社会貢献が根付いた暮らしに
残業や通勤時間が減った代わりに生まれたのが、こうした自由時間だ。1人あたり月間64時間にも上ったとのことで、主に家族との時間、自己啓発、地域交流、社会貢献に活用された。
「地域イベントに積極的に参加したり、宿泊施設で日曜日にアイロンがけを手伝う人もいたり。そうやって地域に認知されてくると、生きがいを感じて、それが仕事のやりがいにつながる。そんな好循環が生まれているようだった」(吉野氏)
それは、日常に社会貢献が根付くような感覚だったという。
実証実験では、観光・防災・子育て・ボランティアのアプリも開発した。例えば、子供の誕生日を登録すると予防接種などをプッシュ通知したり、災害時に近隣の避難所やルートを案内したりするものだ。これらはどの地域でも共通課題なので、横展開も視野に検証している。
移住者の視点でいえば「コミュニティ」がやはり重要だ。「移住で心配だったのは、自分は会社、子供は学校があるのに対して、専業主婦なのでコミュニティの接点がなかった妻のこと。家族のケアは移住のポイントだと思う。良かったのは、仕事が早く終わるので夜のコミュニケーションが増え、気持ちの変化をリアルタイムに感じられたこと。今では妻もうまくやっているようだが、現状では地域にコミュニティが点在していてバラバラなので、地方創生としては今後、多地域のコミュニティをつなげることも重要になるかもしれない」と吉野氏。子育てアプリには、ママ向けのコミュニティ機能も実装する予定という。
アプリは現状ではまだ役場と移住者に限定しているが、春を目処に、地元住民や観光客も自由に使えるように正式公開する。和歌山県としては「土地勘のない観光客への案内と津波対策の意味合いが大きい。情報提供手段が色々とある中で、有力な選択肢の1つにしたい」とのこと。その後はさらに、アプリの仕様をテンプレート化し、横展開できるよう他自治体にも公開する予定という。
このほか、白浜町の児童生徒を対象に、ゲーム感覚でプログラミングが学べる講座(Hour of Code)も実施した。累計150名以上が参加し、保護者からは「(こんな取り組みを)待っていました!」という声も。将来的には学校の課外授業として定例化できないか、教育委員会も交えて検討中という。
こうした社会貢献・地域交流がスタッフ個人でも積極的に行われた。Salesforce Villageでテレワークをしていた女性は「今朝は浜辺でヨガをしてから出勤した」という。もちろん「ペーパードライバーだったので移住当初は慣れなかった」という意見もあるが、「朝のモチベーションがとにかく高い」と吉野氏。暮らしは豊かになっているようだ。

この連載の記事
-
第8回
ビジネス
田澤由利氏に訊く「ふるさとテレワーク」が絶対必要なワケ -
第7回
ビジネス
北見市が進める人材回帰戦略、オホーツク海の「サケモデル」 -
第6回
ビジネス
廃校からテレワークと地方創生へ、高畠町の「熱中小学校」 -
第4回
ビジネス
県内全域へ、長野3市町村が切り開いた「地域テレワーク」 -
第3回
ビジネス
若者の「地元で働きたい」、テレワークで叶える大船渡市 -
第2回
ビジネス
テレワークで加速!会津若松で急成長する「データ分析産業」 -
第1回
ビジネス
人口急減、育児、地方創生――総務省「ふるさとテレワーク」の狙い -
ビジネス
「ふるさとテレワーク」は地方を救うか!? - この連載の一覧へ