移住は難しくとも、気軽な人の流れを
廃校からテレワークと地方創生へ、高畠町の「熱中小学校」
2016年04月01日 06時00分更新
首都圏と地方を結ぶ「熱中小学校」
「熱中小学校」についてもう少し詳しく、設立はどんな経緯だったのか――?
高畠町の課題は、この春にも4つの中学校が統廃合されるなど、子供の数が減り、空き学校が増えていることだった。それを再利用しようと考えたのが、地元のNDソフトウェア社長の佐藤廣志氏。再利用にあたって相談を持ちかけたのが、日本IBMで常務取締役を務めた後、都内に「オフィス・コロボックル」という共創の場を創設した堀田一芙氏。廃校再生として両氏が描いた構想に高畠町も共感し、2015年、「もういちど7歳の目で世界を…」をコンセプトに、「大人のための小学校」として開校したのが、「熱中小学校」だった。
生徒は応募制で、第1期生は84名。2016年3月には新たに96名の第2期生を迎えた。佐藤氏が運営母体となるNPO法人「はじまりの学校」を立ち上げ、堀田氏がその人脈から、スペースマーケット CEOの重松大輔氏(校長)、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏(教頭)をはじめとした教師陣を招聘。
それぞれ国語、算数、理科、社会、生活、音楽、図工、家庭科、体育、道徳のいずれかを担当し、講演型から体験型まで個性的な授業を行う。本物の小学校と異なるのは、「生徒が大人」ということだ。
生徒は地域住民が主だが、4割は県外出身者だという。さまざまな出自の教諭と交流することで、地方と首都圏を結ぶ場を創るとともに、「地域との共生」として農業、「最新技術」としては3Dプリンタやドローンなどを学び、実践を通じて生徒の新たな扉を開いていく。
高畠町 企画財政課企画調整係 係長の八巻裕一氏によれば「使われなくなったぶどう畑の再生など、この町ならではのさまざまな授業を通じて、県外の人も巻き込むような取り組みにしている」とのこと。「熱中小学校」というコンテンツで外部から人を呼び、「授業」という形で自然と地元に触れてもらうことで、見事「ローカルブランドの育成」につなげているのだ。
今後は若者や起業家も増やすべく、起業家専門講座なども予定する。その一環として、2階にはサテライトオフィスを設置。すでに、大阪のIT企業「デジタルデザイン」、この場所を本拠にドローン事業を展開する「360度」、そしてIoTベンチャーとして鮮烈デビューした「ソラコム」の3社の企業誘致に成功。
八巻氏は「サテライトオフィスの貸し出しで収入源を作りつつ、安価な価格とすることで、高畠町に起業しやすい環境を創る。そうしてベンチャー企業と一緒に地域が成長していける仕組みにしたかった」と述べている。
その取り組みと併せて、入居しているデジタルデザインらとともに「地元での雇用創出」に挑んだのが、高畠町の「ふるさとテレワーク」である。「廃校再生ふるさとサテライト・プロジェクト」という名称で進められた。
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