」を持つ友人を訪ねた。その完璧な機能、思わず顔を見合わせて笑ってしまうくらいの精巧さ、異常なまでにこだわった細部については、前回レポートした通りである。

 ギター製作技術の高さは当然として、あれはどう考えても普通の入れ込み方でやれる仕業ではない。そこまでギター製作家を夢中にさせるレッド・スペシャルとはなんなのか。そして、それがどうオリジナルギターの開発へつながっていくのか。今回は伊集院氏に会ってみた。

ケイズギターワークスの逗子工房。新しいオリジナルギター「Kz One Standard」製作のため昨年7月に移転してきた

工房の外観は、一見するとおしゃれなカフェ風だが……

一歩中に入ると工作機械や木材でいっぱい

自分のためにレッド・スペシャルが作りたかった

―― Kz Proには驚きました。あんな値段なのに、最後は安いような気がしてきて。

伊集院 あれは作れて年間で6本。それを10年やりましたが、まったく商売になっていませんでしたね。

―― あれだけ手間がかかればそうでしょうね。ところで伊集院さんはお名前がすごい感じですが、バックに大きな資本や、やんごとなき事情があったりしますか。

伊集院 いやいやいや。ごく普通の家の出ですから。お金持ちでもなんでもありませんよ。

伊集院氏。想像よりはるかにお若い

―― では平民同士ということで話を続けましょう。まずクイーンのファンとしては、ずいぶんお若くないですか?

 僕はいま40です。僕の周りにもファンはいませんでした。やっぱりコアなところは、ヨツモトさんみたいな、いま50代くらいの方でしょう。僕が最初にクイーンに興味を持ったのは17の時で、1992年くらいです。

―― もうフレディが亡くなった後ですね。

伊集院 おそらく最初は、NHKで見た日本のトリビュートバンドです。演奏していたのは「キラー・クイーン」で、いま思うとフレディー・エトウさんがやっていた「KWEEN」というバンドだったんじゃないかな。いまは「Queeness」というバンドをやっている方です。

―― 本家も認めたというプロのコピバンですよね。クイーン体験がまず我々とは違う。

伊集院 もうフルメンバーでは来日もしませんからね。高校時代と言えばPERSONZも好きだったんですが、当時ギターを弾いていた本田毅さんもブライアンが好きだったので、そこからクイーンへ行ったのかもしれない。どっちが先かわからないんですが。

―― どっちにしても直接ではないということですね。クイーンのなにが良かったですか。

伊集院 「ボヘミアン・ラプソディ」でノックアウトされました。なにより歌の内容が狂気じみていて。だから僕にとってのクイーンは、最初はギターではなくて、フレディかもしれないです。

―― でも、ギターは弾かれますよね?

伊集院 高校1年の頃からやってはいましたが、練習する根気がなかった。ということはギターを演奏する才能がない。だから、毎週土日は、自分の持っているギターをバラして、ネジ一個一個磨いて、また組み立ててみたいなことをしていました。

―― ああ、なるほどそっちの方に。

伊集院 結局、ものを作るのが好きなんですよ。高校が付属だったんで、一応大学には行ったんですが、1ヵ月くらいで行かなくなって、勝手に退学届を出しちゃった。やっぱりギターが作りたかったんです。それも、ただレッド・スペシャルが作りたい。自分のために。

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