すべての企業に想像してみてほしい
田澤由利氏に訊く「ふるさとテレワーク」が絶対必要なワケ
2016年04月25日 06時00分更新
総務省「ふるさとテレワーク」実証事業。本連載では(すべてではないが)各地の取り組みを追ってきた。同じ「サテライトオフィスでテレワークを実践する」のでも内容はさまざまで、地域の特色がよく活かされていた。そして、どの地域にも「ふるさとテレワーク」の土台となるような元々の活動があり、全国的に知られていなくても、地域活性化は取り組まれているのだと実感できた。
その後押しの意味も込めて、本稿では「ふるさとテレワーク」の必要性を考察してみようと思う。なぜ今、国を挙げて取り組むのか。すべての企業に、その理由を一度想像してみてほしいのだ。この取り組みは、決して他人事ではないはずだから。
また、このテーマで忘れてはならない人物がいる。およそ20年間、テレワーク普及に努めてきたワイズスタッフおよびテレワークマネジメント代表取締役の田澤由利氏だ。
政府とともに「ふるさとテレワーク」のそもそもの考え方を発案し、実証実験でも各地域のアドバイザーを担った。そんな同氏に「ふるさとテレワーク」で大事なことや、今後の展望についても訊いてみる。
きっかけとなった想い
まずは「テレワーク」から「ふるさとテレワーク」へ、田澤氏はどのようにしてこの考えに至ったのか。まず「テレワーク」へのきっかけは「不本意な退職」と語る。
同氏は上智大学卒業後、シャープに入社。PCの商品企画などを担当していた。ところが、3人の出産と夫の転勤でやむなく退職。5度の引っ越しを経て、現在の北海道北見市に移り住む。フリーライターとして独立もするが「本当はシャープでの仕事が大好きで辞めたくなかった。でも、当時は今よりも女性が働き続きるのが難しい時代。仕事も家族も大事にしたい。どちらも諦めずに生きるにはどうしたらいいか。そこから『テレワーク』に興味を持ち、次第に『理想の働き方』として世の中に広めたいと思うようになった」(田澤氏)
1998年にはワイズスタッフを設立し、インターネット上で会社を運営する「ネットオフィス」を実践しながら、約140名のテレワーカー(海外在住も含む)とともに、Web関連の仕事を始めた。さらに「テレワークの普及には企業を変えなければ」と考え、2005年に企業コンサルを行なうテレワークマネジメントも設立。現在、両社の代表取締役を務めている。
「最初は北見に住むのも嫌で嫌で仕方なかった」と苦笑する田澤氏。ところが住めば素晴らしい環境で、いつしか「この大自然の中で子育てしたい」と思うようになったという。この「子育て」の思いが、「ふるさとテレワーク」への最初のきっかけとなる。
「都会の子どもたちにもこの大自然を体験してほしかった。けれど、都会で働く親は夏休みも長期休暇が取れない。やっと北海道に来ても日数が短いので移動ばかりで終わってしまう。そこで、北見に拠点を作り、そこに夏休みの間寝泊まりしてもらい、仕事がある日はお父さんだけ帰京する。もちろん可能ならテレワークを使ってもらって、少なくともママと子供だけでも北見に残り、思う存分自然を楽しんでもらえる“滞在型観光”を10年前に企画した」(同氏)
地方に人の流れを創る――小さな芽ではあるが、子育てや観光をフックに、「ふるさとテレワーク」の根本となる考え方がこの時生まれたのだ。
神山町の存在が心強かった
時を経て2015年夏。「ふるさとテレワーク」の実証事業が始まる。この事業は、どのように具現化していったのか。こんな経緯だった。
「自分でもどこが“始まり”なのか分からないのだけど、もしかしたら高市総務大臣の存在が大きいのかもしれない。9年前に初めてテレワークの話をする機会があって、高市大臣も『2025年までには在宅勤務が主流になる』とお考えだったので、『そうだよね』と盛り上がって。その後、政権交代があって、大臣もやり残した気持ちがあったんだと思うのだけど、2014年に政調会長として戻られたときに『田澤さん、待たせましたね』と言ってくださって。地方創生会議にも参加することになって。そこでテレワークとWi-Fiを推進する研究会が立ち上がり、議論を通じて“ふるさとテレワーク”という概念が作られていった」(田澤氏)
本事業は、着想からわずか1年で実証実験に至っている。「ものすごいスピード感だった」と田澤氏。「北見で18年間テレワークをしてきたけれど、“都心の働き方改革”というイメージしかなく、それすらまだ定着していない。ましてや“地方移住型テレワーク”なんて夢みたいな話なのに、あれよと実証実験までこぎつけた。それにはやっぱり徳島県神山町の存在が大きくて、すでに実現している地域があることが関係者にとって心強く、推進力になった」と振り返る。
実証実験の概要は本連載でお伝えしてきたとおりだが、ふるさとテレワークがなぜ必要なのか。冒頭で述べたとおり、そこを改めて考えてみたい。
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