今回のスーパーコンピューターの系譜は、CRAY X-MPを手がけたSteve Chen博士のその後をフォローアップしよう。その前に関係ない話題を1つ。
スーパーコンピューターが
エラーを起こす原因は宇宙線!
2月23日、IEEE SPECTRUMに“How To Kill A Supercomputer: Dirty Power, Cosmic Rays, and Bad Solder”という記事があがった。
IEEE SPECTRUMはIEEE(米国電気電子学会)の学会誌で、通常は学会員は無料で読めるのだが、一般人は有償になっている。ところがこの記事は珍しく無償で誰でも読めるようになっており、かつおもしろいので紹介しよう。ちなみに筆者はオークリッジ国立研究所でスーパーコンピューターの面倒を見ている人である。
記事の中身を要約すると以下のとおり。
- ローレンス・リバモア国立研究所のASCI Qは当初連続稼働時間が1時間未満だった
- バージニア工科大のBig Mac(アップルのMac G5を1100台集めたスパコン)はまともに稼動しなかった
- オークリッジ国立研究所のJagureは当初、基板上の電源モジュール不良が原因でネットワーク全体がしばしばダウンして使い物にならなかった
- ローレンス・リバモア国立研究所のBlue Gene/Lは、基板上の配線が理由で1次キャッシュの動作不良に陥った
いずれも直接的な原因は宇宙線である。ASCI QはアドレスバスがECC保護されておらず、ここに宇宙線が当たるとエラーを起こしてクラッシュした。
Big MacはそもそもメモリーがECC保護されていなかったので、システムが立ち上がる前にかならずどれか1台がメモリーエラーを起こし、まともに動作しなかった。
Jagureの場合、基板上の電源モジュールが宇宙線保護の対策を取っておらず、これが理由で突然あるノードが落ちる場合があった。悪いことに、Jagureのネットワークはあるノードがいきなりダウンすることを想定しておらず、これが発生するとネットワークの再構築のために再起動の必要があった。
BlueGene/Lは基板上の配線に宇宙線があたると、それが最終的に1次キャッシュの中身を破壊する(PowerPC 440コアは1次キャッシュのECC保護がされていなかった)結果になった。
解決策はいろいろである。ASCI Qの場合、キャビネット側面に金属パネルを追加したことで、クラッシュするまでの時間を1時間未満から6時間まで延ばすことに成功した。
Jagureの解決策は明記されていないが、おそらくネットワークのルーティングの方式を変更したものと思われる。BlueGene/Lは最終的に1次キャッシュを無効化して解決したが、性能は猛烈に悪化したらしい。
そしてBigMacはシステムを解体し、1100台のMac G5をそれぞればらばらに売却してしまった。バージニア工科大は代わりにECC保護機能の付いたXserve G5 serverを集約したSystem Xを構築している。
細かい話は記事を読んでいただければと思うが、猛烈な量のCPUやメモリーが集約されるスーパーコンピューターでは、宇宙線の影響が本気で無視できないことを示すエピソードである。

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