European Huawei Innovation Day 2016レポート
IoTエコシステムとクラウドで次世代製造業を目指すBosch
2016年08月08日 07時00分更新
自動車部品など製造業大手であるRobert Boschがクラウドを構築、と聞いてもピンとこないかもしれない。だが、同社はIoTが普及する新しい時代に向けてクラウドに大きな賭けをしている。ファーウェイが6月に仏パリで開催した「European Huawei Innovation Day 2016」でBosch Software InnovationsでIoT製品&ポートフォリオ管理ディレクターを務めるOlaf Kautz氏が、IoTとクラウドにかける意気込みを語った。
Boschのすべての製品はコネクテッドでなければいけない
Boschがクラウド戦略を大々的に打ち出して業界を驚かせたのは3月のことだ。産業用IoTのためのクラウドとして「Bosch IoT Cloud」を発表、クラウドを利用して新しい製造業をリードしていくという。
インターネットとITは音楽、メディアとさまざまな業界を変えており、製造業も例外ではない。製造業ではセンサーにより接続した製造環境が実現し、パートナーや顧客とつながることで、製造拠点、物流、在庫管理、販売などスムーズに連携できる。これはさまざまなインパクトを及ぼすと予想されている。
Boschは売上の6割を占める自動車の部品のほか、エネルギー、消費財なども展開するコングロマリットで、世界に220以上の製造拠点を持つ。2015年の総売上高は706億ユーロだった。
売上高は前年比10%増、業績は悪くない。それでも、会長を務めるVolkmar Denner博士は、「Boschが開発するすべての製品は、コネクテッドでなければならない」とトップダウンでの改革を図っている。これについてKautz氏も、「何かを変えなければならない。もっとアジャイルにになる必要があると感じていた」と説明する。そして、激動期を迎え撃つにあたってBoschが出した答えは「IoTのエコシステムのハブとなること」--自社ブランドと製品の普及ベースを最大に活用するというものだ。
本拠地ドイツが提唱している“インダストリー4.0”の機運もあるが、Boschは実は8年前から準備をしてきた。2008年、BoschはBosch Software Innovationsという企業を社内に立ち上げている。Kautz氏はこのBosch Software Innovationの所属で、「新しいアイディアを形にするためのインキュベーションやスタートアップのプラットフォーム」と自社を表現する。最大の役割は「Boschの事業ユニットや組織をIoTの世界に導き、成功させること」だ。
「単に変わらなければいけないからという変化ではなく、意味のあるところで会社を変える。市場の変化に対応するためには、ハードウェアとソフトウェアの両方でアジャイルさを獲得する必要がある。それには、まったく新しい組織が必要」とKautz氏は説明する。社内で変化を試みるよりも、別組織を立ててBoschグループ全体の変化を外から促す方が効果的との判断があった。
Boschはその後、独inubitなどIoT分野でいくつかの買収を通じて技術を補完し、2012年にはIoT Labを大学と共同で解説した。そして、2013年にPaaSの「Bosch IoT Suite」を発表した。製造機器を安全なクラウドに接続し、データを収集・活用できるスマートな工場のためのプラットフォームとなる。
従来型の製造業から脱却!エコシステムのエネーブラーを目指す
2014年には、IoTにフォーカスした自社イベント「ConnectedWorld」を初開催し、2015年にはIoTプラットフォームのProSyst Softwareを買収している。Bosch SoftwareはBoschの本社のあるベルリンを拠点とし、米パロアルトにリサーチセンターを構える。
Kautz氏によると、Bosch IoT SuiteまたはProSystを利用するデバイスはすでに市場に510万台あるという。製造、自動車、エネルギー、エネルギーなどの分野で150以上の国際プロジェクトを展開しているとのことだ。
IoT Cloudは具体的には、PaaSのBosch IoT Suite、コンピュート/ストレージ/ネットワーク/セキュリティで構成されるIaaS、それに同社が顧客に提供するIoTソリューション(SaaS)を含む。産業レベルのクラウドサービスを目指しており、自動車、工場、家やビル、エネルギー、シティと用途に合わせて必要な機能を用意する。共通の機能としては、構築したアプリケーションへの「アクセス制御」、デバイスとレベルを変えて管理できる「パーミッション」、接続レイヤーとなる「IoT Hub」、メーカーを気にすることなく車、洗濯機などモノの機能を利用できる「Things」、サービスオーケストレーションなどを用意し、プラグ&ランでアプリを動かせるという。
特徴はオープンソースコンポーネントの利用がもたらすオープン性、垂直業界の知識やインダストリー向けの機能の実装、エンドツーエンドのセキュリティなど。「顧客からみて、クラウドとオンプレミスとの比較でもっとも重要になるのがセキュリティ。Bosch IoT Cloudではバックエンドからデバイスレベルまでセキュリティを組み込んだ」とKautz氏。プライバシーではドイツのプライバシー法に基づくため、強固なプライバシー対策を講じることができる、とする。
まずは自社がクラウドを活用して製造効率の改善などに使うが、2017年よりBosch IoT Cloudを外部も利用できるようにAPI、SDKに加え、すぐに使える機能やプラットフォームを提供する。これまでの製造業から「技術プロバイダー、エコシステムのエネーブラーを目指す」のが狙いだ。Boschにとって新しいビジネスチャンスにしていく。データセンターは現在、ドイツにある専用のデータセンターのみだが、今後米国などでもデータセンターを構築する予定だという。
Kautz氏はコネクテッドカー、スマートな農業などの事例を紹介した。たとえば自動車では、Eclipse VORTO などのオープンソース技術を使い、クラウドプラットフォーム上に“デジタルの双子”を構築する。サービスが直接車とやりとりすることなく、物理的な車から生成されたデータを安全に利用できるようにするという。このような安全性は、「顧客からのニーズが高い」とKautz氏。Eclipse VORTOは、Bosch Software Inovationsが開発したメタデータ情報記述モデルの作成・管理のツールで、オープンソース団体Eclipse Foundationに寄贈した。
ソフトウェアプラットフォームと同様に重要なのが接続だ。モバイル状態にある車などの“モノ”をバックエンドと接続すると、無線のコンディションが変わるが、アプリケーションは継続して動く必要がある。ここではファーウェイなど専門の技術と知識のあるところと組む。セルラー技術だけではなく、WiFiオフロード、車両間通信(CAR 2 CAR Communication)など、異なる無線技術にも対応し、それらを高度なQoSを利用して優先度の高いアプリケーションのサービスを確保する。「接続性のQoS管理をモノ側とネットワーク側で行なうことで、確実にできる」とKautz氏。ネットワークが圏外になったり、悪天候でも動くIoTを実現していくとした。
Boschは新技術に年間5億ユーロを投資しており、中でもIoTでは700人の専門家を擁するという。IoTとクラウドをテコに、既存の資産を最大に生かして新しい製造業を目指す。