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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第11回

第14巻『コンピューターがネットと出会ったら』監修者インタビュー

夢を叶えるには現実を見よ TRONプロジェクト坂村健博士かく語りき

2015年12月12日 18時00分更新

文● 盛田諒、小林久 写真●Yusuke Homma(カラリスト:芳田賢明) 編集●村山剛史/ASCII.jp

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夢を見ながら、現実を見なさい

── 10年、20年先を見据えて30代を生きろってことですね! いま坂村先生が30代だったら、どんなことをしたいと思いますか。

坂村 あのね……。夢を見るなら10年先なんて考えちゃダメ! 30年先をやらないと。

── 失礼しました。2045年にできるビジネスというと……なんでしょうね。

坂村 「IoT」はやることが残っていますよね。ユビキタスコンピューティング関係は、ようやくビジネスになりそうになっています。それから「ビッグデータ解析」。モノがネットにつながり、大量に集めたデータを解析できるようになってきた。それもこれから。解析の方法が、昔ならたんなる統計処理だけど、いまならたとえばディープラーニング、人工知能なんかもあるでしょう。

── 人工知能! 30年前からワードとして上がるのに、本当に実現する日なんてくるの? と思われてきた技術の典型ですね。それが、いま再びブームを迎えている。

坂村 30年前と現在の環境で決定的に違うことがあるんです。それはインターネット。当時はインターネットがなかったからデータを集めることが非常に困難だったのです。いまグーグルがやってることはすごいですよ。グーグルは写真を容量無制限にオンラインストレージに上げていいと言っている。なぜだか分かりますか?

 これは大量に集めた写真を分析して応用するためです。もちろんプライバシーにかかわるので人間が見るわけでなく、あくまでプログラムが膨大な画像データとして処理するだけです。そうして推測して、結果を写した本人に戻して違っていれば修正してくれとやれば、ネット経由で大量の「正解」も手に入る。そうしてニューラルネットを訓練することで、画像だけで撮影した場所を推測するといったことができるようになる。

 あるいは記念写真を撮ったのに、後ろに余計な人がいて、肝心の風景が写らなかった場合でも、そこにあるはずの風景を推測して補ったりできる。つまり大量に集めた写真を使い、写せなかった「穴」を類推するわけです。そんなことができるのは元になる膨大なデータがあるからでしょう。

 こういう写真の合成・補完技術はず~っと昔からあったものだけど、実際に利用するには自分で大量の写真を撮りにいかなきゃいけなかった。そんなことがなぜできるようになったかといえば、インターネットを使って大量のデータを集め、処理して、応用できるようになったためです。もちろんハードの進化がこれを支えている。

 言ってしまえば、ハードが大事といわれたところから、ソフトが大事、コンテンツが大事、そしてデータを大量に集め、どう処理するかが大事という時代になった。インターネットによって、そういう環境が整ったからなんです。

2015年5月にスタートした無料の写真ストレージ「Google フォト」。写真の内容を自動判別してタグ付けする機能を持つ

── やはり環境が整うまで、地道に努力を続けたほうがいいと。いまは無理だと思えることほど挑戦したほうがいいということですかね。

坂村 ただ覚えておいてほしいのは、挑戦することを頭に留めながら、現実的に生きないと生活が成り立たないということです。思いつけば、上手くいくという話じゃない。確固たる信念を持ちながら、チャンスを待って、上手くいきそうになったとき思いきりそっちに集中するようにしないと。

 30代というのは、世の中というのはそう思い通りにはいかないということをわかり始める時期でもあります。

── 自分の限界がわかり始めるということですか。

坂村 限界というより“できないことがわかってくる”。それはその人によりますけど、そういうこともわかってきます。チャンスをものにできる人は、現実を認識できている人です。夢だけ見て成功できる人はいません。

── 現実を見る。なぜ人は現実を見られなくなってしまうのでしょうか。

坂村 失敗するのは勉強しないパターンですね。一番まずいのは、むかし勉強していなくて、いまも勉強していない人。でもね、そういう人でも30代なら、まだ手遅れじゃないと思います。逆に30代の前半くらいで勉強するほうが、10代に勉強するよりよかったりする。

 忙しい、忙しくないは関係ありません。本人の意思ですよ。ダイエット本には「毎日ハードトレーニングしろ」とは書いてないでしょう。10分でいいからやれというんです。10分できる人はスタイルがよくなるし、むしゃむしゃ食べ続けるだけの人はデブになるということです。

── 「勉強しなきゃ」と思いながらも、なかなかできないのはなぜなんでしょうね(苦笑)

(次ページでは、「仕事しながら勉強はできる」)

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