英国『The Telegraph』紙は“シックス・センス”を作り出したと報じていた。(今回は「週刊アスキー連載中の『神は雲の中にあられる』より転載です)
電波が見える!とても便利な人生
ネズミの額に赤外線を検知するセンサーを埋め込み、それを脳の神経細胞につなぐことで“赤外線の見えるネズミ”を作りだしたというニュースがあったのをご記憶だろうか?('13年2月に『ネイチャー』に掲載された論文)。ネズミは、本来、赤外線は見えないのだが、センサーを脳に直結して1カ月ほどで、赤外線をたよりに迷路を進んでエサにたどりつけるようになったというものだ。
ここで重要なのは、センサーは“ヒゲ感覚”の神経に配線されたのだが、もともとの“ヒゲによる触覚”機能は失われなかたったということだ。新しい能力がプラスされただけで、ひたらす能力が向上した。これは、とてもお得。しかも、英語でもなんでも習得するのに1万時間はかかるというような話があるけど、1カ月だとするとわずか720時間という効率のよさである。
この3年前のニュースを思い出したのは、池谷裕二さんの『脳はなにげに不公平/パテカトルの万脳薬』(朝日新聞出版刊=『週刊朝日』の連載をまとめた本)を読んでいたら、この論文の話題が出てきたからだ。
「イルカやコウモリは超音波を聴き、渡り鳥は地磁気を感じ、昆虫は紫外線を見ます。残念ながら、ヒトの体はそのような特別な感覚器を装備していません。身体が貧弱だと、脳の潜在能力が十分に発揮されません。(中略)折角こんなに素晴らしい可能性を秘めた脳を持って生まれてきたのだから、生まれたままの肉体限界に縛られて一生を終えるなんてもったいない。そう探求心がくすぐられるのは私だけでしょうか」などと書いている。
ちなみに、この本には米国デューク大学でネズミの脳をつないだ実験をしているという話題が取り上げられている。2匹のネズミの脳を繋いだら、連携してエサを得ることができた。しかも、実に、2匹を5千キロ以上離れたブラジルとアメリカで同期させたというのである。これ、ほとんどインターネット的な地球スケールの生体ネットワークではないか? 池谷さんは、以前、私がインタビューさせていただいたときにもこれに類するお話をされていました。
地球のあちこちにある気温や湿度などのセンサーの値を、神経細胞に直接つないでやったら、その人は地球全体の気分の持ち主になるのかもしれない。
もう一歩踏み込んでみれば、世の中の神羅万象を体で感じられるようになったら、人間の“知”というものの意味すら変わってきそうである。脳には"時間"を認識できる能力はなくて、手がブラブラするなど身体があってはじめて"時間"をとらえている。センサーがあると、脳は、それまでまったく想像しえなかった境地に達する可能性がある。
脳の“可塑性”と呼んだりするんだけど、はっきりいって無限の可能性をひめたコンピューターみたいなものなのだ。IoTというものがはじき出す答えも、いままでの情報処理の感覚ではなくて、これくらいの想像力が欲しいというものではないか?
ところで、"神経細胞につなぐ"などと気軽に書いたが、個人的には、いまのところ頭蓋骨をカパッとあけてチップを埋め込む勇気はない。そこで、頼りにしたいのは、我々の“分身としてのスマートフォン”である。すでに、それに近い役割をはたしてくれるアプリもある。
私が大好きなのが、画像認識アプリの「CamFind」だ。もともと「TapTapSee」という視覚障害者向けアプリで、かつてはクラウドソーシングによる人力画像認識による正確さを売りにしていた。それが、最新バージョンでは、ディープラーニングを併用することで小気味よく認識結果を提示してくる。
これの場合、センサー的にはXperiaなど人間より暗いところに強いとかあるが、人工知能との組み合わせになったところが楽しい。まさに新しい"知覚"が、新しい"知"を生み出すみたいな関係が生まれている。このアプリ「ディープラーニングってこういうもんだよ」と宴会芸的に見せるのにも最適なのでお試しあれ。
だから、スマートフォンは、GPSや加速度センサーやカメラとかを付けたくらいで満足していないで、匂いセンサーでもオバケセンサーでも、すでについているセンサーもすべてウルトラ超高感度にしたりするなど進化させるべきなのだ。
それによって、病気の診断やみんなのスマホで地震予知だってできるかもしれない。ちなみに、赤外線が見えるネズミの論文には、磁気、電波、超音波でもできそうだとある。電波が見えたら、週間リスキー(三度のメシより移動通信が好きなマニア)の方々とかには便利ですよね。
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