動作周波数はTDP 60Wならば3GHzが妥当
90W以上なら4GHzも可能
3つ目が動作周波数の話である。前回筆者は3GHz程度だろう、という予測を立てたのだが、この数字についてもう少しきちんと説明しておく。
まず動作周波数を考える際に考慮すべきことは、どのくらいの消費電力を想定するかである。現在のAMD製品の場合、Kaveri/GodavariのA10-7850K/A10-7870Kがどちらも95Wのレンジになっているが、筆者の3GHzの推定はもう少し低い65Wレンジの数字である。
これは22nm未満のプロセスが、いずれもハイパフォーマンスからローパワーにシフトしていることを反映しての数字である。
以前インテルに関しては少しだけ考察したが、インテルの14nm、そしてTSMCの20LP/16FF/16FF+、Samsung/GlobalFoundriesの14LPE/14LPPというすべてのプロセスはモバイル向けのものであり、ハイパフォーマンス向けの先端プロセスは事実上存在しない。ただし例外もあるので、これは後述する。
この結果、これらのプロセスで製造したSoCはおおむねTDPで50~60W(コアあたりで10W前後)までは比較的良い性能/消費電力比を保つが、その先は急速に消費電力が増えてしまい、性能/消費電力比が急速に悪化する。このギリギリのポイントがだいたい3GHz程度になるだろう、というのが筆者の推定である。
逆に言えば、消費電力が急増するのをいとわなければ、さらに動作周波数は上げられる。もともとAMDの場合、FX-9370/9590というTDPが220Wの代物があるわけで、これと同等で構わなければ4GHz超えも不可能ではないだろうし、AMD FX-8350/8370の125Wを許容できるなら3.5GHzは固いだろう。
ただ、少なくともインテルのCore i7-6700K並みに91Wで4GHzの常時稼動が可能か? というと非常に難しいだろうと想像される。
動作周波数/消費電力ではKaveriベースのA10-7870Kがベースで3.9GHz/95Wを実現しているが、これは高速動作に振ったSteamrollerコアと、GlobalFoundriesがAMDのみに提供する28nm SHP(Super High Performance)プロセスの組み合わせで初めて実現したものだ。Zenの世代にはここまでの動作周波数は不可能だろう。
動作周波数に関してはもう1つ議論がある。それはZenのFO4をどのあたりに設定するかである。FO4については連載237回で解説したが、パイプラインの1段に詰め込むロジックをどの程度に設定するかである。
端的に言えばFO4が少ないほどパイプライン1段の処理時間が減り、結果として動作周波数を上げやすいが、その一方でパイプライン段数が増えることで全体としては回路規模が大きくなり、また消費電力(特にリーク電力に起因する静的な消費電力)が大きくなる。
一方FO4を大きくすると、動作周波数こそ上げにくくなるが、パイプライン段数も減るため回路規模はやや小さくまとまり、消費電力は低めに抑えられる。
さて、Zenはどちらを取るだろう? 2011年のISSCCでAMDは、Bulldozerは32nm SOIプロセスで高速動作を実現するために、K10と比較してFO4の数値を20%削減したとしている。
Bulldozerはそもそも同じダイサイズでより多くのコアを搭載するために独特のコア/モジュール構成を取ってデコーダーのダイエリアを節約した。
ただし、そのままでは性能が落ちるので動作周波数を上げて補うというアプローチだったため、インテルのNetburstと同列に比較してはいけないのだが、それでも結果は似たり寄ったりだったわけで、Zenが4命令のパイプラインを持つのはある意味反動というか、インテルのCore系と同じ方向性と思われる。
であれば、やはりFO4をあまり減らして動作周波数を引き上げる方策は採らないと思われる。おそらくK10世代、あるいはARMのCortex-A57/72とそう大きく違わないFO4になると筆者は推定している。必然的に、動作周波数も似たレンジになるだろう、ということだ。
ちなみにこの推定値についてはWaldhauer氏からおもしろい資料を教えていただいた。それはARM Researchの主席専任研究員Matt Horsnell氏が英ケンブリッジ大のコンピューターラボで2013年に行なったセミナーの付属資料である(PDF)。
おそらくは、主にARMの製品をターゲットにFO4の値を加えたものと思われる。ただこれにはどうみてもCortex-MやCortex-Rなども含まれていると思われる。でないと数が合わないからだ。2010年前後にあるFO4の数字が大きいのは、こうした製品と思われる。
逆にCortex-A57やCortex-A72がこのグラフに含まれているようには見えない。この前の製品といえばCortex-A15とA12(後のA17)なので、これが設計を完了した時期は2009年前後になり、FO4の数字は20~30の範囲に思える。
したがって、大雑把にいってZenのFO4は25前後に落ち着くのではないかと筆者は予測している。
以上のことから、筆者はZenの動作周波数を3GHz程度と予測しているが、繰り返しになるがこれはSoCのTDPを60W程度に抑えた場合の数字である。
90Wまで引き上げれば3.3GHz程度の連続動作は可能かもしれないし、Turbo Coreのような技法を使えば瞬間的には4GHzまで引き上げることも無理ではないかもしれない。
ただ、このあたりはSoCの構成次第なので、現時点であまり数字を出すことには意味がないと筆者は考えている。
この連載の記事
-
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第789回
PC
切り捨てられた部門が再始動して作り上げたAmpereOne Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第788回
PC
Meteor Lakeを凌駕する性能のQualcomm「Oryon」 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第787回
PC
いまだに解決しないRaptor Lake故障問題の現状 インテル CPUロードマップ -
第786回
PC
Xeon 6は倍速通信できるMRDIMMとCXL 2.0をサポート、Gaudi 3は価格が判明 インテル CPUロードマップ - この連載の一覧へ