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“ブームとしてのIoT”を終焉させる国産IoTプラットフォームの正体

星の数あるIoTデバイスをつなぐSORACOMの全貌

大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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フェアネスや定期的な値下げなどAWSの哲学を色濃く受け継ぐ

 基地局を借り、クラウド上の交換機とつなぐことで、自らが通信事業者となったSORACOM。コスト面での秘密は、やはりクラウドにある。「ユーザーになって思うのは、改めてクラウドって安いなと。基地局や専用線のコストはかかりますが、今回のような競争力の価格でサービス提供できるのはクラウドのおかげ」と玉川氏は語る。

 SORACOMは設計思想という点でもAWSに多大な影響を受けている。たとえば、多くのユーザーでインフラを効率的に共有するという「シェアードエコノミー」の考え方は、通信事業者から借り受けているモバイル回線や専用線で適用されている。「遅い回線は安く、速い回線は高めに。あるいは夜使う分を安くしたり、下りより上りの回線を安くしているのは、お互い譲り合って、みんなにとってWIN-WINになるサービス設計から来ています」(玉川氏)。また、ユーザーの伸びと共に利益を顧客に還元する定期的な値下げも検討している。これもAWSのサービスに色濃く根付く思想だ。

 バックエンドのシステムは移動通信の標準規格である3GPPの仕様に基づいて開発。AWS上に各コンポーネントを実装しつつ、既存の交換機とは異なるスケーラビリティと信頼性を意識したという。ハードウェア冗長化を追求する既存の交換機と異なり、クラウドをベースに障害に強いシステムを作ったのも特徴。ソラコムの安川健太CTOは、「『デザインフォーフェイラー(Design For Failure-障害発生を前提としたデザイン)』というAWSの哲学をベースに、壊れた時のリカバリをいかに速くするかを意識しました。IoTの場合、コネクションの数が膨大になるので、各ノードでさばける数は絶対に頭打ちになります。単一ノードで終端する数を意識しながら、セッション情報を確実に渡し、横にスケールできるように作りました」と語る。

「Design For Failureのようなデザインを意識しつつ、横にスケールできるよう作りました」(安川CTO)

 とはいえ、机上のプロトコルやシステムを実際に動かすのは、それなりの苦労もあったようだ。「オフィス近くの多摩川を渡るとハンドオーバーの実験ができるということで、安川は多摩川の橋を何度もいったり来たりしていました(笑)」(玉川氏)とのことで、半年間でさまざまな試行錯誤を行なった。ユーザーを巻き込んだプライベートβテストでたたき上げたこともあり、すでに実用的なサービスに仕上がっているという。「今までクラウド側とデバイス側の人たちはお互いの姿が見えなかったと思う。SORACOMはまさにその間に入って、両者をつないでいきます」と安川氏は語る。

ブームとしてのIoTを終焉させる起爆剤になるか?

 取材後、「地上と宇宙をつなぐ宇宙エレベーターみたいなサービスですね」と大谷が感想を漏らすと、玉川氏は初めてSORACOMロゴに込められた思いを語ってくれた。「SORACOMのソラは宇宙の“宙”で、ロゴの星は無数のIoTデバイスを意識しています。SORACOMのお客さん、パートナーさんはそれらをつないで、おのおのの星座を描くことができるんです」(玉川氏)。新サービスもすでに開発中とのことで、IoTサービスを目論む多くのユーザーが課題に感じる部分をSORACOMが次々と解決していくという。

「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」を謳うソラコム

 「突飛すぎない現実的なIoT向けサービスが、正しいタイミングで出てきた」。これが大谷の率直な感想である。交換機をクラウド上に実装し、自らが通信事業者になるというのは新しい発想だが、日本が世界に誇る高速なモバイル通信網を安価に、フェアに提供するというのは、既存の課題を解決する実に現実的な選択肢だと思う。実際、5Gと呼ばれる次世代のモバイル通信規格では、膨大なIoTデバイスに対応した通信規格や交換機のクラウド化などが盛り込まれる見込みとなっており、SORACOMはそれを見事に先取りした感がある。クラウドの登場でITの世界が大きな変革したのと同じように、“ブームとしてのIoT”を終焉させる起爆剤になりうる存在として期待できる。

 今後はグローバル展開も視野に入れる。「モバイル通信は世界で規格が決まっており、われわれのインフラはAWSで動かしているので、世界のどこにも持って行ける。ローカルキャリアと連携して、サービスを提供したり、ローミングという形で提供することも可能だ。どこでもIoTがつながようなプラットフォームに仕上げていきたい」と玉川氏は抱負を語る。

「どこでもIoTがつながようなプラットフォームに仕上げていきたい」(玉川氏)

 ビジネスプランを書き起こしたプレスリリースが生まれてから半年。玉川氏の想いはようやく大きな一歩を踏み出した。玉川氏は、「AWSが出てきて、Webサービスを作るのが劇的に楽になり、開発者の夢がかなうようになった。SORACOMもIoT分野におけるそういったプラットフォーマーになりたい。SORACOMがあるから、こんなことができたと言ってもらえる存在になりたい。クラウドとSORACOMがあるので、あとはコーディング能力と気合いとパッションで、世の中に役に立つモノをどんどん作ってもらいたいです」と語る。

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