産業界のキーワード“インダストリー4.0”ではICTのうちのC、つまり通信(Communication)が重要な役割を果たす。ファーウェイの西欧州ソリューションマネジメント担当ディレクターのジジン・ルオ(Jijun Luo)氏に同社の戦略、そして世界のインダストリー4.0の動向、世界から見た日本などについて話を聞いた。(以下、敬称略)
クラウドやIoTへの研究や投資はすでに進んでいる
――ファーウェイはいつからクラウド、IoT戦略を展開しているのか?
ルオ IoTのコンセプトそのものは新しいものではなく、ファーウェイは以前からこの分野の研究を行なってきた。われわれの戦略は、数年前に開始した”PIPE Strategy”であり、モメンタムを構築しようとしてきた。これは、物理とデジタルの両方の世界を統合することで加速するICTのトランスフォメーションへのファーウェイの回答となり、クラウドベースのデータセンターインフラ、インフラネットワーク、インテリジェントなターミナルなどの技術が含まれる。
合わせて、次世代の通信標準となる5Gのリサーチも積極的に進めている。5Gについては2009年という早い段階から取り組みを開始し、デジタル化されたビジネス環境を支援する。
IoT戦略を公式の場で発表したのは、2015年の「Huawei Analyst Summit」だ。現在のフォーカスはトランスポーテーション(運輸)、製造、エネルギー、ホームの各業界だ。新しい産業革命のイネーブラーになるというのが目指すポジションで、世界的に展開するパートナー戦略で実現していく。ここでわれわれは”1-2-1 IoTソリューション”ーー1つのIoT OS「LiteOS」、無線と有線の2つのアクセスモード、1つのIoTプラットフォームーーとして、ICT技術と業界の統合を進めていく。
――どのような提携があるのか? どの程度の投資を行なっているのか?
ルオ 欧州のインダストリー4.0を加速するような提携を進めている。ここ数ヶ月で公式に発表したものとしては2つある。1つめはSAPで、運輸、オイルとガス、製造などの業種向けにインダストリー4.0向けのソリューションを提供する。2つめはSIコンサルのFraunhoferで、共同でインダストリー4.0のシナリオを研究開発する。
5月に欧州でEuropean Research Instituteを立ち上げた。欧州の提携企業とウィン・ウィンの協業を行なう場となり、われわれが欧州の複数の国にもつ研究開発施設を統括する。5G、IoT、コネクテットカー、eヘルスなどにフォーカスする。また、社内で2000人の社員がIoT事業の研究開発にあたっている。
IoT向けOS「LiteOS」の役割と最新の事例
――IoT戦略におけるLiteOSの役割は何か? LiteOSはどのような端末で利用されると想定しているのか?
ルオ LiteOSはファーウェイのIoT向けOSだ。われわれが開発した技術で、容量は10KB程度、もっとも軽量なIoT OSとなる。設定は不要で、セルフネットワーク、クロスプラットフォームなどの特徴を持つ。もっとも高速で、エネルギー効率にも優れる。
われわれはLiteOSプロジェクトをオープンソースシステムとして進める。パートナー企業はLiteOS上に自分たちのIoT製品を構築できる。
LiteOSは、「Agile IoT Gateway」「Agile Contoroller」とともにわれわれの“Agile IoTソリューション”の一部となる。Agile IoTソリューションは世界初のSDNベースのソリューションで、ネットワークの管理とメンテナンスを容易にしつつ、オブジェクトがインターネットに接続してやり取りするのを実現する。
端末としては、スマートカーからスマートウォッチ、歯ブラシとさまざまなもので利用できる。すでに「Huawei Mate 7」(スマートフォン)や「Huawei Watch」(スマートウォッチ)で利用している。
――IoTの事例はすでにあるのか?
ルオ オランダのアムステルダム市のスマートシティソリューションの1つとして、スタジアム「Amsterdam Arena」とサッカーチームのAjaxがわれわれのスマートスタジアムソリューションを実装している。欧州ではこのほか、ドイツの通信事業者T-Systemsとは同社のパブリッククラウドとITで協業しており、Audiとは車のインターネット向けのアプリケーションと開発を共同で促進する。また、中国では、SAP、NXP、コンサルCCIDなどと提携して”Industry 4.0 Spark Team”をローンチした。
――これまでの通信事業者が顧客だったが、IoTではそれ以外の業界も対象となる。新規顧客にどのようにしてIoTソリューションを提供してくのか? 日本での市場戦略は?
ルオ ファーウェイはグローバルのイノベーターであり、責任ある企業市民だ。ビジネスパートナーとしても信頼されている。われわれは生きた研究というアプローチを利用して、ユーザー中心のオープンなイノベーションシステムに貢献する。業界の需要の拡大に合わせて、リアルタイム、オンデマンド、常時オンライン、DIY、ソーシャル体験を提供する。
通信キャリアも企業も、今後ますますアジャイルでオープンなネットワークの必要性が高まる。クラウドデータセンターを中心に据えることは重要となり、ファーウェイはサービス主導の分散型クラウドデータセンター、通信事業者のインフラネットワークのクラウド対応などの業界のトレンドにあうソリューションを開発している。これは日本市場でも同じだ。
――ドイツの“インダストリー4.0”など、いくつかの国では政府が積極的に主導している。このような政府の後押しと実際のIoTやインダストリー4.0との発展とに相関関係はあるのか?
ルオ “Industrie 4.0”は、ドイツ政府が企業に対しプロセスのデジタル化を進める必要があるという課題への認知を図る役割を果たしている。同様のイニシアチブは、米国では“Industry Internet”、中国では“China Manufacturing 2025”として両国の政府により進められている。ドイツはIndustrie 4.0というコンセプト名をいち早く打ち出し、プロセスのデジタル化になにが必要かという点で重要な貢献を行なっている。ファーウェイもドイツの提携企業とともにこのプロセスを加速していくことにフォーカスしている。一般的には、企業のイニシアティブと政府の奨励・政策の両方が進むことで、業界にポジティブな効果が加速する。
だが“インダストリー4.0”はグローバルな動きであり、デジタル化の課題への取り組みの成果を指標化する目的でファーウェイは「Global Connecivity Index(GCI)」を発表している。デジタルへのトランスフォーメーションを実現する要素として、データセンター、クラウドサービス、ビックデータ、ブロードバンド、IoTの5つがエネーブラーになる。GCIでは、トップは米国となり、途上国ではチリ、中国などがリードしているという結果になった。ICT投資が20%増加するとGDPが1%アップするということもわかった。これらのことを包括的にまとめたレポートとなる。
IoTやインダストリー4.0分野での日本の役割
――IoT、インダストリー4.0という点で、世界から見た日本の状態は?
ルオ 日本は、IoTのいくつかの分野で世界をリードしている。高度道路交通システム(ITS)、自動計算モジュールを搭載した自動販売機、乳牛の健康管理など農業で活発に活用されている。
グローバルな視点で見た場合、IoTとインダストリー4.0はインターネットを従来の垂直産業向けに拡張する取り組みといえる。多くの業界や分野が関連しているため、進展はゆっくりで、各国における政策や産業モデルによってアプローチも異なる。日本においては前述のような分野において取り組みが進んでいる一方、セキュリティを除くスマートホームなどの分野は進化する余地があるかもしれない。
日本はIoT先進国であり、世界のIoT技術の発展にさらに貢献できる。そのためには、日本政府がより積極的にIoTやインダストリー4.0を後押しする政策をとったり、多くの国内外のプレイヤーの参画を促すエコシステム形成をサポートするとよいようにみえる。さらに日本企業が世界各地のIoT産業組織や地域の業界団体などで積極的に貢献すれば、IoTソリューションの国際競争力や輸出力の向上にもつながるのではないか。これは総務省が打ち出す「ICT成長戦略」とも一致している。