過去情報の価値を教えてくれた「未来へのキオク」
そうなると重要になるのは、情報がどう蓄積されていくか、ということだ。人は最新の情報を求めるものだが、最新のものだけが情報というわけではない。すでにグーグルが蓄積している「過去の情報」をどう提示するかも、大切な要素となってきている。
それをグーグルが強く理解し、サービスに展開した例がある。それが、東日本大震災後に展開された「未来へのキオク」プロジェクトだ。この試みは、震災前に撮影した写真や映像の投稿を募り、Google マップ上に展開することで、震災前、そこにどのような風景と生活があったのか、ということを残すことを目的としている。
Google マップの機能の一環として「ストリートビュー」がある。グーグルは独自に車を走らせて、世界中の街角を撮影している。Google マップ上からそれを見ることで、我々は、実際に足を運ばなくても、その土地がどのような場所なのかを、大まかに知ることができる。東日本大震災の被災地も、当然ながら、被災前に撮影したストリートビューのデータがあった。
震災後、グーグルには被災地から多くの電話が寄せられたという。
「被災前の過去のストリートビューを消さないで欲しい」というものだ。
震災により、過去の風景は消えてしまった。だがGoogle マップを開けば、そこには被災前の懐かしい風景が広がっているのだ。データの更新によって消えてしまうのは、あまりに辛いことだった。
それまでグーグルは、過去のデータを一般に公開したことがなかったという。だが、被災者からの声に押される形で、ストリートビューのデータは被災前のものも残した。
2011年7 月には改めて、ストリートビューによる被災地域のデジタルアーカイブプロジェクトをスタート。夏から約半年かけてのべ4万4000kmを走行し、被害の大きかった東北地方の沿岸地域や主要都市周辺を撮影した。現在、「未来へのキオク」には、2011年3月の被災前のもの、2011年7月の被災直後のもの、そして2013年に撮影されたものと、複数の時代の風景が、ストリートビューを介して見られるようになっている。
こうした活動からは、「過去の姿が人々にとって大きな価値を持つ」ということが見えてきた。そのため現在は、ストリートビューの基本機能のひとつとして、同じ場所で撮影された過去のストリートビューも見られる「タイムマシン機能」が用意されている。
これも、グーグルの考える「その時々に応じて適切な形で見せる」という役割に叶うものだ。
後藤さんは「グーグルの持っているデータ量はまだまだ足りていない。画像も限られたところしかない」という。彼らの理想とする世界はまだはるか先だ。
「グーグルは世界をもっと理解したいんです。どこに何があるかを完全に知りません。世界の路地裏の名前を、その土地の人は知っているかもしれないんですが、我々はまだ知らないんです。世界はわからないことだらけです。それをいかに地道に収集していくか。これは、グーグルの大事なミッションのひとつです」
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