GPUアーキテクチャー拡張とビデオ機能の強化
AMD独自のVR API「LiquidVR」も機能強化が図られた。GCNアーキテクチャーでは、命令発行ユニットとして、グラフィックス処理を制御するグラフィックス・コマンド・プロセッサー1基と、汎用コンピューティング処理を制御する4基のACE(Asynchronous Compute Engine:非同期コンピューティングエンジン)を搭載している。
これに加えて、2基のハードウェアスケジューラーを搭載しており、グラフィックスおよびコンピューティング処理の、より動的かつ効率的なスケジューリング管理が可能だ。
Oculus Riftでは、ユーザーが急に顔の向きを変更したり、VR酔いしにくいと言われる90fpsでフレーム描画が間に合わないと判断した場合、「タイム・ワープ」と呼ぶ、前のフレームのデータを利用して、ヘッドマウントの位置情報に応じて描画エリアの傾きなどを補正させて表示させる処理を行なっている。
この際、VRエンジンは、GPUに対して非同期タイム・ワープ(Asynchronous Time Warp)と呼ぶ描画の中止命令と、最優先処理として前のフレームに対する位置補正などのポストプロセシング処理を行なうように指示をする。
AMDでは、この際に、ACEが一定のCUに対して非同期コンピューティング処理をかけられるため、より短時間で効率的な処理ができるとしている。
さらに、第4世代GCNアーキテクチャーでは、こうした非同期タイムワープなどの優先度の高い処理が発生した場合、ほかの処理より最優先して動的に非同期シェーダー処理を割り当てる「Quick ResponseQueue」を追加。
また、第4世代GCNでは、壁や地面の特性に応じた反響や吸音といった、より自然な音響効果を物理演算処理するTrueAudio Nextのサポートを追加しているが、こうしたGPUへの負荷が高い処理が生じるゲームやアプリケーションでは、一定数のCUを汎用コンピューティング処理に割り当てるCompute Unit Reservation機能も追加されている。
さらに、VRヘッドマウントディスプレーの接眼レンズ歪み補正の負荷を軽減すべく、複数のビューポートに分割描画できるようAPIを拡張。NVIDIAがPascalアーキテクチャーで拡張したSimultaneous Multi Projectionで実現したLens Matched Shadingと同様の機能を実装したことになる。
ただし、AMDは、この処理をソフトウェアレベルで処理する一方で、次世代VRでサポートされると考えられている、視線にあわせて高解像度で描画すべきエリアを動的に変更する視線追尾対応のレンダリング手法も組み込んでいる。
一方、ディスプレー機能では、NVIDIAのGeForce GTX 1080と同様に、Display Port 1.3および1.4、そしてHDMI 2.0bに対応。Ultra Blu-rayがサポートするHDRコンテンツの再生や、HDRゲームタイトルへの対応も果たす。
ビデオエンジンでは、4K60(4K解像度の60Hz表示)にも対応するHEVC(H.265)エンコード機能を追加。
細かいオブジェクトや色差が少ないオブジェクトを高速エンコード処理すると、モザイク状のノイズが発生してしまうが、これを抑えた高品質なエンコードを可能にすべく、2パスのエンコード処理もサポートしている。
正直なところ、絶対的なパフォーマンスということでは、現行のRadeon R9 Furyシリーズより見劣りがする。
日本国内においては、特殊な流通事情と、初値はプレミア価格になりがちなことを考えれば、AMDが発表した199ドル、現在の円・ドル相場で言えば約2万円という価格で、Radeon RX 480が市場投入される可能性は低い。
しかしながら、将来的にVRシステムを構築可能なグラフィックスカードが、より低価格で入手できるようになる素地を作ってくれる可能性はゼロではない。
また、NVIDIA、AMDともに新アーキテクチャ製品が出揃ったことで、従来製品の値崩れも期待できるのもうれしいポイントだ。
あとは、同時発表になったRadeon RX 470や同RX 460の発売時期や価格が、早いタイミングで明らかになることを期待したい。