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ITと東日本大震災、グーグルはいま何をしているか 第1回

災害時、オフラインになったら? 「IT災害訓練」してますか

震災から5年、グーグルは「まだまだ走り続ける」(未来形)

2016年03月09日 09時00分更新

文● 西田宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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左からグーグル プロダクトマネージャー 牧田信弘氏とエンジニア 賀沢秀人氏

 東日本大震災発生から、今年で5年を迎える。災害情報はもとより避難場所や安否確認の情報を伝達する手段として、テレビやラジオ、新聞といったこれまでのメディアに加え、Twitterやインターネットが多くの人々に利用されたことで「インターネットの力」が再認識されたことは記憶に新しい。

 その中でグーグルは本社をアメリカに置く外資企業でありながら、発生直後から災害情報をいち早く取りまとめるなど、日本の被災者にとって非常に重要な役割を果たした(関連記事)。地震発生から2時間弱というスピードで、名前や携帯電話番号を入力することで安否情報を検索できる「パーソンファインダー」を開始し、グーグルマップをベースにした「避難所情報」など、自社の既存サービスを活かし情報を提供し続けた。

 「世の中の情報を整理して使いやすくすること」を使命にしているグーグルが、当時どのように考え、動き、今にいたるのか、パーソンファインダーを含む「クライシスレスポンス」を現在でも担当する、牧田信弘氏と賀沢秀人氏のおふたりに聞いた。(以下本文、敬称略)

日米が連携し、2時間弱でサービス開始

 2011年3月11日14時46分、賀沢は愛知県豊橋市にいた。専門である言語処理の学会に参加するためだ。事の深刻さは、ソーシャルメディアやメールを介し伝わってくる。一方、グーグル社内では「テクノロジーを使ってどんな支援ができるのか」、かんかんがくがくの議論を始めていた。中心にいたのは、地震などの緊急災害に対応するクライシスレスポンスのチームだ。そして、まず最初にやるべきこととして注目されたのがパーソンファインダーだった。

パーソンファインダーとは

パーソンファインダー

 災害などで家族や知人などの消息が不明な場合、名前や携帯電話番号を入力することで安否情報を登録・確認・検索できるサービス。パソコン、スマホ、フィーチャーフォンで利用できる。

 2005年8月末、北アメリカ大陸南東部を襲った巨大ハリケーン「カトリーナ」の直後に、行方不明者名簿が複数のウェブサイトに乱立していたため、閲覧効率が悪かったといった事例があった。

 その後、2010年のハイチ地震発生直後にグーグルの4カ国、5つのオフィスの社員が、20%プログラムを活用して72時間で立ち上げたのが始まりだ。以降、2011年までに4度活用されてきた。

 2012年8月から「パーソンファインダー体験版」が公開され、常時試せるようになった。

 東日本大震災は5度目の活用例であり、本社クライシスレスポンスチームの応援もあり、立ち上げは地震から1時間46分後と非常に速かった。

 「実は、当時はまだ存在を知らなかったんですよね」と賀沢は話す。

 その裏では賀沢たち開発陣が、議論をしながらも、自分たちでできるところから、どんどんと改良を進めていた。パーソンファインダーが日本で使われるのはこれが初めてだったので、翻訳もいる。日本語の名前につきものである、同音での表記ゆれ検索も必要だ。当時被災地では、スマートフォンではなくフィーチャーフォンが多く使われていた。だから、各サービスがフィーチャーフォンから素早く確実に使えるようにしなければならない。

 「フィーチャーフォンの技術などは、日本のスタッフの方が良く知っていたので、日本側が中心になって開発が進みました」と賀沢はいう。当初はPC向けのみだったが、同日深夜には、フィーチャーフォンからも利用できるように改良が終わっていた。

グーグルのエンジニア気質がサービス改善を加速

 こうしたスピード感で動けた裏には、グーグルの企業文化が大きく影響している。グーグルには多数のサービスがあり、それを多くのソフトウエアが支えている。グーグルのエンジニアは、自分が担当していない部署のものでも、コードを自由に見て修正することができる。もちろんそれを査読する仕組みはあるのだが、思いついた人が触っていい、というエンジニアカルチャーの存在が、サービスの改善速度を上げるきっかけになった。

 賀沢も日曜には東京に戻り、開発を加速する。重複作業が起きないように交通整理が行われたうえで、多数の改善がボトムアップでおこなわれ、パーソンファインダーだけでなく、さまざまな情報を共有するためのツールが作られていった。賀沢ですら「グーグルで当時起きていたことのすべてを、把握できていなかった」という状況だ。

 パーソンファインダーには、正確で大量の情報が必要となる。震災直後の13日の段階では、携帯電話やPCから安否情報を入力できる人は限られている。圧倒的なニーズはあるにも関わらず、3000人分程度の情報しか集まっていなかった。

パーソンファインダーに登録するためにPicasaに寄せられた写真

 そこでこの時に導入されたのが、避難所などに集まる安否確認のメモや名簿を写真で撮影し、その後にデータ化してパーソンファインダーに登録していく、という仕組みだ。もともとは、グーグルの元社員がTwitterにつぶやいた思いつきなのだが、賀沢はすぐに飛びついた。現地にある情報を素早くデータ化するには有利な方法だったからだ。しかも、開発の手間もかからない。すぐにも実現できる状態だったが、13日夜になっても、公開は進まなかった。

 パーソンファインダーのプロダクトマネージャーとなっていた牧田は、そこにいったんブレーキをかけた側だった。どれもセンシティブな個人情報を含むものだ。法務も含めた扱いの確認も必要だ。「重要な情報だけに、混乱を生むこともありうる。責任重大なもの」と牧田たちは判断していた。だが、一刻を争うものであるのも事実だ。社内調整を可能なかぎり素早く進め、翌14日午前2時に、写真からの登録の仕組みが公開された。

 すると、登録量は一気に爆発した。情報が朝日新聞に掲載されたこと、グーグルの情報公開が、SNSなどで広く拡散されたことなどが理由だ。朝までに登録された写真は1000枚を超えており、「見るのも大変」(賀沢)な状況になっていたのだ。そこからのデータ化は、ソフトでできるものではない。人が写真を見て手入力することになる。グーグル社内にはボランティアもいたが、それだけで間に合うものではない。

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