PONANZAの厳しい攻めに山崎叡王は長考連発
4月9日、岩手県平泉にある関山 中尊寺は汗ばむぐらいの暖かい陽気だ。小高い山の上にあるため、桜はまだ開花しておらず、観光客もそれほど多くはない。ゴールデンウィークあたりはかなり混むという。そんな春うららかな環境の中、昨年の電王戦FINALから一転、新棋戦である叡王戦を立ち上げ、その優勝者と電王トーナメントの優勝ソフトで対局する形となった第1期電王戦が行なわれた。2日制となり持ち時間は8時間とこれまでにない戦いとなったが、PONANZAの安定した指し手に対して山崎叡王は力尽きた。中尊寺で起こった2日間の出来事をお伝えしよう。
対局が行なわれたのは、本堂の裏手にある建物の大広間。ここに、例によって専用舞台を設置した。新電王手さんは成りの高速化(17秒から7秒程度に)と駒を挟むときの静音化を図ったバージョンに進化。ボディーは前回と同じ銀色に輝くタイプだった。
なお、第1局の模様はタイムシフト(有料)で視聴でき、今回からリアルタイムで棋譜が見られるので、ニコ生が見られないという人も棋譜だけで展開が楽しめるようになった。
先手のPONANZAは初手をなかなか指さず、14分考えて▲2六歩と飛車先を持ち上げる。人間では初手にこれだけ時間をかけることはないが、コンピューターソフトにはよくあることだそうで、設定した時間をめいいっぱい使って一手を考えた結果ということのようだ。
午前中は、PONANZAのほうが時間を使い指し進め、横歩取りの展開に。しかし、PONANZAは横歩を取らず▲5八玉と上がり、後手の山崎叡王も横歩は取らず。△8四飛と引いた。昼食休憩前に23手まで進んだが、ここから山崎叡王の長考が始まった。
昼食休憩後もしばらく考えた後に▲5五歩と伸ばしたが、その後も長考が多く、あっというまに持ち時間の差が2時間近くになってしまった。特に27手目▲6八銀に対して△3三銀を指すまで1時間以上時間を使っている。この手に対して、PONANZAはノータイムで▲3五飛。山崎叡王はすぐに△5五歩と反応した。
今回、中継している部屋は本堂横の建物、検討部屋は本堂裏の対局場所から離れた建物とそれぞれ離れていて、迷路のような廊下でつながっている。報道陣の控室は、金色堂よりさらに奥にある“かんざん亭”という食事処の2階なので、常時検討室の様子を見るということはできない。いつもと違うので、読み筋に関する盛り上がり感が伝わってこないのが残念だ。
ここで、少しPONANZAは考えたが、▲同飛と激しくなる手を指す。山崎叡王もすぐに△同飛とし、PONANZAは▲同角としている。この時点で16時、先手PONANZAが残り6時間27分、山崎叡王が4時間41分となっている。
1手間違えるとすぐにPONANZAに持って行かれてしまうので、かなり慎重に指さざるを得なく、時間をかなり使っている。1日目から激しい指し手になってきて、手数が少ない。人間にはちょっと不利な展開だ。
休憩明けは5筋の攻防となったが、37手目の▲8二歩成が検討している棋士たちには最初意味がわからなかった。しかし、この手がのちに今回のターニングポイントとなる一手となった。このあとの▲6五桂がかなり厳しいことが棋士たちにも判明し唸らせた。△同銀に対して▲6五桂を指され、考えこむ山崎叡王。17時20分すぎだったため、18時をすぎるまで考えて40手目を封じた。
コンピューター将棋ソフトが初めて体験する封じ手。普通は、1日目終了時間を過ぎたときに手番の棋士が封じ手の意思を示すことで行なわれるが、コンピューターにはそれができないため、18時を過ぎた時点で山崎叡王の手番のときに封じるという特殊ルールで行なわれている。コンピューターは、電源を切るのではなく休止のような状態にするようだ。この辺りはニコ生の技術チームとデンソーが調整したそうだ。
今回の検討室はプロ棋士の人たちと、4つのコンピューター将棋ソフト(nozomi、大樹の枝、超やねうら王、技巧)の開発者たちが集まり、それぞれのソフトで評価している。プロ棋士と開発者達との交流の場にしたかったようだ。これまでも、控室に開発者の人が独自にパソコンを持ち込んで検討する姿が見られたが、正式に検討ルームを作って、プロ棋士たちと開発者たちの意見交換の場が設けられた。
1日目終了時点の評価値はすべてPONANZAが優位で、技巧が725、大樹の枝が631、nozomiが411、超やねうら王が638と、ちょっと差がついてしまった。ちなみに、すべてのソフトが△3一角打が最良の手と示していた。