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遠藤諭のプログラミング+日記 第8回

任天堂やはてなもあるデジタルと古都の関係あるやなしや

「京都」は移住におすすめしない。その理由を7つのポイントで解説された

2016年10月21日 09時00分更新

文● 遠藤諭/角川アスキー総合研究所

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「近頃の京都の変わりよう。古代の仏像が安心して住めるところではあらしまへん」(実相寺監督『怪奇大作戦』25話“京都買います”より)。(今回は、週刊アスキーの連載「神は雲の中にあられる」の転載です)。

恵文社一条寺店

 総務省が“移住”を推進しているそうだ。全国移住ナビ”というサイトがあって、“自然と暮らす、街で暮らす……自分に合った暮らし探し”などと書いてある。地図から、観光情報から、仕事から、地方自治体がつくったアピール動画からも調べられる。そんな中で、移住先の人気ナンバーワンは“京都”らしい。

 たしかに、京都が日本人の大好きな地域であることは、NHKの番組であつかわれている数をみればわかる。EPGで検索してみたら、NHKの4つのチャンネルで1週間に35回以上も京都ネタが放送されていた(東京以外ではダントツ)。NHKが、京都好きなのか?

 京都への移住については、ガイド本も出ているし専門サイトもある。また、「まだ東京で消耗してるの?」といって高知に移住したのイケダハヤト氏が、1年以上前になるが“「京都」は移住におすすめ。その理由を7つのポイントで解説します”と書いていた。よく見ると、それより前に“移住初心者は「福岡」に行け!”と書いていたので、「福岡」では理解できなかったさらに初心者向けの記事かもしれません。

 それで、イケダハヤト氏が何を書いていたのかというと、“歴史”がある、“住民が誇り”を持っている、“外国人、学生、変人”が多い、“雇用”がある、“宮津市のような田舎”もある、“飯”が旨い、“アクセス”がいいと、ざっと要約するとこんなことだ。

 なんとまともな内容。歴史があるのは誰でも知っているほか、たぶんどれも当たっている。ほかの地域の会社と異なり、京都の会社はじっと本社をこの地に構えていて、はてなやコネクトフリーみたいな若い企業もがんばっている。おばんざいも旨いに違いない。

 というわけで、「京都は移住先としていいらしいじゃない?」と京都の老舗お菓子店の息子Oくんにふってみた。ところが、これもなんとなく予想はしていたのだが、「移住にいちばんお勧めできないのが京都」と言われた。これまた7くらいの理由をあげて返してくれたので、ここに紹介しておきたいと思います。

 だって、移住先の人気ナンバーワンである“京都”が、いちばん京都を知っている京都人をして“いちばんお勧めできない”って、ちょっとしたパズル的な興味がわきませんか?

京都人が語る、移住に向かない7つの理由

 まず、“家賃”が高い。“敷引き”というほかの地域からくる人には大変にわかりにくい習慣もある。“物価”も高い。物価指数13項目のうち、京都府は“食料”、“家具・家事用品”、“教育”、“教養・娯楽”の地域差指数において東京につぐ第2位、約半分の6項目でベスト3に入っている(※1)。

 “暑い”。フェーン現象も起きやすく、ウィキペディアの“猛暑”の項目でも、山形市、甲府市、京都市、大分県日田市とリストアップされている。台風一過全国的に晴れた7月20日(=この原稿を書いている)、京都は35・7度で全国412の観測地点中で堂々の6位となっていた(※2)。

 京都に“宮津市”のような田舎があるというのは、土地勘のない人の考えだそうだ。いまは高速道路がつながりそうだが、かつては大阪、兵庫を経由したほうが早かったようなところ。たまたま、京都府というだけ。

 土地といえば、京都の中心部から車で北のほうに30分もいけば土地は余っている。ところが、標高がどんどん上がるので、実は、豪雪地帯。春や秋のハイキングシーズンにやってきて土地や家を買うと、夏は暑いし、冬は寒くて辛いことになる。

 京都の町は雰囲気はよいが“観光客”がうるさい。碁盤の目のようにきれいに道路が作られているので効率がよさそうに見えるが、車がないと思うように動けない。市バスが充実しているので困らないが、中心部は学生と観光客で“混雑”している。まさに、“京都買います”の世界である。

 そして、京都出身者による最後の理由は“京都の人はぶしつけ”であることだそうだ。しゃべり方はやわらかいのでそうは見えないが、しゃべっている中身はかなりきつい。Oくんも実家に帰ると“ことば”が分かるので、あまりに攻撃的でストレートな話につきあいきれなくなる。

 これに対抗するには、京都人なみにハッキリいうことだが、その“ことば”の機微は外国語を学ぶよりむつかしいので実質無理かもしれないとのこと。これらの結果、彼ら京都人はストレスがない。

 京都は、“家賃”が高い、“物価”も高い、“暑い”、“田舎があるとは言えない”、“観光客がうるさい”、“混雑している”、“京都人がぶしつけ”。しかし、7つ目の理由を途中まで聞いているとギスギスしてつらい話になるかと思いきや、結果的に、“ストレスがない”というのは聞き捨てならないではないか? メンヘラがふつうの時代においては理想郷ともいえる。

 そこで、すこしばかり連想するのがツイッターとフェイスブックの違いだ。“フェイスブック疲れ”ということばがあるのに対して、ツイッターは特有の距離感がある。相手を叩いてみて反撃があっても、140文字単位のパンチなので重みがないし、タイムラインを見過ごしてしまえばいい。フェイスブックは田舎で、ツイッターは少し京都的なものかもしれない。

 ところで、NHKの京都番組で「京都人の密(ひそ)かな愉(たの)しみ」というドラマのような、ドキュメンタリーのような極めつけともいえるものがあった。むかし、資生堂のMG5のコマーシャルに出ていた団時朗ふんする英国人文化人類学者が、「京都人は分からない」と言いながら町家に下宿している。

 そうするうちに、自分も京都人になってきたのではないか否か? などと妄想をめぐらすというような内容だった。つまり、京都人のOくんがいちばん問題だという京都人という概念が、キーを握る事柄であることが分かる。あまり表立って言わないが移住に関してもここに行きあたるんではないか?

 そういえば、実際に仕事で京都に越した人によると、「いつ上洛されました?」と何度か聞かれたそうだ。“上洛”というのは、京都以外のつまり“地方”から京都に入る(引っ越してくる)という意味の特別な京都人のボキャブラリーなのだそうだ。

私にとって京都で思いあたることといえば恵文社一条寺店。つまり、サブカルチャーだ。その昔、『東京おとなクラブ』(私が'80年代に個人で作っていた雑誌ですけど)を創刊したときにまっさきに注文をくれたのが、名古屋のちくさ正文館とこのお店でした。

坂口安吾ノートと鉛筆(“「私は一人の馬鹿であった」『堕落論』より”などとある)を買った。京都の文學堂というところが作っている。そういえば、パラパラマンガ本を売りまくっている青幻舎も京都の出版社でした。このあたりのオルタナティブカルチャー感は、千年の歴史からすると本当にとるに足らないことなのでしょうけどね。

※1 都道府県格付け研究所
※2 今日の最高気温ランキング

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