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2ケタ成長する顧客分野での戦略、エンタープライズ事業部門幹部が語る

デル、新部門DSSで狙う“ローハイパースケール”市場とは

2015年10月13日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 米デルでは今年8月、エンタープライズ・ソリューションズ・グループ(ESG)内に新部門「Datacenter Scalable Solutions(DSS)」の設立を発表した。発表によれば、DSSでは高いサーバー需要が見込まれる業界向けのビジネスに特化し、そのニーズに応えるソリューションを提供していくという。

 9月に来日したデルESGの幹部、ブライアン・ハンフリーズ氏に、DSS新設についての詳しい背景や、エンタープライズ市場における今後の狙いを聞いた。

米デル エンタープライズ・ソリューションズ・グループ ワールドワイド・セールス&ストラテジー担当プレジデントのブライアン・ハンフリーズ(Brian Humphries)氏

“ローハイパースケール”市場にセミカスタム製品を提供するDSS

 デルではすでに2007年から、大規模なサーバー需要を持つ顧客に対応する組織としてESG内に「DataCenter Solutions(DCS)」を設立し、ビジネスを展開してきた。DCSは、各社独自の要件に合わせたサーバーをフルカスタマイズで設計、生産し、グローバルなサプライチェーンを通じて供給する組織だ。

 「DCSでは、たとえばマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、アマゾン、イーベイ……アジアならばテンセント、アリババ、バイドゥといった“ハイパースケールプロバイダー”向けのビジネスに特化している。ほかのITベンダーに先駆けて、こうしたニーズに対応する組織を立ち上げた」

 大量のサーバーを導入するハイパースケールの顧客は、それぞれのインフラに最適化された、固有のアーキテクチャのサーバーを求めている。したがってこの市場では、顧客固有のニーズに対応してフルカスタマイズで製品を提供できることが重要なのだと、ハンフリーズ氏は説明する。

 このDCSにおける約8年間の経験を生かし、今回新たに立ち上げたDSSでは、ハイパースケールよりもひと回り小さな規模の顧客(“ローハイパースケール”)向けのビジネスを展開していく。具体的なターゲット顧客は、WebテクノロジーやEコマース、オンラインメディア、通信サービス、ホスティング、エネルギー、大学/研究機関などだ。

DSSでは、ハードウェアのカスタマイズだけでなくデータセンター設計支援などの多様なサービスを顧客に提供していく

 デルによれば、このローハイパースケール市場は従来のx86サーバー市場比で3倍のスピードで成長しており、現在の市場規模は約60億ドル、今後も年間2ケタ成長が見込まれる。

 「この分野にもハイパースケール分野と同じようなニーズがあり、同じようなかたちで調達を行いたいと考える顧客が多くいることがわかった。そのニーズに応えていくのがDSSだ」

 具体的には、たとえばサーバーのHDDや電源、冷却周りの構成をカスタマイズしたい、自社が採用するOSを認証してほしい、通常とは異なるサプライチェーンを構築してほしい、といった顧客ニーズがあるという。

 「数カ月前から事業活動を始めたDSSも、現段階ですでにグローバルで100を超える顧客を獲得できている。現在では、デルにおいて最も成長が著しいビジネスの1つになった」

 ハンフリーズ氏は、今後2年間にわたりDSSへの投資を大きく強化していく計画だと語った。日本市場でもDSSのビジネスはスタートしており、大型案件も獲得しているという。「過去6カ月間、日本のチャネルパートナーやSIベンダーに対する投資を積極的に行ってきた。今後も投資を継続するとともに、組織体制の強化も検討している」(同氏)。

サプライチェーン、サポートまでトータルにカバーできる強みを生かす

 DSSでは「セミカスタマイズの」ソリューション提供を行う。そこが、フルカスタマイズ志向のDCSとの大きな違いだ。また、DCSのノウハウに基づき設計されている量産型サーバー「PowerEdge Cシリーズ」(関連記事)のビジネスとも異なる。

 「たとえばDSSの顧客であるインドのEコマース事業者、フリップカートでは、『PowerEdge FX』アーキテクチャをベースにDSSのエッセンスを加えることで、顧客固有のニーズに応えている」とハンフリーズ氏は語る。日本でも、名前は明かせないがすでに著名な大手Eコマース事業者がDSSの顧客だとした。

インドのEコマース事業者、FlipkartもDSSの顧客

 ハンフリーズ氏は、この市場におけるデルの強みは、エンドトゥエンドのデータセンターソリューションを提供できること、ヘテロジニアスなクラウド/ハイパーバイザ環境に対応していること、サーバーやソフトウェアのみならず、物流やサプライチェーン、サポートサービスまで、顧客の要望をトータルにカバーできることなどだと語った。

 「たとえば、アジア域内では東京を含め4カ所のソリューションセンターを持っており、顧客にPoCやデモのための環境を提供できる。またアジア域内には71カ所のスペアパーツセンターがあり、製品導入前だけでなく導入後の保守までしっかりケアしている。これがODMやホワイトボックスのベンダーとの大きな違いだ」

 そのほかにも、SAPやマイクロソフト、オラクルなど特定のワークロードに適したリファレンスアーキテクチャを提供する取り組みも、昨年から開始している。日本においても、チャネルパートナーやSIベンダーにこのリファレンスアーキテクチャを提供することで、パートナー経由での販売を活性化する成果が見られているという。

「5年前のデルとは大きく変わったことを認識してほしい」

 ハンフリーズ氏は、デルが2013年のプライベートカンパニー化(非上場化)を機に大きく変わったことを繰り返し強調した。「5年前のデルとは大きく変わっている」(同氏)。プライベート化によって、投資家の要求に左右されない長期的視点に基づく投資が可能になり、それが結実したひとつがDSSだという。

 「HPやレノボ(旧IBMサーバー部門)といった競合は、大きな体制変更が生じているために現在はフォーカスが内向きになってしまっている。一方で、デルは100%顧客にフォーカスできている」

 また、ニュータニックスのソフトウェアを搭載したスケールアウト型アプライアンス「Dell XC シリーズ」も好調であることなどを挙げ、データセンターが“Software-Defined化”するという市場変化をデルがうまく先取りしており、大きなチャンスがやって来ていると述べた。

 「Software-Definedインフラの世界ではサーバーが大きな役割を果たすが、デルはPowerEdgeという強力な製品を持っている。さらに、これからの市場では(ハードウェアからソフトウェアまで)よりオープンかつトータルに提供できるベンダーが生き残る。これまで強かった専業ストレージメーカーの株価が低迷するという動きもあるが、デルのような総合ソリューションベンダーは好調だ」

 ハンフリーズ氏は、市場にデルが追いついたのではなく「デルが一貫してやってきたことに市場が追いついてきた、と見ている」と語る。

 「デルは劇的に変化した。100%顧客にフォーカスしている。直販だけでなくパートナー経由でも、顧客の望む形で商品を提供している。デルに対する従来のイメージ、見方をぜひ変えてほしい」

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