隙間時間の変化がデジタルカルチャーを変えていく
電車でスマホは古い? 通勤時間が変えるヒマつぶしの可能性とは
2015年12月15日 09時00分更新
新しい隙間時間が新しいデジタルカルチャーを生む
現代的なワークスタイルと、それにともなう“隙間時間”はここへきて変化をし始めている。つまり、デジタルカルチャーも変わる可能性を持っているということだ。
いま、「新しい働き方」が大流行である。筆者の周囲でも“新しい働き方”を模索するためのセミナーを定期的に開催している知人がおり、若者たちを中心に毎回かなり盛況のようだ。筆者自身も2011年から完全に自宅で仕事をしている。これだけテクノロジーによるライフスタイルの変化が喧伝されるにもかかわらず、ICT(Information and Communication Technology)の活用によってワークスタイルの劇的なシフトが起こらないのは不思議で仕方がない。
それでも、総務省などの旗振りで「テレワーク」(在宅勤務)の推進施策などが実施されているようだし、民間レベルでもテレワーク奨励に向けて具体的な行動に出始めた有力企業も多い。日本マイクロソフトは「ワークスタイル変革のリーディングカンパニー」のスローガンを掲げ、実験段階ではあるものの、国内の651社の賛同法人と共同で「テレワーク週間 2015」という試みを主導している。
通勤に関しては自転車通勤という潮流も見逃せないだろう。就業規則や社内規定の関係からか、明確な利用者数の計測は困難なようだが、クロスバイクやロードバイクの販売台数の増加などを見ると、決して一時的なブームと言うわけではなさそうである。米国ではニューヨーク市でも自転車通勤が激増しており、2013年の時点で利用者は4万6000人に上るという(日経産業新聞)。「全米で最も住みたい街」と言われるオレゴン州ポートランド市では、通勤人口の6.1%が自転車通勤となっている。
今後、少子高齢化と総人口減少による就労人口(≒通勤人口)の暫時的縮小は避けられない。加えて自転車通勤の拡大、テレワークの本格的普及が進行していくと、おのずとワークスタイルが変化し、同時に“隙間時間”の質と量も変容していくはずだ。同時に画一的なワークスタイルが生み出す“隙間時間”に依拠しているコンテンツ産業も影響を受けざるを得ないだろう。
自転車通勤は、当然のことながらその最中はスマホなどへの接触はほぼなくなる。さらにテレワークによって気忙しく分散する“隙間時間”が合理化されれば、それはまとまった「余暇時間」になる。そうしたとき、数十分ごとにコンテンツを切り替えるスマホでの「気散じ」は、より長時間にわたって集中力を要する読書や映画といったメディアへの回帰を促す可能性がある。
はたまた、新しい“隙間時間”に最適化された新しいデジタルカルチャーが誕生しないとも限らない。
著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。
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